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08舞踏会


広間にはすでに大勢の人々が集まり、華やかな光景が広がっていた。

ネフェルタリ王国の重鎮たちをはじめ、他国の王族や高貴な貴族たちが、美しい刺繍や宝石をまとい、談笑していた。

扉の外でざわつきが感じられる中、ジュリアは深く息を吸い込み、心を落ち着けた。

その瞬間、男の声が広間に響き渡る。


「ネフェルタリ王国第一王女、ジュリア様!」


分厚い扉がゆっくりと開かれると、ジュリアは階段の上に立ち、広間の人々を見下ろす。

螺旋階段の手すりに手を添え、もう一方の手でドレスの裾を軽く持ちながら、一段一段慎重に降りていく。

広間のざわつきが次第に静まり、その静寂の中でジュリアは痛いほどの視線を感じた。

一番下まで降りてくると、ウィリアムが出迎えに歩み寄った。


「綺麗だよ、ジュリア。母上にそっくりだ」


ウィリアムはジュリアにだけ聞こえるように、優しく言いながらウィンクをした。

その言葉に少しだけ緊張がほぐれ、ジュリアも微笑んだ。

ジュリアが一息ついたのを確認して、ウィリアムはグラスを給仕から受け取るとよく通る声で言った。


「皆さま、本日は私の妹、ジュリアの誕生日を祝うためにお集まりいただき、感謝いたします。どうぞ、心ゆくまで楽しんでください」


ウィリアムはその後、ジュリアに向き直り、グラスを彼女に向けて掲げた。


「ジュリア様に」


その言葉を合図に、広間の人々も次々にグラスを掲げた。

ジュリアは冷静を装いながら微笑み、応えるように持っているグラスを掲げた。

人々の歓声が一段落すると、ウィリアムが軽く肩を叩いてその場を離れた。

その瞬間、ジュリアに近づいてきたのは、まさに彼女の苦手な人物だった。


「ジュリア、ますますセルシアに似てきたな」


声の主は叔父だった。

腰に巻いたベルトからは腹の肉がはみ出し、顎の微妙な境界線にひげが生えている。

目が酔いにすでに濡れているように見え、まるでなめるようにジュリアを見る。

ほとんど会話を交えたことはないが、いつも遠くから感じる湿った視線に、ジュリアはずっと不安を覚えていた。

叔父はジュリアの手を取ろうとしたが、ジュリアはさりげなく身を引いた。


「失礼いたします、他のお客様にご挨拶をしなければなりませんので」


ジュリアは広間を歩きながらも、気配を感じる背後に注意を払っていた。

しかし、その意識が前方への注意を疎かにさせてしまう。


「おっと、失礼!」


次の瞬間、彼女の肩が誰かと軽くぶつかった。

思わず顔を上げたジュリアの目に映ったのは、洗練された身なりと落ち着いた佇まいを纏う若い男だった。

彼からこぼれた言葉には、異国のアクセントがわずかに混じっていた。


「どうもありがとうございます。ご無礼をお許しください」


ジュリアは優雅にお辞儀をし、微笑みを添えた。

男もぎこちなく、ネフェルタリのお辞儀をした。


「申し遅れました。私はアストリア帝国の皇子、リヴィアスと申します。誕生日おめでとうございます、ジュリア王女」


「まあ、アストリアの皇子様でしたのね。遠路はるばるお越しいただき、心より感謝いたします」


アストリア語でジュリアが答えると、皇子は驚いた表情をした。


「母国語をこれほど流暢に話されるとは驚きです。どこで学ばれたのですか?」


「異国の言葉を学ぶのが好きで。アストリアの文化にも興味がありましたの」


会話は和やかに進んだが、周囲の貴族たちがちらちらとこちらを窺い、話題の中心が自分たちに移っていることを感じた。


「リヴィアス皇子、どうかこの宴を存分に楽しんでください。それでは、また後ほど」


丁寧に礼をして身を引こうとしたその瞬間、周囲から人々が押し寄せた。


「ジュリア様、ぜひ一曲、踊っていただけませんか?」

「その後で構いませんので、私にも一曲お願いできませんか?」

「少しだけでもお話しする時間を頂ければ…」


矢継ぎ早に声をかけられ、ジュリアは一瞬困惑する。

その時、隣から静かな声が響いた。


「ジュリア、僕と踊ってくれないか?」


ジュリアはほっとして微笑むと、男性たちに軽く謝り、シリウスの手を取った。


「ごめんなさい。後で踊りましょう」


ジュリアは申し訳なさそうに言うと、シリウスの手に引かれるようにして、静かに彼の後ろを歩き出した。

広間では、音楽が軽やかに流れ、貴族たちの笑い声が賑やかに響いていたが、ジュリアはその中で感じる自分への視線に気づかずにはいられなかった。

やがて広間の真ん中に連れてこられると、楽しげな演奏が止まり、しっとりとした演奏に変わった。

シリウスのリードに、ジュリアも遅れずついていく。


「助かったわ、シリウス」


静かに感謝を伝えると、シリウスは微笑む。


「ドレス、とっても似合ってるよ」


踊りながら、シリウスの声を耳元で感じた。


「ありがとう、ロナウドが送ってくれたの」


「いいセンスだね。それにしても、今日の君は一段と人気だね。今も男たちが君に注目してるよ」


ジュリアより背の高いシリウスは、その身長で踊りながらホールを観察しているようだった。


「誕生日だからよ」


「いいや、君が綺麗だからだよ」


「シリウスまでやめてよ」


先ほどのおじのため息を思い出して、ジュリアは身震いした。

曲が終わり、二人は向かい合ってお辞儀をした。

周囲には再びジュリアに近づこうとする人々がいたが、シリウスがそれとなくジュリアを守るように動きながら、小声で囁いた。


「少し外の空気でも吸おうか」


ジュリアは頷き、シリウスに連れられて喧騒を離れる。

星の見える庭園の静けさが、二人を包み込んでいた。

ジュリア ー ネフェルタリ王国の王女。この物語の主人公

レオン ー ジュリアの護衛。ネフェルタリ王国最強の男

シリウス ー ジュリアの幼馴染。アルナム卿の孫

ウィリアム ー ネフェルタリ王国の現国王。ジュリアの兄

ロナウド ー セレナ王国の末王子

アルシーア伯 ー ジュリアの叔父

リリー ー ジュリアの侍女

アルナム卿 ー 宰相。政治の中心地を治めるアルナム領領主

オーベン卿 ー 交易の拠点として栄えるオーベン領の領主

ベルク卿 ー 穀倉地帯を持つベルク領の領主

レガロ卿 ー 土木技術が優れるレガロ領の領主

トネール卿 ー 騎士たちを率いるトネール領の領主

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