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12・グレフォード公爵邸宅の秘密

 深夜。

 わたしは動き出すことにした。



「地下へのルートはもう分かってる」



 なにも、ただメイドとして働いていただけじゃない。

 与えられた仕事をこなしつつ、館内を把握していたのだ。

 その結果、今はもう使われていない書斎に、地下へ繋がる秘密のルートがあることを知った。


 わたしは誰にも気付かれないように移動しつつ、館の地下へと向かう。

 その際、グレフォード公爵の部屋の前を通り過ぎる。


「わたしのことを今でも待ってるのかしら? お生憎様。わたしは豚に股を開く趣味なんてないわ」


 立ち止まらず、そう呟く。


 そして地下室へと到着。この間、誰にも会うことはなかった。


 グレフォード公爵の言葉を信じてたわけじゃないけど……地下は汚いどころか、比較的清潔な場所だった。

 現在進行形で、この地下が使われていることの証明にもなる。


 わたしは光魔法で辺りを明るくする。


「なっ……!?」


 目に飛び込んできた光景に、わたしは思わずこう声を上げてしまった。



「ま、魔物が……閉じ込められている!?」



 大きな試験管がいくつも並べられていた。

 その中には様々な魔物が閉じ込められている。

 魔物たちは一様に目を閉じている。わたしがこう声を上げても、瞼を開ける気配がない。どうやらただ眠っているだけじゃないらしい。


「ビンゴね……ここはなにかの実験場」


 地下は広く、まだまだ奥に続いていそうだった。

 貴族の館の地下に、こんな場所がある時点で異常。


 この目で確認したわけではないが……わたしは直感する。

 奥にナイトシェードが、同じように囚われている可能性が高いということを。


「すぐにハワードに連絡を取りましょう。座標を伝えて……」


 と通信用の魔石を取り出し、口元に近付ける。



「どこに連絡を取ろうとしてんだ?」



 カンッ!


 死角から剣の煌めき。


 わたしは咄嗟にそれを躱わす。そのせいで通信用の魔石を床に落としてしまった。


 剣は体には届いていなかったが、魔石に当たっていたのだろうか。

 魔石は床に落ちると、真っ二つに割れてしまった。


「誰?」

「おいおい、もう忘れたのか。リーナ様だぜ」


 堂々と。

 彼女──リーナはわたしの前にゆらりと姿を現した。


「やっぱり、ただのメイドじゃなかったのか。身のこなしが人間離れしてたもんな。お前、魔族だろ?」

「そうよ」


 ここまできたら隠す必要もない。

 わたしはそう答える。


「あなた、何者? わたしにここまで接近を悟られず、剣を振るうことが出来るのは只者じゃないわ。あなたこそ、ただの護衛じゃないでしょ?」

「お前が正直に告白してくれたから、こっちも言ってやる。オレは六聖刃ろくせいじんの六刃。そう言ったら、今がどれだけ絶望的な状況下分かるだろ?」


 六聖刃……ハワードから聞いたことがある。


 帝国の中でも、随一の実力を誇る六人の剣士たち。

 六刃、五刃……と数字が上がっていくにつれ、強くなっていく。

 しかしこの序列は単純に強さだけで測れるものじゃない。なんにせよ、六聖刃というだけでSSS級の魔物でも、簡単にやってしまうという。


 あの第二騎士達テオが超小物なら、六聖刃は大物。

 そんなヤツが出てくるなんて……やはり、ここはただの貴族の館じゃない。確信が深まる。


「でも、どうして気付いていたのなら、わたしをここまで泳がせていたのかしら? 怪しいと思った時点で、斬り捨てたらよかったじゃない。それとも、意外と慎重派だったとか?」

「まあ、それも考えたけどよ。だが、それじゃあつまらないだろ? あっこじゃ人も多かったし、戦いに集中出来ねえ」


 そう言って、リーナは剣を持っていない方の拳を固く握りしめる。


「オレは強者と戦えれば十分なんだ! 護衛なんて、正直どうでもよかった。《ディアボリック・コア》? だがなんだか知らねえが、ちょっとは面白そうなヤツが来るかもしれねえって聞いたのに、簡単に終わらせたらあまりにも味気ねえ」

「そこまで情報を掴んでるのね。でも、あなたの仕事は護衛。私利私欲のために動いて構わないのかしら?」


 六聖刃は帝王陛下直轄の組織だと聞く。

 ならば、六聖刃に与えられた命令は帝王の言葉。

 それを無視することは、すなわち帝王への反逆を意味する。


「オレは帝国が()()なんだ」


 とリーナは口を動かす。


「オレは戦いたいだけだっていうのに、つまらねえ政治事情でなかなか好きに動かせてもらえねえ。『お前は危険すぎる』『バランスを崩す』『戦わないことが最大の牽制になる』なんて適当な言い訳を付けられてな。もしオレのことをもっと高く評価してくれるヤツが現れたら、すぐにでも寝返るさ。もっとも、帝国には敵が多い。だからこそ、強者が歯向かってくる可能性が高いと思って、帝国にいるわけだが」

「あら、そう……」


 リーナの話はわたしにとって、つまらなかった。

 彼女の目は人間のそれじゃない。殺意という鎖に縛られた、不自由な魔物に見えた。


「まあ、こんなもんでいいだろ? こういう問答って嫌いなんだ。外部から味方を呼ぼうとしてたみたいだが……それも断たれた。さあ、一対一で戦おうぜ!」


 とリーナはなりふり構わず剣を振り上げた。

 先ほどの一振りで、わたしは理解している。



 ──わたしでは彼女に勝てない。



 悔しいけど、わたしと彼女の間では実力に大きな差があった。

 このまま一対一で戦えば、殺されるのはわたしの方だろう。


 だけど。


「通信手段が断たれた? もしかして、あの魔石のことを言ってるのかしら」


 わたしは彼女の攻撃を避けつつ、地面に落ちている真っ二つになった魔石を指差した。


「大きな勘違いをしているわね」

「はあ? あれは通信用の魔石だろ? 現にもう割れて……」

「割れた()()()で使えなくなるようだったら、彼があれをわたしに持たせたりしないわ」


 あの魔石はハワードが作った特別製。

 割れたとしても、その破片が残っているなら──なんら滞りなく、通信することが出来るのだ。


「セクター3-α、ゾーン12、ポイントA-17、サブノードC5」


 わたしは現在位置の座標を口にする。


 次の瞬間であった。



「頑張ったな、クロエ。褒めてつかわそう」


 

 転移門が現れ、ハワードがこの地下に足を踏み入れた。


「い、一体どこから現れやがった!? ま、まさか転移魔法……」

「まあ、そんなところだ」


 とリーナに言いながら、ハワードはわたしの頭を撫でてくれた。


 ああ……。

 このために、わたしは頑張ってきたのよね。


「俺たちの勝利は決まった。何故なら、ここには俺がいるのだからな」

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