27・翼がもがれた天才魔導士
街は惨憺たる状況であった。
俺たち──《ディアボリック・コア》によって、街は無事に制圧することが出来た。
そもそも二つの戦力には大きな差があった。
究極魔法のことがなければ、このように街をすぐに落とすことも可能であった。
そして敗軍の将は……。
「わたくしたちの負け……ですね」
地面で横になり、ラヴィーナが口を動かす。
魔人化も解かれてしまって、いつも彼女の姿に戻っている。
しかし天雷神破が直撃したことによって、既に満身創痍の状態。
あれだけキレイだったドレスもボロボロで、いつ何時も着飾っていた彼女とは思えない。
「だな」
と俺は言葉を返す。
ラヴィーナはもう手遅れだ。今からどう手を施しても、助かることはないだろう。
だから仮にも元恋人だった義理で、辞世の句くらいは語らせてやってもいいと思った。
「あなた、爪を隠していたのですね。宮廷魔導士の頃は、そんなにお強くなかったでしょう」
「それは間違いだな。俺はいつでも全力だったよ」
俺は肩をすくめる。
魔法と魔物の研究に明け暮れたせいで、なかなか戦いに身を投じることはなかった。
だから力を披露する場がなかなか訪れなかったのは、紛れもない事実だ。
だが、手加減は昔から苦手だった。
ラヴィーナの言う通り、爪を隠すことなんて出来なかっただろう。
「俺がここまで強くなったのは、帝国に復讐しようと努力したからだ。良い師にも巡り会えたしな。お前が負けたのは、そこらへんの差かな」
「そうじゃ! ハワードはすごいんじゃぞ! お主ごときに負けるはずがない!」
ナイトシェードもやっきになって反論する。
それを聞き、ラヴィーナは「ふっ」と笑って。
「そうかもしれませんわね……わたくしも、ちょっとは頑張ったら、あなたのようになれていたかもしれません」
「らしくないな。後悔か?」
「後悔? 違います。これは懺悔ですよ。自分自身への」
ラヴィーナの瞳はずっと、空に向けられていた。
彼女は昔から、「鳥のように空を自由に羽ばたきたい」と言っていた。
幼い頃は公爵令嬢として、家族から縛り付けられていた反動からなのだろうか。
それは奇しくも、人間の体を捨てることによって実現したが……果たして、これで彼女は満足しているのだろうか。
「あなたをここまで強くした師匠というのも気になりますね。どんな人かは知りませんが……わたくしも一度くらいは師事を受けてみたかったですわ」
「師匠なら死んだよ。戦争があってな。駆り出されたんだ」
あとから師匠が死んだことを手紙で知った時は、俺も悲しみに暮れたものだ。
それでも、もう一度立ち上がることが出来たのは、帝国への復讐という大願があったためだ。
「そうですか……残念ですね。もしかしたら、『黒の魔導士』があなたの師匠だと思ったのですが」
「黒の魔導士?」
「最近、新しく宮廷魔導士になった人物です。いつも黒のローブで顔を隠しているから、わたくしでも彼……もしくは彼女の正体は分かりません。しかしこれだけは言えます。黒の魔導士は化け物ですわ。あなた以上のね」
「ハワード以上? ハワードが最強なのじゃ! そんなの、この世にいるとは思えぬ!」
ナイトシェードが彼女の言ったことに腹を立てている。
「…………」
しかしラヴィーナの負け惜しみとは思えない。
彼女が優れた魔導士であることは俺も認めている。魔法に関しては、見る目は確かなはずだ。
そんな彼女がここまで言うんだ。黒の魔導士とは一体何者なのか……。
「良い仲間ですわね……」
黒の魔導士について考えていると、驚くほど優しい声でラヴィーナは言った。
「そのダークフェアリーだけではありません。《ディアボリック・コア》の仲間は、どうやってかき集めたのですか?」
「まあお前はもう死ぬんだ。それくらいは教えてやるよ。魔物の討伐パーティーとして世界中を旅していた時に、スカウトしていたんだ。逃げるふりをしてな」
「魔物の討伐パーティー……第五皇子ギデオンが率いていたものでしたか」
「そうだ」
そう言うと、ラヴィーナの瞳に込められている感情が明らかに変わった。
「どうした? なにか気になることでも?」
「いえ……そこに繋がってくるかと思いまして。どうやら、第五皇子が鍵のようですわね」
「お前の言っていることは分かりにくい。どういう意味だ?」
「……まあ、ここまで教えていただいたお礼です。最後に一つ、わたくしからも教えてあげましょう」
次にラヴィーナから語られた事実は、俺にとって驚くべきことであった。
「第五皇子ギデオン──彼は実験動物ですわ。彼を触媒にして、帝国はある計画を進めています」
三章魔法都市編、終わりです!
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次話から最終章に入ります。
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「ギデオンの真実とは……?」
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