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06暖かい昼食


そしてその次の日から、レオンはウィリアムの命令通り、ジュリアが部屋を出ると既に外に控えていて、ジュリアが行く先にはどこへでもついてきた。

後ろで黙って控えているだけだったので、特に気にはならなかったが、リリーと一緒にいる時と違って、レオンは話しかけない限り、口を開くことがなかった。


ある日ジュリアは議会の終わりに王宮の水庭を散策していた。

水庭には透き通った水が、白い石の道を優雅に滑りながら移動している。

その水面には、白や淡いピンクの花びらが、柔らかな風に揺れながらはらはらと舞い落ちていく。

ジュリアは見慣れたその情景を見ながら、ふと遊び心が芽生え、レオンが視線を外した隙に、庭園の奥へと駆け出した。


ジュリアは茂みの間を縫って走り、何度も侍女たちから身を隠したことのある場所で息をひそめた。

隠れる場所としては完璧だと、心の中でほくそ笑む。

いつも無表情なレオンがどんな顔をして捜し続けるのかを想像してみると、なんだか面白くなってきた。

だがしばらくして、あまりにも正確に彼女の隠れ場所へと向かってくる足音が近づいてきた。


「見つけましたよ、姫様」


声がジュリアの背後から響いた。

驚きのあまり、ジュリアはその瞬間声を上げそうになったが、すぐに口を噤んだ。

振り返ると、レオンが静かに立っていて、いつもの表情で彼女を見下ろしていた。


「どうして、すぐにわかったの…?」


ジュリアは理解できず、口を開いた。

レオンは少しだけ眉を上げで答える。


「足跡が残りすぎです」


レオンは無言で一歩後ろに下がり、少し距離を取ると、静かに歩き出した。


「…次はもう少し工夫したほうがいいですよ」


その一言に、ジュリアは肩を落とした。

完璧だと思っていた隠れ場所を、こうもあっさり見つけられてしまったことが悔しくてたまらない。

ジュリアは心の中で、次こそはリベンジすると固く誓いながら、レオンの背中を追いかけて歩き出した。




ーーー




ジュリアが王宮の食堂に足を踏み入れると、すでにウィリアムと幼馴染のシリウスが席に着いていた。

シリウスはアルナム卿の孫で、ジュリアの学友として幼い時に選ばれ、今ではウィリアムの側近になっている。

お昼に時間が合うときは、昔から時を過ごしてきた兄と幼馴染と食事をとることにしていた。

シリウスはジュリアに気づくと、柔らかな笑顔を浮かべて立ち上がり、すぐにジュリアの椅子を引いてくれた。


「ありがとう、シリウス」


程なくして料理が運ばれ、香ばしいスープの香りや色鮮やかなサラダが食卓を彩った。

ウィリアムがスープを一口すすりながら、興味深げに二人に目を向ける。


「今日は何か面白いことがあったかい?」


ジュリアは一瞬ためらったが、先ほどの庭園でのレオンとのやり取りを話し始めた。

隠れ場所を完璧だと自負していたのに、あっさり見つけられたと語る彼女に、ウィリアムとシリウスはこらえきれずに笑い出した。

ジュリアが恥ずかしそうに膨れると、シリウスは優しく言った。


「それが彼の仕事なのだから、怒らないで」

「それは分かってるけど…」


ジュリアは少しふてくされるように言う。

話を変えようと、ジュリアがシリウスに問いかける。


「それよりシリウスは?何か面白いことは?」


シリウスは持っていたフォークをトントンと叩きながら、答えた。


「実は、馬の出産に立ち会ったんだよ。無事に生まれてね、最初に地面を踏みしめる姿を見たときは感動したよ」


ジュリアとウィリアムが同時に声を上げる。


「それはすごい!ついに生まれたのか!」


「私たちもずっと待っていたのに!シリウスは間に合ったのね!」


ジュリアはウィリアムに後で見に行こうと提案した。


すると今度はウィリアムが突然思い出したように、何かをポケットから取り出した。

その手から出てきたのは、古びた馬、チェスのナイトの駒だった。


「今朝、ふとこいつを見つけたんだ。ずっと探していたのに、どこに隠れていたんだろうな」


「なつかしいですね。これでまたチェスができますね、ウィリアム様」


シリウスが笑いながら言うと、ウィリアムは嬉しそうに駒を手にして頷いた。


「そうだね、また眠れない夜が続きそうだ!」


ウィリアムは満足げに言いながら、見えないチェス盤に駒を置き、空中に描かれた戦いを想像しているようだった。

ジュリアは少し困ったように言った。


「また、二人で対戦するの?それとも私も入れてくれるの?」


シリウスがにっこりと笑って答える。


「もちろん君もだよ。僕とウィリアム様が組んで、ジュリアを倒しましょう」


「楽しみだね。今度こそは、少しは勝てるかもしれないよ?」


ウィリアムとシリウスはともに微笑んで、ジュリアに挑戦的な眼差しを向ける。

二人はチェスの腕前に自信があるため、ジュリアにとっては本当に強敵だ。

ジュリアは自信なさげに笑いながらも、昔のように兄とシリウスと一緒にチェスを楽しむことに胸を躍らせた。

三人はしばらくその場で笑い合い、忙しさを忘れてゆっくりとしたひとときを楽しんだ。

ジュリア ー ネフェルタリ王国の王女。この物語の主人公

レオン ー ジュリアの護衛。ネフェルタリ王国最強の男

シリウス ー ジュリアの幼馴染。アルナム卿の孫

ウィリアム ー ネフェルタリ王国の現国王。ジュリアの兄

リリー ー ジュリアの侍女

アルナム卿 ー 宰相。政治の中心地を治めるアルナム領領主

オーベン卿 ー 交易の拠点として栄えるオーベン領の領主

ベルク卿 ー 穀倉地帯を持つベルク領の領主

レガロ卿 ー 土木技術が優れるレガロ領の領主

トネール卿 ー 騎士たちを率いるトネール領の領主

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