11・クロエの館潜入大作戦
《クロエ視点》
……というわけで、急遽わたしはグレフォード公爵にメイドとして雇われることになった。
仮に目的が潜入捜査だとしても、ハワード以外に仕えるなんて嫌なのに……。
だけどハワードの頼みだ。
気合いを入れていかなければ。
「今日から新しくメイドとして加わったクロエちゃんだ。みんな、仲良くするように。小生はメイドの百合も好きですぞ。ぐへへ」
とみんなの前で、グレフォード公爵に紹介される。
「クロエよ。よろしくね」
わたしも頭を下げる。
さすが可愛い子ばっかり集めてるだけあるわね。メイドはみんな、可愛かった。メイドにしてはじゃっかん、幼い子が多い気がする。それに渡された制服も露出が多い。こういうところもグレフォード公爵の趣味が反映されているようで、わたしは気色悪さを感じた。
メイドのみんなはわたしに様々な視線を向ける。
中にはわたしを憐んでいるメイド。わたしに分かりやすく敵意を向けてくる者もいた。
まあ仲良くするつもりなんてないけど……早く、ここのメイドとして認めてもらう必要がある。そうじゃないと、情報収集がしにくくなるからだ。
「それでは、メイドちゃんたち! お仕事にかかるように! 今日は新人のクロエちゃんもいるから、親切に教えてあげてね。ぐへへ」
グレフォード公爵がガマガエルのような笑い声を上げる。
嫌なことは嫌だが……これもハワードのためだ。
割り切って、仕事をしよう。
こうしてグレフォード公爵家のメイドとして働き始めたが、早くもわたしは頭角を現したのだ。
「信じられない! 君一人で館内の全ての掃除と洗濯が終わらせただと! こんな逸材がいたとは!」
「まるで魔法を見ているかのようね! 料理が一瞬で完成して、しかも美味しい! まるで伝説の料理人と魔導士が融合したかのような。あなたはどこでこんな技能を身につけの!?」
「公爵様のスケジュールを完璧に管理するどころか、予定に合わせての準備も文句のつけどころがない!? まさに天才メイドじゃない!」
……と、わたしの働きっぷりに対して、みんなが賞賛と驚きの声を投げかける。
だけど、この程度でどうして驚くのかしら?
わたしはハワードのためになれるよう、彼の専属メイドになってから必死に努力をした。
今となっては《ディアボリック・コア》も大所帯。
必然的に雑用の数も増えてくる。
それをわたしはほとんど一人で、こなしていたのだ。
全てはハワードに褒められたいがため。
わたしが仕事を終わらてハワードに報告すると、彼は決まって「やっぱりクロエは優秀だな。君が仲間になってくれて、本当によかった」と褒めてくれるのだ。
そのために頑張っていると言っても過言ではない。
だから他の人たちがわたしのことを褒めても「で?」としか思わないわけ。
「ほほお? なかなか動きのいいメイドがいるじゃねえか」
そんなことを考えていると。
一人、周囲の雰囲気とは浮いた女性がわたしに声をかけてきた。
「あなたは?」
「オレはリーナ・バトルハートだ。グレフォードの野郎の護衛として臨時で雇われている」
野暮ったい口調。
女性なのに「オレ」っていう一人称。
公爵を呼び捨てにするどころか「野郎」と呼んでいる。
明らかに怪しい女だ。
しかしその出たちから、護衛というのは嘘ではないよう。
「そんなことより、オレはお前のことが気になるな」
「どういうことかしら?」
「メイドにしては動きがよすぎる。そう……まるで人間じゃねえみたいにな」
と眼光を鋭くして、リーナが言った。
「あら、わたしみたいな美少女を見つけて『人間じゃない』って言うのは、ちょっと失礼じゃないかしら? わたし、ただのメイドよ」
「ハハハ! そりゃ失礼した。オレはここに護衛として雇われる前は、旅をしていてよ。その時に魔族とも戦ったんだ。何故かお前を見ていると、その時を思い出しちまう」
「ちなみに……その魔族はどうしたの?」
「決まっている。血祭りに上げてやったよ。オレに歯向かうヤツは全員敵だ。いや……歯向かわなくても敵かな?」
ニヤリとリーナは口角を吊り上げる。
リーナが嘘を吐いていなければ……だけど。彼女、相当な実力者みたい。魔族と戦って生きてられるなんて、並の戦士じゃ出来ないことだ。
「変なこと言って、すまなかったな。お前は仕事を続けてやがれ。だが……変な真似はするなよ? そうなったら、お前を敵として見なす」
そう言って、リーナは大股で歩き去ってしまった。
リーナ・バトルハート……。
ただの護衛というわけではなさそう。
警戒対象ね。
「クロエちゅわ〜〜〜〜〜ん。疲れてないかなあ?」
わたしが謎の護衛、リーナのことを考えていると。
不快な声が耳朶を震わせた。
「大丈夫ですよ、グレフォード公爵。こんなのでダメになるほど、柔な鍛え方はしていないので」
「さっすがクロエちゃんだね〜〜〜〜。君を一眼見た時からピンときたんだよ。君は最高のメイドだって」
褒められても全く嬉しくない。
そんなことより、脂ぎった顔で迫ってこないで欲しい。
本当にこいつとハワードは同じ人間なのかしら? ……なんて感想も浮かんでくる。
ハワード本人はそう思っていないけど、彼は間違いなくカッコいい。
彼の嬉しそうに笑う姿、ふとした時に見せる寂しげな表情……そのどれも至高で、その度にわたしの胸の鼓動は早くなる。
「それに……仕事だけじゃなく、可愛いしね! 胸はちょっと控えめだけど……上向きの良いお尻をしてる。どれどれ……」
とグレフォード公爵はさり気なく、わたしのお尻に手を伸ばした。
パシンッ!
わたしは反射的にそれを払いのけてしまう。
「失礼。虫がいたもので」
「う〜〜〜〜〜ん、こういう気が強いところも素敵だね! ツンデレってやつかな? ふふふ、小生はツンデレメイドも好きですぞ。ぐへへ」
ちょっと不用意な行動を取ってしまったと肝を冷やしたが……よかった。怪しまれてはいないようだ。
「君のすることなら、なんでも許してしまいそうだよ! あっ、でも。館の地下にだけは行ったらダメだよ?」
「館の地下……ですか?」
「うん。長年手を付けていないせいで、下水道みたいに汚くなってるからね。気持ち悪い虫なんかもいっぱい出てくる! か弱いクロエちゃんだったら、悲鳴を上げちゃうかもしれないから」
「はあ……」
曖昧な返事をする。
汚いっていうだけで、わざわざ警告してくるのは不自然だ。
あとで捜査する必要があるわね。
「そうだ。夜になったら小生の部屋に来なよ。色々と体に教えてあげるから!」
グレフォード公爵はそう言い残し、スキップでわたしの前から去っていった。
絶対に行くもんか。
心の中で、グレフォード公爵に唾を吐き捨てた。
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