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6・これこそ、我が復讐の美味

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『速報・帝国北部国境基地、魔物襲撃で第二騎士団壊滅』

帝国北部の国境線沿いに位置する基地が、突如として大量の魔物に襲撃されるという衝撃の事件が発生した。この基地には、帝国軍の精鋭部隊である第二騎士団が常駐しており、国境を守る重要な拠点とされていた。

魔物たちは基地に次々と押し寄せ、圧倒的な数で第二騎士団に襲いかかった。騎士たちは勇敢に戦い抜いたものの、想像を絶する強力な魔物によって続々と倒され、壊滅的な被害が出た。

魔物の中にはミノタウロスや吸血鬼、さらには謎のメイドの目撃情報もあり、彼らは《ディアボリック・コア》と名乗っているが、不明なところが多く急ピッチで調査が続けられている。

これを受けて、帝国政府は緊急会議を開催し、対策を検討している。また、魔物の襲撃による周辺地域への影響についても──


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「全て上手くいったわね」


 奈落の洞窟。

 特別に作った執務室で、俺と魔族クロエは人間の間で流通している新聞を見ながら話していた。


「なに、これくらいは鼻歌混じりでもやらないといけないさ。まだスタートラインに立ったばかりだしな」


 第二騎士団長テオがいなくても、基地局の連中は魔物に苦戦していた。

 傷ついた状態で、クロエに癒してもらった魔物と再度戦うのは絶望的であっただろう。

 クロエとエドヴァルトが戦場に現れた時点で、俺たちの勝利は既に確定していた。


 こうしてわざわざ、部下に新聞を取り寄せてもらって、記事の内容を眺めているのはその答え合わせのためだ。


「テオからはなにか情報は聞き出せたか?」

「お生憎様……あなたの()()()()、あの男は大した情報を持っていなかったわ。第二騎士団長というのだから、ちょっとは知ってるかと思ったけど」

「仕方がない。昔のテオならともかく、最近のヤツは贅沢三昧の生活をし続け、政治からも離れていたからな」


 つまりあの北部国境線沿いは、帝国にとってそれほど重要拠点として見なされていなかったのだ。あくまで他国に睨みをきかせる役割を担っているだけ。


「帝国の中には、まだまだ強い連中がいる。六聖刃ろくせいじんの動きも気になるしな。ヤツらが出てくれば、クロエも苦戦するかもしれないぞ」


 俺がそう言うと、クロエはごくりと唾を飲み込んだ。


「ゆえにテオは超小物」

「超小物」


 そうクロエが俺の言葉を繰り返す。


「そうだ。ヤツとの戦いに勝利したくらいで、浮かれる気持ちにはなれんよ」

「だったら、どうして一番最初に北部国境線沿いを攻撃したの?」

「帝王からあまり重要視されていなかったとはいえ、北部国境線沿いが落とされれば、帝国に衝撃が走る。《ディアボリック・コア》の名を響かせるのにも丁度よかった。帝国もこれで、動かざるを得なくなる」


 と俺はテーブルに置いているチェスの駒を動かす。


「焦って動けば隙が生じる。ここから今まで、見えなかったものも見えるようにもなってくるはずだ」

「そこまで見通していたのね……さすがハワードだわ」


 そしてもう一つの理由。

 それは帝国に対する宣戦布告だ。

 始まりはなるべく派手な方がいい。

 その方がより多くの人間が、《ディアボリック・コア》の名に恐怖するだろうからな。


「というわけで、これはまだ始まり。より一層気を引き締めていかなければならん……というのもあるが、初戦が勝利で終わったのも事実。クロエ、今回は頑張ってくれたな。全て上手くいったのも、君のおかげだ」

「……っ!」


 俺がクロエを賞賛すると、彼女は見る見るうちに顔を赤くした。


「ハワードに褒めていただいた……! なんという至福の瞬間。ああ……やはりわたしはあなたに仕えてよかったわ」

「クロエ?」

「とっても嬉しいってことよ」

「そ、そうか。あっ、今回頑張ってくれたからな。クロエに褒美を与えよう。なにが欲しい? 欲しいものを言ってみよ」

「い、いいのかしら!?」

「お前は最大の功労者だ。今回だけではない。いつも俺を支えてくれる。これくらいは当然だ」

「だったら……」


 とクロエは一頻り考えてから、ゆっくりと口を動かす。


 そもそもこのクロエという女、あまり自己主張をしない。

 そんな彼女がなにを要求するのか、俺も興味があった。


 領土か? それとも金か?


 彼女がそれを要求するのは想像出来ないが、有り得る話ではある。彼女の貢献度なら、それくらい要求してもおかしくないが……。


「あ、頭を撫で撫でしてくれないかしら?」

「……はあ?」

「や、やっぱり差し出がましい要求だったかしら? ごめん。わたしらしくなかったわ……」

「いや、それくらいならいくらでもしてやってもいいが……」


 そう答えると、クロエはパッと表情を明るくした。


 クロエが目をぎゅっと瞑り、頭を差し出してきた。俺は右手で優しく彼女の頭を撫でてあげる。


 本当にこれだけでよかったのだろうか……。

 相変わらず欲しがらない女である。


「そうだ。ギデオンもそろそろ帝都に帰還した頃だろう」


 俺をパーティーから追放した第五皇子ギデオン。

 俺が魔力で作り出した吸血鬼エドヴァルトの偽の首も、そろそろ消滅している頃だ。

 ヤツは吸血鬼エドヴァルトを討伐したと息巻き、嬉々として帝王陛下に報告するだろう。


 しかし吸血鬼を殺した証拠は手元にない。

 それどころか、時を同じくして北部国境線沿いで吸血鬼の目撃情報もある。

 そんな状況で帝王はどんな顔をするのだろうか……。


 ヤツらが慌てふためている顔を想像して、俺は笑みを浮かべるのであった。

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