35・エピローグ『いつまでもあなたの隣に』
戦いが終わった後。
わたしは吸血鬼のエトヴァルトと、今回の戦いについて振り返っていた。
「では──ハワード様は本気じゃなかったと?」
彼からの問いかけに、わたしは首を縦に振る。
「うん。わたしの予想だけどね」
「信じられませんね。今回の戦いは《ディアボリック・コア》として総力戦でした。さすがにハワード様でも、究極魔法を連発させてくるギデオンに苦戦したのでは……?」
エトヴァルトは不可解そうな表情である。
確かに。
ギデオンとの戦いは今までのものとは比べものにならなかった。
後からハワードに聞いたけど、最終的なギデオンのレベルはアザゼルやリリスといった、《ディアボリック・コア》の中でも最強の精鋭たちを超えていたらしい。
それなのにハワードが本気を出していなかったと考えるのは、彼のことをよく知らない者からしたら信じがたいことだろう。
だけど。
「ハワードには悪癖がある」
そう言って、わたしはさらに続ける。
「相手に本気を出させて、魔法の研究する……っていう悪癖がね」
「それじゃあ、なにですか? あの場においても、ハワード様の悪癖が出たんじゃないかと」
「多分ね」
よくよく考えてみれば、あの時のハワードには余裕が残っていた。
さすがに彼の師匠レイナが出てきた時は動揺したみたいだけど、ギデオンとの戦いについては終始笑顔を浮かべていた。
最後は彼の最強魔法で決着を着けていたが、まだまだ底がありそうな気がしてやまないのだ。
「ハワード様の専属メイドとして仕えていた、あなたの言うことです。そうかもしれませんね」
とエトヴァルトは椅子の背もたれに体重を預けて、感嘆の声を漏らす。
「ハワード様の強さはどこまで続いているのでしょうか」
「それはわたしにも分からないわ。だけど、強さの底はまだまだ先ってことよね。もしかしたら、底なんてないかもしれない」
「我が主ながら、恐るべきことですね。たとえそうだとするなら、ハワード様が本気を出す機会は、この先あるのでしょうか」
エトヴァルトが不意に言った問いかけに、わたしは答える言葉を持ち合わせていなかった。
ハワードは強い。
本気を出さなくても、数々の問題を片付けてしまう。
そんな彼が本気を出さなくてはいけない事態。そもそも起こらない方がいいかもしれない。
だけどわたしはこうも思ってしまうのだ。
ハワードが本気を出したら、どうなるんだろうか?
その時もわたしは彼の隣にいることが出来るのだろうか。
ハワードの顔を思い浮かべて、わたしはふと不安になるのであった。
◆ ◆
「今回の戦いは収穫が多かったな」
執務室。
俺はクロエと話し合っていた。
「そうね。ギデオンに施されていた究極魔法。そして……あなたの師匠の存在。得られたものは数知れないわ」
「だな」
クロエの言葉を、俺は肯定する。
レイナ師匠が本当にくたばっているとは思っていなかったが……生存を確認出来て、嬉しさが募る。
しかしそれはレイナが俺の味方であった場合だ。
レイナは俺と敵対した。
彼女は俺のことを猛毒と称していたが……どういう意味だろうか。
レイナが意味のないことを、わざわざ口にするとは思えない。
「レイナ以上の強敵はいないだろう。だが──」
俺はニヤリと笑う。
「たとえ師匠が相手でも、俺たちの敵として立ちはだかるなら排除する。俺には必ず果たさなければならない目的があるのだから」
帝国の復讐……というな。
《ディアボリック・コア》が逆襲を開始して以降、帝国には甚大な被害を与えることが出来ている。
北部国境線沿いの陥落。ナイトシェードの救出。魔法都市アルカナス攻略。そして第五皇子の殺害。
だが、ギデオンは見放された皇子だ。彼を倒したからといって、さほど帝国には動揺が広がっていないようだが……レイナの生存という情報を得ることが出来た。
今のところは順調である。
「しかしレイナはゲームバランスを崩壊させるぶっ壊れキャラだ。今までが順調だからといって、気を緩めてはいけない」
「そうね。でも……大丈夫かしら?」
「なにがだ? 俺がレイナに負けるとでも?」
「そ、そうじゃないわ」
失言だと思ったのか。
クロエが慌てて早口になり、こう言い繕う。
「ハワードは誰にも負けない。だけどあの女相手なら、あなたも本気を出さざるを得ないでしょう」
「そうだな」
「その時、わたしはあなたの隣にいられるのか……って。わたしは弱いから。この先の戦いに付いていけるのか不安になって……」
「ふっ、なにを言うんだ」
そんなことをクロエが言い出すとは思っていなかたので、つい笑いが零れてしまう。
俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「俺は一人じゃ、なにも出来ない。俺には仲間が必要だ。そして……クロエ。俺の右腕にはお前がふさわしい」
「わたしなんかでいいのかしら? 強いだけなら、リリスとかベルフェゴールとかいるけど」
「もちろん、彼女たちも大切な仲間だ。しかし……お前は他と違うのだ。言葉で上手く表現出来ないがな」
クロエがいたから、俺はここまでやってこれている。
彼女がいなくなったら──と考えると、恐怖で震えが止まらなくなる。
「だからこれからも隣にいてくれ。なにせ、俺は臆病者だからな。一人じゃ、怖くてまともに道も歩けない」
「……分かったわ。この命尽きるまで、わたしはあなたの傍にいる」
そう言って、クロエはふんわりと笑ったのであった。
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これでこの作品は本編は一旦完結となります。
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