災厄の魔女アウロラ
厄災の魔女アウロラは天女たちによって作られた源理のプロトタイプであり、源理イデアの姉にあたる存在である。
彼女は源理イデアとは違い、プロトタイプということもあり、感情的に動く生物として生まれてしまった。
それも源理イデアと同等の力を持ちながら。
感情で動く生物は世界を運営するにあたって最適ではない。
感情を持たなければ、世界の運営は上手くいかないのだが、それは感情的に動くこととはまた別の問題だ。
感情的に動いていると、いつかどこかで綻びが生まれ、そこから世界の崩壊に繋がってしまう。
天女たちは幾度となく、この失敗を犯してきた。
それだけではない。
アウロラが女性として生まれてきてしまったのも問題だ。
源理イデアは正確には性別が存在しておらず、オスでもなければ、メスでもない。
両性かと聞かれれば、そうでもなく、彼には性別が存在していないのだ。
それはなるべく、他人に好意を抱かせないようにするためである。
性別があると、他人に好意を抱きやすくなる。
もしも、他人を好きになり、その人物と恋に落ちた時、世界をその恋人も好きなように動かすことが出来るようになる。
そうなると、世界の均衡は崩壊し、世界が滅びへと導かれてしまう。
その可能性を下げるためにも世界の統治者は性別が存在していない方が都合が良い。
だが、アウロラは性別を持って生まれてしまった。
それに、彼女は感情豊かで感受性も高く、相手に共感しやすい性格でもあった。
性格も優しく、他人を傷つけたり、切り捨てるような真似はできない。
精神もあまり強い方ではなく、どちらかと言うと弱い方だ。
そのため、彼女は源理にするには不適であった。
そんな心優しきアウロラの処遇に天女たちは大いに頭を悩ませた。
彼女は天女たちにとっては娘同然の存在であり、アウロラからも天女たちは母親として好かれていた。
それに、アウロラは強大な力を持っており、彼女が本気を出せば、天女たちでは対処できるかどうか怪しかった。
なので、アウロラに手を出すことは危険であることもあり、彼女を処分しない方向で処遇を考えた。
このまま彼女が育つまで面倒を見ることも考えたのだが、彼女の持つ危険性からそれは難しいと判断された。
その危険性とは、彼女は強大な力を完全にコントロールすることが出来ておらず、このままいけばいつかどこかで暴走してしまうというものだ。
そうなってしまうと、天女たちでいえど、対処することは難しく、手をつけられなくなる。
そうなる前にアウロラに手を加えなければならない。
そのように天女たちは頭を悩ませ、最終的に辿り着いた答えは彼女を封印することだった。
アウロラを長い眠りにつかせ、いつか彼女の力を抑えられる方法を見つけだす。
これしか方法はないと思い、天女たちはアウロラに封印を施した。
アウロラは天女たちから自分が封印され、長い眠りにつかされることを知っても反抗することはなかった。
アウロラも自分の力がいつか暴走してしまうことは薄々気づいていたようだ。
彼女は自分の処遇を大人しく受け入れた。
その頃には既に源理イデアは誕生しており、アウロラのことを姉として慕っていた。
そして、仕方ないとはいえ、封印されてしまうアウロラのことも不憫だと思っていた。
だからといって源理イデアは天女たちに異議を申し立てたり、妨害などはしない。
何故なら、それが最適解だと分かっているからだ。
源理イデアは感情的ではなく、論理的に動く者だ。
そのため、いくら可哀想だとはいえ、論理的思考に基づき、彼女を封印することには賛成であった。
だが、源理イデアにも感情はある。
何か封印されている姉にしてあげられることはないかとか考え続けた。
そうして、長い年月が経ち、現代に至る。
源理イデアは姉であるアウロラが完全に封印し切れていないことをとあることで知る。
普通ならば、天女たちに報告するか、自らが出向き、封印を施す必要がある。
しかし、源理イデアはわざとそれを見なかったことにし、知らないフリをした。
彼の予想では近いうちに天女たちによって彼女の封印は強化される。
それならば、その少しの間くらいは楽しい思い出を作って欲しい。
源理イデアはそう考え、彼女のことを見なかったことにした。
そうしたとしても世界へ与える影響は少ないため、彼はアウロラの存在を無視することが出来た。
それが今後の展開に大きな影響を与えると知っていながら。