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15サリーの正体


夜の帳が降りると、妓楼の中は一気に賑わいを見せ、まるで別世界のようだった。

集まる客たちの陽気な笑い声が妓楼を満たし、運ばれる酒に合わせて何度も乾杯の声が上がった。

ジュリアはその喧騒に包まれた妓楼の中で、空いた皿を片付け、酒を運ぶなどの雑務を淡々とこなしていた。


「見ない顔だな、新人か?」


メリダの隣に座っていた男が興味津々にジュリアの顔を覗き込み、言った。

目の奥に宿る好奇の色は隠しようもなく、ジュリアはその視線の無礼さに気づかざるを得なかった。


「雑用をさせるには勿体無い」


その言葉には、ジュリアの存在を軽んじるような含みがあり、ジュリアは一瞬、胸が冷たくなった。

だが、すぐにその感情を押し込め、冷静さを保つように努めた。

彼女は軽く頭を下げて、丁寧に答える。


「今日入ったばかりなのです。まだまだ覚える仕事が多くて…」


熱を帯びたその目は、片時もジュリアの顔を離れることがなかった。

そして、男がゆっくりと手を伸ばし、無遠慮にジュリアの腕に触れようとしたその時、メリダが素早く手を払って、その動きを遮った。


「あら、私よりサリーに興味があって?」


メリダの声はいつも通り冷ややかで、その言葉に男は一瞬ひるんだ。


「もちろん君が一番に決まってる。機嫌を直してくれ、頼むよ」


その言葉には誠実さの欠片も感じられなかったが、メリダはまるで気にしない様子で、ジュリアに向かって言った。


「サリー、その皿をひいたら上がっていいわよ」


ジュリアはすぐに頷いて、素早く皿を片付けると、部屋を出た。

その間も、ロナウドの姿を探し続けたが、彼はとうとう現れなかった。




ーーー



一方、ロナウドは祖母からの厳しい執務に疲れ果て、心の中で何度もため息をついていた。

最近体調がすぐれず、無理に働かされる日々が続いていたせいで、心身ともに疲れ切っていた。

ふと気づけば、三日間も妓楼を訪れていないことに気づき、無意識にいつもの道を歩き始めていた。


「ロナウド様、そろそろお越しの時間だと思っておりました」


ロナウドの姿を確認して、女主人はにったりと笑う。


「ちょうどロナウド様の疲れを癒す娘がおりますよ」


「へぇ、君の紹介とは珍しい。さてはかなりの上玉だな」


ロナウドは女主人に勧められるまま、部屋に入った。

そこには、窓の外をぼんやりと見つめる女が立っていた。

その景色は絵画のように美しく、彼女は月の光を受けて、内側から発光しているように見えた。

その横顔にロナウドは釘付けになる。


「3日前に入ったばかりなんです。見た通り、目を引く顔立ちで、礼儀作法も完璧。まだ他のお客様には紹介していませんから、気に入っていただけるかと」


女主人の言葉も遠くに聞こえるほど、ロナウドはその女に惹かれていた。

女主人はロナウドの反応に満足げににんまりと笑いながら、言った。


「さあ、サリー、ごあいさつしな」


サリーはゆっくりとこちらを向いた。

金色の髪、緑色の目。

セレネ王国の衣装に身を包んでいたが、ロナウドはすぐにその顔に見覚えがあることに気づく。

ロナウドがサリーにゆっくりと近づき、口を開こうとした瞬間、サリーは突然、力なく倒れた。

彼女の震える体が、ロナウドの手を通して静かに伝わった。


「ルー、お願い…私だとバラさないで」


耳元で呟く声は震え、低く小さい。

ロナウドは女主人を振り返ると、いつものように飄々とした様子で言った。


「この世にこんな美女がまだいたとは驚きだ。食事や酒はいらない。二人だけにしてくれないか?」


「もちろんでございます、ロナウド様。サリー、粗相のないように」


女主人は微笑みながら部屋を出て行き、扉が閉まる音がした。


「ジュリア!どうしてここに?」


驚きと戸惑いが入り混じった声で、ロナウドは尋ねた。

しかしジュリアは答えず、顔をロナウドの胸に埋め、震える肩を隠すようにして、静かに涙を流していた。

ロナウドは混乱しながらも、彼女の背中を優しく撫でながら、次に取るべき行動を必死に考えていた。


「怖かったろう。でももし、君が国から逃げてきたのなら…今すぐにでもセレナの王宮に行こう」


ジュリアは顔を上げ、すすり泣きながらも、その言葉に少しだけ落ち着きを取り戻す。

ロナウドの腕の中で、深く呼吸をしながら、彼の言葉を受け入れるようにゆっくりと頷いた。


「でも…女主人にはどう説明すればいいのかしら?帰る時のこと、何も考えてなかったわ」


ロナウドはその言葉に軽く微笑み、静かに答えた。


「大丈夫だよ。僕に任せて」

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