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23・元恋人の前で舐めプしてみる

 俺たちは首尾よく領主の館まで辿り着き、大きな扉の前で立ち止まっていた。


「この先にラヴィーナがおるのか?」

「おそらく……な」


 物々しい雰囲気。

 戦時中だというのに、やけに周りが静か。まるでこの場が何人たりとも足を踏みれてはいけない神域のようであった。


「さて……ハワードの企みは成功しているじゃろうな」

「仮に失敗したとしても、真正面から打ち砕いてやればいいだけだ──入るぞ」


 そう言って、俺は扉を押し開ける。



「ようこそ。わたくしの館へ」



 いた。

 ラヴィーナだ。


 彼女は豪華なドレスに身を包み、優雅な笑みを浮かべていた。


 ラヴィーナの本性を知っていなければ、おとなしい公爵令嬢に見えるだろう。

 しかし彼女の顔を見ていたら、俺は過去の嫌な思い出がぶわっと甦ってくる。


「大丈夫か? ハワード」


 一瞬眩暈がした俺を、女騎士の姿をしたナイトシェードが気遣ってくれる。


「ああ、問題ない──ラヴィーナ、久しぶりだな」

「あなたもお変わりなく。やはり、ハワード──あなたでしたのね。待ちくたびれてしまいましたわ」

「その様子だと、勘づいていたか」

「ええ、あなたの矮小な考えなどお見通しですもの。昔からあなたは策を巡らしたりするのが苦手でしたね」


 くすくすと笑うラヴィーナ。


「ほお? だったら、どうして俺をここまで招いてくれた。怪しいと思っていたなら、無視すればいいだけじゃないか」

「せっかく、()恋人が来ますもの。丁重に出迎えなければ失礼というものでしょう?」


 ラヴィーナは声の調子を変えずに言う。


 やはり彼女は自分が一番頭が良いと思っている。

 だからこそ、俺がなにかを考えていたとしても、返り討ちに出来ると考えているのだろう。


「だから……」


 そう続けて、ラヴィーナは手を挙げる。



「わたくしだけでは、あまりにも味気がないと思いまして。()()()()で、ハワードを歓迎することにしました」



 その瞬間。

 後ろの扉が開き、大人数の騎士たちが姿を現したのだった。


「準備は万端……ってことか。館に配置していた騎士を総動員したか? だから館の中が静かだった」

「ふふふ、余裕ぶっていてもわたくしには分かります。あなたの焦りがね」


 とラヴィーナは両腕を広げる。


「これだけの数! いくら元宮廷魔導士だったあなたでも、さばくことが出来ないでしょう! あなたはここで《ディアボリック・コア》の情報を全て吐いて、死ぬのです! ゴミらしい最期ですわ! ほーっほっほっほ!」


 本性を隠す気もなくなったのか、ラヴィーナが不快な笑い声を上げる。

 こうしている間にも、騎士たちは俺とナイトシェードを取り囲み、じわじわと距離を詰めてきた。


「あーあ……やってしまったのじゃ」


 ナイトシェードは頭を抱えて、そう呟く。


「丁重なお出迎え、礼を言うぞ。ちなみに……新しい究極魔法を開発したようだな? どんなものだ?」

「それはあなたが一番知っているのではありませんか?」

「どういうことだ?」

「何故なら、新しい究極魔法は元々はあなたが作り出そうとしたもの。しかしあなたは自分の至らなさを知り、研究を頓挫させてしまった」


 なっ……!?


 どれのことだ……?


 究極魔法は魔導士としての憧れであり、いただきでもある。究極魔法を使うことこそが、魔導士としての最終目標だと思っていた。

 だから俺も既存の究極魔法ではなく、新しいものを日夜開発しようとしていた。

 その中のいくつかは成功したが……あまりにも数が膨大すぎて、ラヴィーナの言っているものがどれなのか見当つかない。


「驚きましたか? 自分がかつて作った魔法に殺されるのは」


 記憶を遡っていると、ラヴィーナはいちいち挑発を入れてくる。そのせいで思考が途切れて、上手く思い出せなかった。


「ならば、今すぐ使ってみせよ」

「まあまあ、すぐに殺してはつまらないでしょう? まずはあなたのその余裕を崩してからです。まあ……そっちのお仲間さんは既に絶望しているようですが?」


 ラヴィーナに言われナイトシェードに視線を移すと、さっきから彼女は俯き加減になって口を閉じていた。


 勝負を諦めているように見えるかもしれない。


 だが。



「ハワードの悪癖が出たか……相手が魔導士だったら、全力を引き出してから倒したいと思う悪癖。いい加減、直した方がいいと思うぞ」



 偽りの元恋人なんかより。

 相棒のナイトシェードの方が、俺のことを熟知していた。


「悪い悪い。やっぱり、究極魔法と聞いて俺も興奮していたようだ。《ディアボリック・コア》を立ち上げてからは我慢出来ていたが……こればっかりは、どうにも直せない」


 頭を掻いて、呆れているナイトシェードにそう謝った。


 俺の悪癖。

 先日の一件、グレフォード公爵も六聖刃のリーナも魔導士じゃなかったので、抑えることが出来た。


 しかし今回の相手は魔導士のラヴィーナ。


 そもそも企みが看破されると思って、わざわざこんな手段を取ったのも、騎士たち大勢で出迎えてくれると思っていたから。

 予想通りの展開に、俺の心は弾んでいた。


「悪癖……? あなたがたは先ほどから、なにを言っているのですか? 天才魔導士であるわたくしを、バカにしているのですか?」


 ラヴィーナの声が明白な怒気を帯び始める。


「もういいでしょう。さあ、その二人をやりなさい。女騎士の方は洗脳されているかもしれませんが、構いません。洗脳される方が悪いのです。まとめて殺しなさい!」


 彼女の号令と同時に、騎士たちが一斉に動き出す。

 殺到し、俺たちを殺すべく剣を──。



「お主らは誰を前にしていると思う? 黒翼の妖精、ナイトシェード様じゃぞ」



 ドゴォオオオオオオン!


 爆発音。

 ナイトシェードが剣を抜き、襲いかかってくる騎士たちを一気に薙ぎ払った。


 彼女にとったら、虫を払ったのと同じだろう。

 しかし今ので少なくとも、最前列に位置していた騎士たちは戦闘不能になったはずだ。


「……は?」


 衝撃的な光景に、目を点にしているラヴィーナが見えた。


「一体どうして……いくら洗脳されているからといって、この魔力量は有り得ないでしょう」

「ほお? さすがは自称天才魔導士様。先ほどの一撃、剣に魔力を込めて放ったとは気付いたか」

「黒翼の妖精……ナイトシェード……なるほど。グレフォードの豚野郎が逃したダークフェアリーですか。ダークフェアリーは他人の体を乗っ取る術があると聞いたことがあります」


 ラヴィーナは俺の言ったことを無視して、こう続ける。


「しかしそれがなんですか? 黒蠅くろばえごときが、わたくしに勝てるとでも? こんなの究極魔法を使うにすら値しません」

「そうか……」


 こうなっても使う気がないか……俺がやったら加減を間違って、そのままラヴィーナを殺してしまいそうだ。


 仕方がない。


「ナイトシェード、ここは任せたぞ。どうせこの館に新しい究極魔法の研究が記されたものがあるんだろう。俺はそれを探しにいく」

「うむ、任せろなのじゃ。()()を稼いでやる」

「お、お待ちなさい。逃げるのです──」


 手を伸ばすラヴィーナの前に、ナイトシェードが立ち塞がる。


「おっと。お主の相手は儂なのじゃ。ちょっとは遊んでくれんかのお?」

「こ、こんの黒蠅くろばえがああああああああ! あなたから先にってさしあげます!」


 おおー、怖い怖い。


 本気を引き出させるのが狙いだったとはいえ……今のところ、ラヴィーナは怒りに囚われているだけだ。

 もう少し、冷静さを取り戻させなくっちゃな。


 そう思いながらここをナイトシェードに任せ、俺は部屋を後にし、究極魔法の手がかりを探すことにした。

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