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05水上の学び舎


ネフェルタリ王国の王都は、その圧倒的な美しさから「水上の都」と讃えられていた。

街を縦横無尽に走る水路は、ただの移動手段に留まらず、人々の生活に溶け込み、街の心臓のように機能している。

透き通る水面に映る白亜の石造りの建物は、光を浴びて輝き、その両岸には四季折々の花々が咲き誇る。

淡い香りが漂い、風が花弁を水路に散らせば、水面に浮かぶ花びらがまるで絵画のような情景を作り出す。

ジュリアはそんな水路を小舟で進むのが好きだった。

この日も馴染みの老人が舵を取り、穏やかな笑顔で振り返る。


「ジュリア様、今日もいつものルートですか?」


「ええ、お願いね、おじいさま」


そうジュリアが答えると、老人の皺深い目尻がさらに下がり、顔全体に温かな笑みが広がった。


「ジュリア様は、今日も眩しいほどお美しいですな」


ジュリアは少し照れながら微笑んだ。


「あら、おじいさまったら…ありがとう。でも急いでるの、早く出発してね」


ジュリアがそう促すと、老人は船べりに手を置いて、穏やかな力で漕ぎ出した。



しばらくすると、商人たちの活気ある声が聞こえてきた。

広めの水路沿いには市場が開かれ、果物や手工芸品が並べられている。

船上から見えるのは、買い物を楽しむ人々や、掛け声を上げる漕ぎ手たち、そして遠くで響く笛の音や子どもたちの笑い声だった。

ジュリアの船が広場に差し掛かると、水辺で作業をしていた女性が顔を上げ叫んだ。


「ジュリア様よ!」


その声は瞬く間に広がり、人々が次々と水路のそばに集まり出す。

子どもたちは小さな手を振り、元気な声でジュリア様!と叫びながら船を追いかけた。

ジュリアは微笑みを浮かべ、丁寧に手を振り返す。


「ジュリア様は本当に民たちに愛されていますのぉ」


漕ぎ手の老人が感慨深げに言うと、ジュリアは肩をすくめて控えめに笑った。


「愛されているというより、みんなが優しいのよ」


やがて船は目的地の学校に到着した。

ジュリアが正門をくぐると、中庭で遊んでいた子どもたちが歓声を上げて駆け寄ってくる。


「ジュリアさまー!」


ジュリアは笑顔で両手を広げ、膝をついて子どもたちを迎え入れる。

しかし子供たちの勢いに押されて、思わず後ろに手をつき、地面に座り込んでしまった。


「みんな元気ね!」


うれしそうに笑いながら子どもたちに語りかけた。



学校の内部は、華やかな王宮の一等地とは違うが、明るい光が窓から差し込む、清潔で落ち着いた場所だった。

この学校は、ジュリアが議会でウィリアムと五大貴族に勉学の重要性を説き、建てられたものだ。

ここでは、5歳から8歳の子どもたちが男女を問わず学び、成長していく。

男女問わず学ぶ機会を与える考えは、他国では前例のない試みだったため、オーベン領の領主は「女に文字を教えると妄言を吐く」と猛反対した。

それでもジュリアはその批判を退け、女性教育の意義を訴え続け、ついに学校を開校したのだった。


ジュリアは一人ひとり、子どもたちが書いた文字を確認しながら教室を見て回る。

初めは文字が読めなかったリリーも、今ではすっかり頼れる助手となっている。

その時、ジュリアのスカートの裾を引っ張る小さな手の感触がした。


「ジュリアさまー!あの人はだあれ?」


こどもは、学校の後ろで見守っていたレオンを指さす。

他の子どもたちも興味津々で後ろを振り返り、レオンの姿をじっと見つめている。


「あの人はね、私を怖ーいものから守ってくれる、とっても強い人よ」


ジュリアがそう言うと、子どもたちの目がさらに輝き、すぐに声が上がった。


「つよいの?ぼくたたかってみたい!」


「わたしも!!」


賑やかな声が教室に響く。

ジュリアは少し困ったような顔をしてから、優しく微笑んだ。


「あら、勇ましいわね。でもね、力だけが強いのではないわ。文字を書いたり、勉強することだって、立派な強さなのよ」


ジュリアがそう言うと、子どもたちはじゃあ、勉強するー!と元気よく言って、机に向かった。

教室の中は、再び静けさを取り戻し、ジュリアは一人ひとりがしっかりと学び始めた様子を微笑みながら見守った。

ジュリア ー ネフェルタリ王国の王女。この物語の主人公

レオン ー ジュリアの護衛。ネフェルタリ王国最強の男

ウィリアム ー ネフェルタリ王国の現国王。ジュリアの兄

リリー ー ジュリアの侍女

アルナム卿 ー 宰相。政治の中心地を治めるアルナム領領主

オーベン卿 ー 交易の拠点として栄えるオーベン領の領主

ベルク卿 ー 穀倉地帯を持つベルク領の領主

レガロ卿 ー 土木技術が優れるレガロ領の領主

トネール卿 ー 騎士たちを率いるトネール領の領主

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