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忘れて  作者: yukko
9/15

あれは、妻が妊娠中のことだった。

初めての妊娠で僕は嬉しかった。

だが、他の女性に心を奪われてしまった。

きっかけは些細なことだった。

彼女が泣いていたから……。

その涙の意味は解らなかった。

ただ、急激に惹かれてしまった。

それからは、泥沼にはまっていくように家庭を、家族を捨ててしまった。

娘を可愛いと思う。

でも、彼女の傍に居たいと願った。

妻には離婚をして欲しいと頭を下げたが、離婚をしてもらえなかった。

彼女は子どもを産めない人だった。

彼女との子どもは望めないし、望める状態ではなかった。


娘が大学生の頃、リストカットしたと聞いた。

その日から、娘に対する罪悪感が大きくなっていった。

今までもなかった訳ではない。

日に日に罪悪感が膨れていった。

彼女に別れ話をしたのは、この頃だった。

長い不倫の終わりだった。

不倫は終わったが、家には帰りにくかった。

当然だ。


娘の結婚式は嬉しかった。

育てたのは妻で、何もしていなかった父なのに出席させて貰えたことが嬉しかった。

娘の結婚は、娘の不倫と家出で終わった。

妻が泣きながら叫んだ。


「お父さんの血を引いているから……。」


その通りだ。

反論する余地などない。

全て悪いのは、お父さんだよ。

妻が酒におぼれていることに気付かなかった長い年月を……

その年月が娘の人生を変えてしまったのだ。

妻の人生を変えてしまったのも……妻以外の女性を愛したからだ。


娘が家出して離婚したのに、またリストカットしたと妻から聞いた。

病院へ行こうとした時に妻が言った。


「貴方も私も権利が無い。

 そうでしょう。

 あの子を追い詰めたのは私。

 娘に見向きもしなかったのが貴方。

 二人とも権利が無いわよ。」


その翌日、妻から離婚届を差し出された。


「前に貴方が置いて行った離婚届。

 提出できるわよ。

 署名済みだもの。

 もう、貴方を待たないって決めたの。

 待つのは辛かった……。

 もう、ここに戻って来なくてもいいのよ。貴方……。」


何も言えなかった。

妻は程なく入院した。

アルコール依存症の治療をするために……。

離婚届は提出していない。


「戻って来てくれるよな。

 今度は僕が待っているから……。

 待っているよ……。待ってる……。」


病棟に入って行く妻の後姿に、僕は大きな声で伝えていた。

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