17・祝勝会
ナイトシェードの救出も成功に終わり、俺たちはすぐにアジトである奈落の洞窟へ帰還した。
そこで俺たちを待ち受けていたものは、驚愕の……いや、ある意味では予想していた光景であった。
「ハワード様の帰還! そしてナイトシェードちゃんの復活を祝して……かんぱーい!」
音頭を取るのは、幻影の獣姫リリスだ。
どうやら俺たちが戻ってくるまでに、祝勝会の準備を済ませていたらしい。帰ってくるなり、すぐに祝勝会が執り行われた。
そしてそれは俺たちの勝利を信じて疑わなかったということを意味する。
騒がしいのはあまり好きではないが……これから、帝国とは長い戦いになる。こういった息抜きも時には必要だ。
「メイド服のリリスもいいな。新鮮で可愛い」
「ありがと!」
幻影の獣姫リリスが嬉しそうに笑う。
彼女は《ディアボリック・コア》の中でもムードメーカーで、いつも明るい女の子だ。
クロエとは違い、ピンク色のメイド服に身を包んでいる。
フリフリのスカートから獣人の尻尾が出ているのが、これまたチャーミング。褐色の艶かしい素肌も、健康的な彼女らしかった。
この国では、獣人は差別対象。
獣人である彼女もその差別からは逃れられず、帝国には色々と酷い目に遭わされていたのだが……その関係もあって、《ディアボリック・コア》のメンバーに加わった。
これだけ可愛いのに《ディアボリック・コア》の中でも随一の実力を誇るのだから、反則的だ。
「むむむ……」
しかしクロエはリリスを褒めている俺を見て、不満顔である。
どうして、そんな顔をするのだろうか?
「ナイトシェード様は、ハワード様の元相棒だったんですよね? 昔のハワード様もカッコよかったですか?」
宴会が盛り上がっていく中。
知恵の征服者ベルフェゴールが、ナイトシェードに質問攻めをしていた。
ベルフェゴールは《ディアボリック・コア》の中で、一番『知識』を探求している。
ゆえに昔の俺が気になるんだろう。
「カッコよかったぞ! あれはまだ、儂がハワードの相棒になって日が浅い頃だろうか……」
ナイトシェードはオレンジジュースが入ったコップを片手に、こう口を動かす。
「ハワードはその頃から、魔導士として一流じゃった。他の宮廷魔導士とは、一線を画していた」
「そうだったか……?」
正直、客観的に見て、昔の俺は他の宮廷魔導士と大して差がなかった。
中でも、宮廷魔導士の総長は歴史上最高の傑物。
昔の俺なんかが百回やったとしても、総長には勝てなかっただろう。
他にも俺の因縁の女だったり、師匠がいたり……帝国にはまだまだ化け物がいる。
俺がこうして《ディアボリック・コア》のリーダーとして認められるだけの力を有したのは、帝国に裏切られてから。
帝国への憎悪が、俺をここまで強くしてくれた。
「ある日、儂が他の宮廷魔導士に喧嘩を吹っ掛けられた時……確か総長?と言ったかな。ハワードは総長と一騎打ちすることになった。その時儂は『やめて! 儂のために争わないで!』と叫んだものじゃ」
「そんなこと叫んでないだろう。それに……総長はただ、純粋に俺と戦いたかっただけだ。ナイトシェードのことなんて眼中になかった」
「思い出は美化されるものなのじゃ」
したり顔で言うナイトシェード。
《ディアボリック・コア》のメンバーはナイトシェードの話に引き込まれているのか、前のめりになって耳を傾けていた。
彼女の昔話は続く。
「総長は儂の目から見ても化け物。そんな総長との戦いは、どうなったと思う?」
「ハワードの圧勝だね」
「ハワード様が負けるはずがありません」
「オチが読めるわね」
リリス、ベルフェゴール、クロエの順番で答えが出揃う。
俺の勝利を疑っていないようだ。
しかしナイトシェードは「チッチッ」と人差し指を左右に動かして。
「結果は……引き分けじゃ! ハワードは総長をぶっ飛ばしたかったじゃろう。しかし総長はハワードの上司。上司相手に勝ってしまっては、ハワードの相棒である儂の立場も悪くなってしまう。じゃからハワードはぐっと我慢して、引き分けに持ち込んでくれた……あの時、儂はハワードの器の大きさに感服したものよ。ハワードは瞬間的な怒りに囚われず、常に大局を見ておる」
「さ、さすがはハワード様……!」
「さすがね。わたしなら、その総長ってヤツを迷わず殺してたわ。その後のことも考えず……」
みんなはナイトシェードの話を全面的に信じ、感動しているようであった。
だが、事実は少し異なる。
確かに引き分けだったことは本当だ。
しかしあの時の俺では、総長には勝てなかった。彼はわざと手を抜いたのだ。
とはいえ、負けるのも癪だったので、俺もなんとか引き分けに持ち込んだ。その後のことなんて考えず、あの時は必死だった。
今やっても、あの総長と一対一でやりあったら、さすがの俺とても苦戦するかもしれない。
だが、俺には信頼出来る仲間がいる。
負ける気はしないな。
「そうじゃろそうじゃろ! 儂はハワードと付き合いが長い。ハワードのカッコいい武勇伝がもっと聞きたかったら、遠慮せずに聞くがいいぞ!」
ナイトシェードは腕を組み、悦に浸っているようだった。
しかし。
「……気に入らないわね」
それに待ったをかける女がいる。
クロエだ。
「昔のハワードの話を聞けることは、楽しいわ。だけど昔の女気取りかしら? あなたが一番、ハワードを理解しているとでも?」
「その通りじゃ。儂が捕えられてから、ハワードは帝国への復讐のためにここ──《ディアボリック・コア》を作ったんじゃったな?」
「そうね」
「じゃったら、儂が一番ハワードと付き合いが長い! ハワードの昔の女といっても過言ではないのだ!」
偉そうに胸を張るクロエ。
「ややこしいことを言わないでくれ……」
それに──思い出すだけで胸糞悪くなるが──昔の女といったら、あいつの顔が思い浮かんできて……。
「それに気に入らないのよ! ずっと捕えられていたくせに、一番の女気取りかしら? 時間はあなたに負けるかもしれない。だけどハワードへの"想い"は、わたしの方が上よ」
「想いの強さも儂の方が上なのじゃ! 儂はハワードのためになら、なんでもしてもいいと思っておる」
「そんなの! わたしだって同じよ! どれだけ誘惑してもハワードは手を出してくれないけど……」
「それは女として見られていないのでは?」
「……っ! 違う違う違う! ハワードは優しいから、わたしを傷つけないようにしてくれているのよ!」
ナイトシェードとクロエが口論を繰り広げている。
二人の口喧嘩を止めようと思ったが……やめた。
だって、みんなこんなに楽しそうな顔をしているのだ。
クロエもナイトシェードも、きっとお互いのことを認め合っている。だからこそ、こうして言葉をぶつけているのだ。
《ディアボリック・コア》の中では新参者のナイトシェードも、こうして本音を曝け出したことによって、すぐに受け入れられるだろう。
俺は頬杖をついて、みんなの楽しそうな顔を眺めていると、
「楽しい時間の最中すみません。ハワード様、少しお時間よろしいでしょうか?」
どこからともなく、吸血鬼のエドヴァルトがやってきて、俺に耳打ちする。
「いいぞ。なんだ?」
「実はあの豚……失敬。グレフォード公爵の尋問が一旦終わりまして……」
エドヴァルトの言葉を聞き、頭のスイッチが切り替わる。
「なにか……興味深い情報が手に入ったようだな」
「はい」
エドヴァルトが首を縦に振る。
彼は物々しい雰囲気で、こう口にした。
「帝国は新たな究極魔法を開発し、それを武器として使おうとしているようです」
きゅ、究極魔法だと……!?
魔法の中でも、最も威力と効果が高いものにその名は与えられる。
究極魔法が一度発動すれば、その絶対的は力は天地を揺るがし、運命さえもねじ曲げることが出来ると言われている。
しかも新しい……ときた。
俺でも知らない、未知なる魔法がこの世に顕現しようとしているのだ。
そんな魔法を開発しようとしているなんて──。
「え、なにそれ。ワクワクする」
一魔導士として、昂るじゃないか!
二章黒翼の妖精ナイトシェード編、終わりです!
ここまで応援していただいて、ありがとうございます。
次話で間話を挟みまして、三章魔法都市編に続きます。
「更新がんばれ!」
「続きも読む!」
「新しい究極魔法ってなんなんだ!?」
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