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09幼馴染の想い

湖の中心に浮かぶ王宮が見える場所に、ジュリアとシリウスは静かに立っていた。

王宮は白い大理石で築かれ、ドーム型の屋根が月光を受けて輝いている。

湖の周りには細い橋がいくつも架けられ、王宮と岸を繋ぎ、白い石の橋脚が月の光に照らされて幻想的に浮かび上がっていた。

王宮の大広間から微かに音楽が風に乗って流れてくる。


「ここに来るのは本当に久しぶりだね」


シリウスが優しく声をかける。

彼の目は湖の向かい側の王宮を眺めながらも、どこか懐かしそうだった。


「小さい頃は、よくここで遊んだわね。湖のそばで拾った石を投げて、水切りをしたり…」


ジュリアは静かに微笑みながら湖面に目を向け、夜空の下でその記憶を呼び起こす。


「覚えてる?あの時、僕が最初に水切りで五回跳ねさせたとき、君がすごく悔しがってたこと」


シリウスの言葉に、ジュリアは思わず微笑みを深める。


「覚えてるわ。でも、次の日には七回跳ねさせて、あなたに勝ったのよね」


「そう、それで君が得意げに『次は十回に挑戦してみる?』って言ったんだ」


二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。

その笑い声が、静かな湖畔に心地よく響く。


「この場所は、いつ来ても変わらないわね」


ジュリアはそう言いながら目を細め、目の前に広がる風景を静かに見つめた。

湖面に映るのは、白亜の王宮の丸いドームから漏れる光。

その光は水面を優しく撫でるように揺れ、まるで星々が湖に降りたようだった。

ふと隣からの視線に気づき、顔を向けると、シリウスが少し緊張した表情でじっとジュリアを見つめていた。


「ジュリア、少し座らない?」


少し疑問に思いながらも、彼の提案に頷き、二人は湖のそばの椅子に腰を下ろした。

夜露が足元を冷たく濡らし、足元ではさざ波が穏やかに打ち寄せている。


「ねぇ、覚えてる?初めて僕たちが会った日のこと」


その問いが唐突で、ジュリアは少し首をかしげた。

シリウスの視線がどこか遠くを見ているのがわかる。

その目には、懐かしさと少しの切なさが滲んでいるように見えた。


「もちろん覚えてるわ。私がシリウスの家を訪ねたときよね。あなたが庭で絵を描いていたのを見て、話しかけたの」


「そう、その時。僕はただの少年だったけれど、君を見た瞬間に思ったんだ。なんて眩しい子なんだろうって」


シリウスの口元に笑みをたたえながら、王宮を眺めていた。


「初めて会った時から、僕は君が好きだった。幼いながらも、君ともっと一緒にいたいって思っていた。そしてその気持ちは、年月を重ねても変わらなかった」


なぜ今その想いを伝えるのかという疑問と、初めて聞く幼馴染のの告白に、戸惑いながらも隣のシリウスの顔を見つめた。

シリウスはいつも通り優しく微笑んでいた。


「君の笑顔が、僕の世界そのものだ。だから、その笑顔を僕が守りたい。幼馴染に徹してたけど、この誕生日をずっと待ってた」


そう言うと、シリウスはジュリアの前でゆっくりと膝をつき、懐から小さなケースを取り出した。

その中には、光を受けて輝く指輪が収まっていた。


「ジュリア、僕と結婚してくれないか?」


その瞬間、ジュリアの時間が止まった。

湖畔の静けさ、月明かり、シリウスの真っ直ぐな瞳ーー。

長年の親友であり、心の支えであったシリウス。

彼の存在は、ジュリアにとって兄ウィリアムとはまた違う、唯一無二の安心感を与えてくれるものだった。

けれど――この気持ちは、シリウスが自分に向けてくれている気持ちと同じなのか。


ジュリアの頭の中に無数の感情と思考が渦を巻く。

ずっと想っていてくれた。

その事実に驚き、心が揺さぶられる。

シリウスはいつも穏やかで、優しくて、隣にいることが自然すぎた。

だからこそ、その優しさの裏に、こんなにも深く秘められた想いがあったことに、ジュリアは気づけなかったのだ。


心の中で声が交錯する。

――彼を失いたくない。

――でも、それだけで彼の想いを受け止めていいの?


「私は……」


ジュリアは言葉をつまらせ、シリウスを見つめる。

シリウスは、ジュリアの動揺を見逃すことなく、優しく笑みを浮かべながら待っていた。

彼の顔には焦りの色が一切なく、その瞳は穏やかな愛情を注いでいた。


その瞬間、ジュリアの胸に一つの確信が生まれた。

シリウスは、いつだって彼女を守り、寄り添い続けてくれた。

父や母を小さいときに亡くした時、学校を建てる時、どんなに辛くて悲しい時も、彼だけは肯定してくれて、味方だった。

ジュリアは小さく息を吐き、震える唇を開いた。


「シリウス……気持ちを伝えてくれてありがとう。今まで、あなたの気持ちに気づけなくてごめんなさい。......正直に言うと、私のこの気持ちが特別な感情なのか、わからないの」


シリウスの瞳に、一瞬だけ揺らぎが走る。

けれど彼は何も言わず、ただジュリアの言葉を待っていた。


「でも、あなたが隣にいてくれることが、どれだけ私を支えてきたかはわかる。あなたと共にいる未来なら、どんな困難も乗り越えられるって、そう思うの」


ジュリアは微笑み、ゆっくりと右手を差し出した。


「だから――私でよければ、これからもあなたの隣にいさせて」


シリウスの表情がぱっと明るくなり、立ち上がると、指輪をそっとジュリアの指にはめた。

そしてそのまま、彼女を優しく抱きしめる。

湖のほとりで二人の影が一つに重なり、月明かりが二人を包み込むように輝いていた。

夜の静けさの中で、穏やかな波の音がその瞬間を祝福しているようだった。


ジュリア ー ネフェルタリ王国の王女。この物語の主人公

レオン ー ジュリアの護衛。ネフェルタリ王国最強の男

シリウス ー ジュリアの幼馴染。アルナム卿の孫

ウィリアム ー ネフェルタリ王国の現国王。ジュリアの兄

ロナウド ー セレナ王国の末王子

アルシーア伯 ー ジュリアの叔父

リリー ー ジュリアの侍女

アルナム卿 ー 宰相。政治の中心地を治めるアルナム領主

オーベン卿 ー 交易の拠点として栄えるオーベン領の領主

ベルク卿 ー 穀倉地帯を持つベルク領の領主

レガロ卿 ー 土木技術が優れるレガロ領の領主

トネール卿 ー 騎士たちを率いるトネール領の領主

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