5・帝国に反逆する者の名は、《ディアボリック・コア》
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暗黒竜アザゼル:レベル354
幻影の獣姫リリス :レベル310
知恵の征服者ベルフェゴール:レベル305
死霊の王モルタス:レベル338
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これらがテオの前に姿を現した魔物たち。
全員、レベルが300オーバー。《ディアボリック・コア》の中でも、随一の強さを誇る連中だ。
「あ、あ、あ……」
先ほどまで息を巻いていたテオも、さすがにこの状況を前にして言葉を失っている。
テオのレベルはせいぜい、40ちょっと。
どう足掻いても、《ディアボリック・コア》の精鋭には歯が立たない。
無論、テオは自分のレベルが分からないが、彼女らから発せられる絶対的強者の威圧感と魔力に、それは理解出来たらしい。
「どうした? 先ほどまで威勢がよかったのが嘘のようだな」
と俺はテオに語りかける。
「ご覧の通り、俺には頼もしい仲間がいる。お前……いや、帝国が束になっても勝ち目はないだろう」
「ち、ちくしょおおおおおお!」
テオはやけくそになって、暗黒竜アザゼルに襲いかかる。
よく見ると、下半身が湿っている。漏らしてしまったか。
それでも立ち向かうのは良い度胸だ。
だが。
「たかが地上の虫が、私に逆らうの?」
暗黒竜アザゼルがふっと息を吹きかける。
暗黒竜にとったら、目の前に虫がいたから吐息でどかそうとしたくらいだ。触れることすら穢らわしいとでも思っているように。
しかし暗黒竜の一息は闇のブレスとなって、テオの体を包んだ。
「ぐああああああああああ!」
断末魔が上がる。
あっという間に、テオの体が闇に染まり、動かなくなってしまった。
「ダメですよ。そんなに簡単に殺っちゃ。せっかく、ハワード様の復讐相手ですもの。もっと長い苦痛を味わせてあげなくてはいけません」
と言い、即座に知恵の征服者ベルフェゴールがテオに治癒魔法をかけた。
あと一秒でも治癒が遅れていれば、テオは死んでいた。
しかし知恵の征服者ベルフェゴールによって、彼は一瞬で蘇生させられたのだ。
「はあっ、はあっ……なんだ。なにが起こってやがる。これは夢なのか……?」
片足だけ『死』に足を突っ込んだというのに、テオは寝言のようなことを口にしている。
「ねえねえ、ハワード様! こいつ、やっちゃってもいいんだよね!」
「待て。殺してもいいが、魂までは粉砕するな。そいつの死霊は良い実験材料となるのだからな!」
幻影の獣姫リリスは無邪気に。死霊の王モルタスは豪快な口調で彼女を嗜めた。
「た、た、助けてくれ。俺は悪くない! 全部、帝王の命令だったんだ! 俺は従うしかなく……」
テオは勝てないとようやく悟ったのか。
惨めったらしく命乞いを始めた。
しかし俺はそれを一蹴する。
「たとえ帝王の命令だとしても、お前が俺の故郷を焼いたのには変わりない。それに聞いているぞ? 随分楽しみながら、村人を皆殺しにしたそうだな? その中には今のお前みたいに命乞いをした者もいた」
優しい両親。
ちょっとお節介だが、俺のことを心配してくれた幼馴染。
俺が宮廷魔導士になるために帝都に向かう際、送別会を開いてくれた村長たち。
みんなの笑顔を、俺は片時たりとも忘れたことはない。
しかし全て、こいつに奪われた。
どれだけ命乞いをしたとしても、俺はテオを許す気にはなれなかった。
「お前は今まで、常に捕食者側だった。しかし今はどんな気持ちだ? 自分が狩られる側になる気持ちはな。俺は絶対にお前らを許さない」
「や、やめてくれ! 謝る! そ、そうだ。お前に金も女も権力もやる! だから助けてくれ。俺が悪かった!」
とテオは土下座をする。
正直……こんなことをされても、ちっとも気は晴れない。
それどころか不快感が増していくのみだ。
俺は土下座をしているテオの後頭部に唾を吐きかけ、仲間たちにこう命令する。
「帝国の情報をなるべく抜き取ってから殺せ。方法はお前らに任せるが、すぐに殺すんじゃないぞ? たっぷり時間をかけてから、命を奪ってやれ」
「はーい!」
幻影の獣姫リリスが嬉しそうに返事をして、他の者たちもそれに続いた。
もう少し、ここでテオが殺されていく光景を眺めておきたいが……俺にはするべきことがある。
俺は悲鳴を上げるテオに背を向け、吸血鬼エドヴァルトにこう声をかけた。
「どうだ? これが俺たちのやるべきことだ。どのような感想を抱いた?」
「素晴らしい行いでした。人間の中には『復讐はなにも生まない』という巫山戯た言葉があることは知っていましたが……ハワード様の頭の辞書には存在していないのですね
「当然だ。そのような言葉は強者の意見。もしくは現実を知らない、甘ちゃんの言葉だ」
「同感です」
次に俺は魔族クロエに視線を向ける。
「クロエ。北部の基地はどのような様子だった?」
「阿鼻叫喚の地獄絵図です。魔物たちも全回復させたので、今頃は陥落している頃かと」
「上出来だ」
そう答え、俺は手をかざす。
手元に現在の北部基地の状況が映し出されていた。
俺は逃げ惑う騎士たちを眺めながら、こう口を動かす。
「聞け。帝国の犬どもよ。我らは《ディアボリック・コア》」
彼らに聞こえるように魔力の調整をしながら、さらに続ける。
「我らは反撃する。我らを悪と呼ぶならば、それを甘んじて受け入れよう。何故なら我らの悲願はただ一つ──帝国の崩壊。そのためなら、俺は悪にでも正義にでもなる」
これが全ての始まりだった。
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