4・さらに強い敵(テオ視点)
「まさか本当に転移魔法が発動するとは……」
「簡易的に誰にでも転移魔法が使える魔導具、【転移玉】。一回こっきりのものだけど……彼が開発した魔導具の一つね」
「すごすぎます。こんな魔導具があったら、戦いの歴史が変わりますよ。主様はこんなものも作れるのですね」
「当然よ。彼は天才だもん」
(ん……ここは?)
声が聞こえ、テオはゆっくりと目を開ける。
どうやら、今まで気を失っていたらしい。
(俺は確か……そうだ。基地に魔物が襲撃しにきたんだ。ミノタウロスを倒したところまでは覚えているが……)
と記憶を遡っていた時。
「お目覚めはいかがかな? テオ騎士団長」
次に聞き覚えのある声が耳まで届いた。
テオは上半身を起こして、声のする方に顔を向ける。
「き、貴様は……っ!?」
予想だにしていなかった人物に、テオは声をこう荒らげる。
「ハワード!? どうしてここに……」
そう。
魔物の研究に手を染め、周囲から疎まれていた宮廷魔導士──ハワードがそこにはいたのだ。
「仲間に頼んで、お前をここまで連れてきてもらったのだ。ついさっきのことすら覚えていないのか?」
「なんだと……?」
頭がクラクラしていて、記憶が朧げになっている。
テオがハワードの真意を測っていると、暗がりから二人……いや、二体の人物が続けて姿を現した。
「哀れね。今、自分の身になにが起こっているかも分からないのかしら。ここまで哀れだと、可哀想になってくるわ」
「クロエさん、思ってもいないことを口にするべきではないかと」
「哀れってところは本当よ。可哀想ってのは嘘だけどね」
吸血鬼とメイド。
二体を見て、テオの記憶がぶわっと甦る。
「そ、そうだ! 俺は……」
ミノタウロスを倒したかと思ったら、次に吸血鬼とメイドが現れた。しかもメイドは一瞬で魔物たちを癒してしまい、テオは絶望したものだ。
「吸血鬼がどうして、ハワードの隣にいる。しかもそのメイドは何者だ。あの時、一瞬で魔物たちを治癒していたが……」
「彼女は魔族だからな。その程度のことは容易い」
ハワードが答える。
(ま、魔族だと!? 吸血鬼だけでも手一杯なのに、魔族もいやがったのか! な、なんでそいつらとハワードが……)
動揺を悟られないように平然を装う。
それをハワードは感心した様子で、
「ほお……さすがは騎士団長様。あからさまに取り乱したりしないか。そうでなくてはつまらない」
と口にした。
「バカにすんじゃねえよ。よく分からねえが……今回の北部襲撃、貴様が一枚噛んでるのか? 一体、なにをした。そしてここはどこだ」
「頭も悪くないようだな。しかし愚かだ。命乞いでもすれば、ちょっとは手心を加えてやってもよかったが」
ハワードがそう言うと、魔族のメイドが「ハワードも思ってもないことを口にしないでよ」と呟いた。それに対して、ハワードは答えずに小さく笑いを零す。
「俺の質問に答えやがれ」
「ああ、すまないすまない。長年の夢を実現出来て、俺も少し興奮してしまっているようだ。まずは今いる場所を答えよう。ここは奈落の洞窟。騎士団長様なら、そう言えばここがどういう場所か分かるだろう?」
とハワードは衝撃的な事実を口にした。
(よりにもよって奈落の洞窟だと!? 危険地帯すぎて、さすがの俺でも近寄ろうしねえ場所だぞ!?)
しかし同時に疑問が湧いてくる。
奈落の洞窟には、魔力で充満している。多すぎる魔力は人にとっては毒だ。酒をたらふく飲んだ時のように、すぐに目を回して気を失ってしまう。そして運が悪ければ、そのまま死ぬ。
テオは魔導士ではない。
ゆえに体に取り込める魔力許容量には自信がなかった。
それなのに、気を失ってすらいないのは……。
「ああ、心配しなくていい。魔法でお前の魔力許容量を増やしてやっている。せっかくの楽しい時間なんだ。色々と見てもらいたいものもある。それなのに、魔力酔いで即死するのは、いくらなんでも味気ないだろう?」
「楽しい時間? 見てもらいたいこと? おい、貴様はなにを考えている。どんな手段を使ったかは知らないが、どうして俺をここに連れてきた」
「復讐するためだ」
ハワードはそう即答し、気持ちよさそうにこう続ける。
「俺お前は俺の故郷の村を焼いた。罪を持たない村人も皆殺しにした。当然覚えているよな?」
「ああ、覚えてるよ。あの時ほど楽しい時間はなかった。あのおかげで、俺は今の美味しいポジションにもありつけているしな」
テオはニヤリと笑った。
それを見て、ハワードの表情に不快の色が浮かぶ。
こうして正直に答えているのは、テオは未だに自分の優位さを信じているからだ。
ハワードが宮廷魔導士時代、テオはずっと彼より上の立場だった。
その気になれば、いつでも殺せる。
殺したとしても、罪にすら問われない。
ゆえにそのような驕りが、テオを饒舌にさせた。そのことをテオは自覚している。
「ゴミが……」
ハワードの声には、静かな怒りが含まれていた。
「やっぱり、最初の復讐相手としてお前を選んだのは間違いじゃなかったよ。心置きなく、お前の悲鳴が聞ける」
「ごちゃごちゃ言ってやがるが……」
テオは剣を抜く。
「悲鳴を上げるのはお前の方だ! 俺を舐めんじゃねえ!」
地面を蹴り、ハワードに強襲をかける。
疾風のごとき速度。吸血鬼と魔族のメイドも反応しきれないだろう。
それはハワードも同様だ。
しかしハワードを切りつけたかと思うと、テオの剣は空を切った。目の前からハワードが消えていた。
「!?!?!?!?」
「はあ……そんな遅い剣で、よく俺と戦おうと思うな。その自信だけは見習いたい」
背中から声が聞こえ、テオは即座に振り向く。
自分の前にいたはずのハワードが、いつの間にかすぐ後ろにいた。
そして吸血鬼と魔族が彼を守るように、立ち塞がっている。
「ちっ……まずは貴様をやる前に、吸血鬼と魔族をやらねえといかんってことか。いいじゃねえか! やってやんよ! 吸血鬼と魔族ごとき、俺の剣の錆にしてやる!」
冷静に分析したら、吸血鬼と魔族相手にテオ一人は無謀な戦いだ。
しかし戦いというのは、やってみなければ分からない。
それに戦わなければ殺される。
テオは騎士団長としての誇り、そして勇気を振り絞り剣を強く握りしめたのだが……。
「どうして俺がお前をここに呼んだか説明しただろう? お前に見てもらいたいものがあったからだ」
ハワードは楽しそうにこう続ける。
「常人なら、この状況だけでも絶望してもおかしくない。だが、これでお前の心を折れるとは最初から思っていなかったよ」
「貴様はなにを言っている?」
「さあ、遊びはここまでにして、そろそろ始めようか」
パチンとハワードが指を鳴らす。
次の瞬間、なにもない空間から四体の異形の存在が現れた。
「俺の仲間には、まだまだ強いやつがいる。吸血鬼エドヴァルとと魔族クロエが前座に思えるほどのな」
今度こそ、テオは心を折られる。
何故なら、テオの前に姿を現した四体の異形は、ハワードの言った通り異次元の強さだったからだ。
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