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33・避けられない再会

魔界雷神砲デモニックソニックサンダー


 究極魔法が使えるのはギデオンだけではない。

 なんなら、究極魔法は俺の専売特許と言ってもいいだろう。


 ここに至るまで、俺は血の滲むような努力をした。


 時には彼女と。

 時には《ディアボリック・コア》の仲間たちと。

 それらは全て、帝国への復讐に繋がる。


 帝国の横暴な行いの象徴もともいえる第五皇子ギデオン。

 彼を滅するには、この魔法がお似合いだろう。


「クソがあああああ! 舐めるなあああああ!」


 ギデオンが叫び、魔界雷神砲デモニックソニックサンダーに対抗すべく魔法を編む。


 それは──間に合った!


 闇の波動と灼熱の炎がぶつかり、せめぎ合う。


 しかし。



「今更もう遅い」



 他人からもらった魔力で放った魔法を相手に、俺の帝国への憎悪が負けるわけがないのだ。


 やがて衝撃の均衡が崩れる。

 ギデオンの魔法を飲み込み、さらに強大となった魔界雷神砲デモニックソニックサンダーは、彼に向かっていった。


「どうしてだ……? 勇者の僕が、どうして魔王に負ける!? 最後に正義は必ず勝つんじゃなかったのか!?」

「残念ながら」


 漆黒の炎がギデオンを飲み込み、彼の体を灼く。


「これは御伽話の戦いじゃない。現実の戦いなんだ。強い者が最後には勝つ」


 俺の言葉は届いたのだろうか。


 魔界雷神砲デモニックソニックサンダーの直撃をくらったギデオンは、黒焦げの状態で地面に倒れていた。


 ギデオンの体に施された魔法は解除されたのだろうか。彼のレベルも急降下し、今では二桁を示していた。


「やった……のかしら?」

「さすがハワードじゃ! こんな小物なんかに負けないのじゃ! これで戦いは終わったのじゃろ?」


 クロエは震えた声で。

 ナイトシェードは歓喜に溢れた声で、俺に問いかけた。


「ああ。ギデオンがもう一度立ち上がってきても、最早俺の敵ではない。俺たちの勝利だ」

「でも、どうして殺さなかったのかしら? まだ生きてるわよね?」


 クロエの問いかけ通り──ピクリとも動かないギデオンではあるが、ギリギリのところで生きている。

 このまま放っておけば、直に死ぬがな。


「情けをかけたの?」

「まさか」


 俺は肩をすくめる。


「ギデオンには、まだまだ聞きたいことがある。彼に施されていた魔法は異常なものだった。この魔法の裏には、ある一人の()()の姿が見え隠れする」

「それって……」


 とクロエが言葉を続けようとした時であった。




「ハワード、成長したね。君が負けるとは思っていなかったけど、まさか無傷で戦いを終わらせるとは思っていなかったよ」




 戦いの余韻を切り裂くかのような、美麗な声。

 クロエとナイトシェードが警戒を強める。


 ギデオンのすぐ上に転移門が出現。

 ()()はまるでダンスホールに足を運ぶがごとく、優雅な振る舞いで戦いの地に足を着けた。



「やはりあなたでしたか──レイナ師匠」



 と突如現れた女性──レイナに俺はそう告げた。


 燃えるような赤髪の女性。

 今は黒のローブを着ていて分かりにくいが、体は絶世のプロポーションを誇る。

 世の男性が全員見惚れてしまう美麗な容姿に、まるで周囲の時が止まってしまったかのようだった。


 この戦いには似つかわしくないほどの美しい女性。

 しかし内包されている底知れぬ魔力に気付き、クロエとナイトシェードが俺の前に立つ。


「レイナ……って、もしかしたらハワードの師匠だったって人?」

「どうして現れた? 我々の勝利を祝福しにきた……というわけでもあるまい」


 だが、二人ともすぐに攻撃を仕掛けたりしない。


 二人にはレイナ師匠のことを、あらかじめ何度か話していた。


 ゆえに敵か味方かを決めかねている節もあるが……なにより、レイナからは一切の敵意が感じられなかったのだ。

 彼女は楽しそうに俺たちを眺めている。


「良い仲間を持ったね、ハワード。私の忠告を守っていたようだ。ほんと、君は出来の良い弟子だよ」

「恐縮です」


 と俺は言葉を返す。


 俺が帝国に復讐を果たそうと決意した時。

 彼女はどこからともなく、俺の前に姿を現した。


 レイナは自分のことを『魔女』と名乗った。

 素性も知れない女を、俺は当初胡散臭く感じていたが……その底知れぬ強さに、すぐ心奪われることになった。


 それからは宮廷魔導士としての仕事をこなしつつ、俺は密かにレイナの師事を受けることになった。


 厳しい特訓だった。

 常人ならすぐに逃げ出していただろう。


 だが、俺が逃げ出さなかったのは、やるべきことがあったから。

 そのおかげでもあって、俺はこれだけ強くなることが出来た。


「生きていたんですね。戦争で死んだと聞いていましたが」

「ははは、心配してくれていたのかね? まさか君がそんな出鱈目を信じていたと?」

「……半信半疑といったところでした」


 帝国は現在進行形を含め、頻繁に他国と戦争を繰り広げている。


 レイナはある日、俺に「戦争に行ってくる」と告げ消えてしまった。

 そして風の噂でレイナは死んだと聞いていたが……信じることは出来なかった。

 それほどレイナは強く、誰かに負けているところが想像出来なかったからだ。


 まあ最初のうちは動揺し、涙を流してしまったが。


「色々聞きたいことはあります。しかし……今聞くべきことなのは、そいつのこと」


 と俺は倒れているギデオンに視線を向ける。


「彼に究極魔法を施したのは、あなたですね?」

「そうだ。ギデオンはよくやってくれたよ。私が開発した魔法には、王族の血と熟成された憎悪が必要なのだが、彼にはその二つが備わっていた。さらには君の一件で帝王の怒りをかい、見放されていた。私の実験に、これだけ好都合な人物は二度と現れないだろうね」

「だったら、どうしてそんなことをしたんですか? ……いや、聞き方が間違いましたね。どうして、俺とギデオンを戦わせるような真似を? あなたは俺の目的を知っていますよね?」


 レイナの性格上、たとえ王族相手にでも、究極魔法の実験をすることは有り得る。

 俺が負けるとは思っていなかったようだが、最悪命を落とす可能性もあった。レイナがそんなことをするメリットが、あまりにも皆無な気がしたのだ。


 そんな俺の疑問を嘲笑うかのごとく、レイナはこう口を動かす。


「それは君が私の()だからだ」

「俺が……師匠のですか?」

「そうだ」


 とレイナは首を縦に振り、話を続ける。


「君は帝国が巨悪だと思っている。しかし君は世界の真実を知らない。君は強くなりすぎた。可愛い弟子だとしても、世界の()()と成り下がったのなら、私は君を排除しなければならない」

「決まった……わね」


 そこまで聞いて、真っ先にクロエが動いた。

 右手に雷を纏わせて、レイナに胸元を貫こうと突き出す。


「……っ!」

「ははっ、可愛い恋人だね。君にはこれくらい元気のある恋人の方がいいかもしれない」


 クロエの一撃は空を切り、いつの間にかレイナな彼女の後ろに回り込んでいた。

 クロエもすぐに振り返り、再び攻撃を放とうとする。しかしレイナがさっと手をかざすと、クロエは動けなくなった。


「そっちのダークフェアリーも、私と遊ぶ気はないのかな?」

「言われなくても……そのつもりじゃ!」

「待て」


 と俺はナイトシェードの肩を掴み、彼女を止める。


 このままやっても、ナイトシェードが紙屑のように葬り去られてしまう未来が、安易に想像出来たからだ。


「師匠──いや、もうそう呼ぶのはやめよう。レイナ、俺が世界の猛毒とはどういう意味だ? たとえレイナ相手でも、俺の敵になるなら排除するぞ」

「怖いねえ。でも残念。()の君では、まだ私には勝てないよ」


 レイナはそう言って、指を鳴らす。


「だから君の相手は、まだその雑魚で十分だろう。君はさっきの戦いには勝利した。だけど戦いが一度だけだとは、誰が決めた?」


 ギデオンの体を中心に闇が奔流する。

 結界魔法で彼を閉じ込めようとするが──間に合わない。



「連戦といこう」



 魔法都市アルカナスに張られていた結界より数倍強いものを張っても、ギデオンから放出される闇に片っ端から壊されていった。


ギデオン一人だけじゃ、君には敵わなかった。だけど()()の魔王相手なら、どうかな?」


 レイナがそう告げると、ギデオンの体が爆裂する。


 するとその体の内側から、闇の塊が空に飛翔していった。

 塊の数はレイナの言う通り、五体分。


「なるほど……な。分裂というわけか。ここまでレイナの狙い通りだったということだ」


 ギデオンの体から分裂した闇──魔王は瞬く間に拡散されていくだろう。

 殺戮には人間や魔物、魔族などという隔たりもない。

 地獄の門が開いたのだ。


「また会おう。まあ……もっとも、そいつらを退けたら──の話だがな」


 そう言って、レイナは再び転移門を開き、俺たちの前からいなくなってしまった。


「追いかけなくてよかったの?」

「出来ていれば……な。レイナがそれを許すはずもない。それに、俺はレイナの置き土産をなんとかしないといけない」


 彼女の言ったことはブラフではない。


 ギデオンの体から分裂した闇──そのレベルはおよそ400。

 しかも一体だけではない。五体を相手にしなければならないのだ。

 無論、全員相手にする必要もないが──一体二体倒したところで、彼女は俺を認めないだろう。


「彼女ともう一度会うためには、これらを殲滅する必要がある」


 絶対絶命の状況のように思えるが、俺の心は弾んでいた。


「しかし、これらを全て相手にするのはさすがのハワードとて難儀するのでは?」

「一人で戦う必要なんてないだろ?」


 俺は口元に笑みを浮かべ、こう続けた。



「俺には仲間がいる。俺たちがあんなもんなかに、負けるわけなさいさ」

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