被験体X
被験体Xとは、創造神アヴァロン、パンドラの所長、観測者の3人による実験によって生まれてしまった存在である。
彼らの実験の目的は源理イデアや天国の番人すらも超える最強の生物を生み出すことだった。
どうして、彼らがそのような存在を生み出そうとしたのだろうか。
創造神アヴァロンはただただ己の探究心を満たすためだけに実験を行った。
パンドラの所長は己の駒の依代として強力な肉体を求めていたため、今回の実験を二人に提案した。
観測者はただ実験に誘われたため、参加しただけであり、特にこれと言った理由はない。
三者三様の理由で始めた実験であるが、結論から言うと、この実験は成功したとも失敗したとも言えない結果だった。
彼らは残虐非道と言っても差し支えのない実験を続けた。
だが、彼らは既に世界の法則と言っても過言ではない存在に至っているため、彼らの行いは咎められない。
いや、彼らの行いは世界にとっては正しいことだと認識され、この実験は世界から称賛されるに値するものだろう。
彼らに反発するとすれば、彼らと同等の力を持つ他の原理やそれに近しい力を持つ者たちだろう。
それ以外の者たちは洗脳にも近い世界からの認識作用により、彼らの行いは絶対的に正しいものだと認識してしまう。
彼らの実験は誰かに止められなければならないほど非道なものだったので、本来ならば、その辺りの存在が止めに入らなければならない。
しかし、今回はパンドラの所長が主導していたこともあり、隠蔽は完璧であり、研究所は発見することはほぼ不可能であった。
そのため、彼らの実験は順調に進んでいった。
多くの犠牲者を出しながら。
犠牲者の中にはもちろん、神国アヴァロンの民は存在していない。
そんなことをしようもんなら、創くんがブチギレて実験どころではなくなるからだ。
この被験体Xの実験の頃には既に世代交代はしているが、それでも創の神国アヴァロンへ対する思いは強い。
そのため、実験で使われている素体に神国アヴァロンの民は入っていない。
まあ、極悪人は普通に使われていたが。
このように実験素材集めが面倒臭いので、その辺りは全て創造神アヴァロンが担っていた。
そのようにして、実験は順調に進んでいき、ついに実験の成功例である被験体Xが誕生した。
彼は三人の予想を上回ることはなかったが、それでも予想範囲内の力を有していた。
彼らは被験体Xを誕生させた後、その経過を観察し始めた。
初めの一週間は力は安定しており、普通の知的生命体と同じ生活が行えていた。
十日を過ぎてくると、だんだんと力が抑制できなくなり、小規模な暴走を繰り返すようになる。
それと同時に、被験体Xは幻覚症状が現れ始め、精神的にも追い詰められていく。
このままでは危険だと判断したアヴァロンは所長に実験の中止を提案する。
しかし、その提案は却下された。
このまま被験体Xの身に何が起きるのか観察する。
これが所長の答えだった。
実験の主導権を握っている署長が続けるという判断を取るなら言う通りにしよう。
創造神アヴァロンはそう思い、実験を続けることにした。
彼自身もこの実験の結果が気になっているのだ。
被験体Xは何度も助けを求めたが、彼らが手を差し伸べることはない。
彼らは圧倒的な上位存在だ。
それも世界を作るような存在であるため、彼らの行いは世界運営のための試行錯誤に過ぎない。
所長たちが人間だとするならば、被験体Xの素体はミジンコ以下の存在だ。
そんな一々ミジンコの助けを聞くかと言われれば、助けるはずがない。
そうして、実験から一ヶ月が経とうとした時、被験体Xはその力に耐えられずに自壊し、高エネルギーによる爆発を起こした。
ここは所長が用意した実験室であることもあり、自壊による爆発程度では壊れない。
そのため、何の問題もなく、被験体Xの実験は終了した。
結果はボチボチであったものの所長は満足していた。
どうやら、所長の最低限望んでいた結果を超えていたようだ。
創造神アヴァロンも面白い実験であったため、結果は正直言って二の次だったので、そこまで気にしている様子はない。
観測者はまあ、こんなものだろうと予想通りの結果につまらなそうにしていた。
この実験の過程で多くの被験体が命を落としたが、最終的には実験に使われた人的資源は全て消費された。
まあ、資源が残ったとしてもパンドラに収容されている化け物たちへの生き餌にされていたので、結果的には誰も生きて帰れない状況だった。
あのリスク管理が完璧な所長がこんな倫理観ガン無視の実験に使った資源を処分しないわけがないのだが。
三人は今回の実験についてのレポートをまとめると、証拠となり得そうなものは全て処分した。
そして、残ったのは実験に関するレポートのみ。
このレポートは所長が管理することになっている。
何故なら、それが一番の安全策なのだから。
レポートを書き終えた三人は実験も終了したこともあり、解散することになった。
被験体Xとは彼らの技術の糧となった哀れな存在の一人だったのだ。
そして、この研究は後々大きく役に立つのだが、それはまだ先の話だ。