1・「お前は臆病者だ」と言われ、追放されました
「ハワード、お前は追放だ」
俺──ハワードは同じパーティーメンバーであるギデオンに、追放を言い渡されていた。
「ま、待ってくれ! どうして俺が追放されなくちゃならない!」
なるべく惨めったらしく、俺はそう問い詰める。
「どうして……だと? お前、そんなことも分からないのか」
ギデオンは心底軽蔑しきった表情を浮かべ、こう続けた。
「魔物との戦闘中、お前はいつも逃げてばっかだな? 弱いお前が魔物を怖がるのは仕方がないかもしれないが、逃げ回ることしか出来ない臆病者は僕たちのパーティーに必要ない」
確かに俺はギデオンたちが戦っている最中、魔物から逃げ惑っている……見えるだろう。
臆病者と呼ばれることに、なんら反論がない。
しかし俺がそうするには理由があった。
まあ、それをギデオンに説明するはずがないがな。
だから俺はぐっと堪えて、ギデオンを睨む。
「反抗的な目をしやがって。追放に納得していないのか?」
とギデオンは溜め息を吐く。
「全く……優秀な宮廷魔導士だかなんだか知らないが、僕は最初からお前をパーティーに入れることには反対だったんだ。だが、帝王陛下がどうしてもと言うから、パーティーに帯同させていたに過ぎない。他のみんなだって、そうだよな?」
ギデオンが後ろに控える、他のパーティーメンバーにも視線をやる。
誰も俺の追放に異を唱えない。
多かれ少なかれ、みんな同じことを考えていたのだ。
「お、俺だって、こんなパーティーに加わりたくなかったさ。俺は魔法を研究することしか興味がなかったからな。魔物と戦うことは専門外だ」
確かに……優秀かどうかはともかく、俺は一介の宮廷魔導士だ。
それなのに帝王はある日、俺にこう告げた。
『お前を第五皇子ギデオンが率いる、魔物討伐パーティーに加入させる。変な研究ばかりしているんだ。帝国のために、ちょっとは役に立ってみせよ』
……と。
第五皇子ギデオンは王位継承権はあるものの、序列は低い。能力的にも低く、このままでは王位を継ぐことはまずないだろう。
しかしギデオンには野心があった。
ゆくゆくは自分が帝王の座につき、『勇者』と呼ばれる存在になる野心だ。
そこでギデオンは昨今、増加の傾向を見せる魔物に対応するため、世界中を旅するパーティーを結成した。
そのパーティーに俺は魔導士、そしてサポート役として、加わっていたわけだ。
「自分のことをよく分かっているじゃないか」
考えごとをしていると、ギデオンが鼻で笑った。
「今回の戦いが最終試験のつもりだった。しかしお前は吸血鬼を前に恐れおののき、逃げ回ることしか出来なかった。お前は不合格だったんだよ」
そう語るギデオンの右手には、討ち取った吸血鬼の首が握られている。
傍には死体となった吸血鬼の胴体。
吸血鬼と激しい戦いを繰り広げているギデオンの一方、俺はいつも通りにあることをしていた。
それが結果的に、ギデオンには逃げ惑っているように見えていたわけだ。
「ふ、不合格!? そんなの勝手に決めつけないでくれ! 俺はみんなの足を引っ張らないように……」
「黙れ!!」
ギデオンが俺の右頬に、思い切り拳を叩きつける。
俺は衝撃に逆らわず、地面に倒れ込んだ。
「反論は聞かない! もう今更遅いんだ! 陛下からは僕から言っておこう。さらばだ」
最後にそう言い残して、ギデオンたちが離れていく。
俺は顔を伏せ、悔しさを堪えるしかなかった。
そして彼らが見えなくなった後。
「計算通り」
ニヤリと笑った。
◆ ◆
「やれやれ」
パンパンと服に付いた埃を払う。
魔法で気配を察知するが……うん、ギデオンたちはこの場にはいない。他に人もいない。計画を進めよう。
「もういいぞ。出てこい」
俺がそう告げると、なにもない空間からブォンと音を出して魔物が現れた。
それは先ほど、ギデオンが倒したはずの吸血鬼であった。
「お見事です、ハワード様」
「演技に付き合わせて、すまなかったな。つまらなかっただろ?」
「確かに……つまらない戦いでした。ギデオンという男は非常に弱く、まるで子どもの遊びに付き合っているようでした。私が本気を出せば瞬殺だったでしょう。
しかし私はあなたのような素晴らしい人間に出会えた。その気になればすぐに殺せたというのに、力を隠して逃げ回り、私に交渉を持ちかけた。しかもギデオンという愚かな男は、このことについて最後まで気が付かなかった」
「まあ気付かれては困るしな。それにギデオンごときの男が気付けるはずもない」
おっと。
そうだ、忘れていた。
俺は魔法の発動をやめ、吸血鬼の死体を消す。
もちろん、今消したのは偽の死体だ。
この偽の死体に、ギデオンたちはまんまと騙されていたわけだ。
あいつらが帝国に帰った頃には魔法の効果も切れ、吸血鬼の首が跡形もなく消えているだろうが……その時、ヤツらはどんな顔をするんだろうな?
俺も計画通りに追放されたし、バレても差し支えはない。
「では……戦いの際に話した内容だが、もう一度聞くぞ。お前は本当に俺の仲間になってくれるのか?」
そう問いかけると、人々から恐れられているはずの吸血鬼は俺の前で地面に膝をつき、こう答えた。
「はい。帝国の人間どもには、私たちの家族を皆殺しにされました……! 無抵抗の妻は最後まで、私の名前を呼んでいたそうです。ヤツらに復讐出来るなら、私はなんでもいたしましょう」
さっきだって、すぐにでもギデオンたちを殺したかっただろう。
しかしギデオンは帝国の表層。
ギデオンを倒しても、巨悪を倒したことにはらないのだ。
「俺も……だ。俺も帝国に大切なものを全て奪われた。だから今度は俺が、あいつらから大切なものを奪ってやる番だ」
そう言って、俺は吸血鬼の頭に手をかざす。
すると吸血鬼を中心に、翡翠色の光が広がった。
「名前を告げよ」
「エドヴァルトです」
「うむ。では、エドヴァルトよ。我々は君を歓迎する。共に帝国に復讐をしよう」
俺の魔力が吸血鬼エドヴァルトの中に取り込まれる。
これによって、エドヴァルトは俺たちの正式な仲間となった。
さあ──ここからは反撃の時間だ。
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