表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/36

1・「お前は臆病者だ」と言われ、追放されました

「ハワード、お前は追放クビだ」


 俺──ハワードは同じパーティーメンバーであるギデオンに、追放を言い渡されていた。


「ま、待ってくれ! どうして俺が追放されなくちゃならない!」


 なるべく惨めったらしく、俺はそう問い詰める。


「どうして……だと? お前、そんなことも分からないのか」


 ギデオンは心底軽蔑しきった表情を浮かべ、こう続けた。


「魔物との戦闘中、お前はいつも逃げてばっかだな? 弱いお前が魔物を怖がるのは仕方がないかもしれないが、逃げ回ることしか出来ない()()()は僕たちのパーティーに必要ない」


 確かに俺はギデオンたちが戦っている最中、魔物から逃げ惑っている……見えるだろう。

 臆病者と呼ばれることに、なんら反論がない。


 しかし俺がそうするには()()があった。


 まあ、それをギデオンに説明するはずがないがな。

 だから俺はぐっと堪えて、ギデオンを睨む。


「反抗的な目をしやがって。追放に納得していないのか?」

 

 とギデオンは溜め息を吐く。


「全く……優秀な宮廷魔導士だかなんだか知らないが、僕は最初からお前をパーティーに入れることには反対だったんだ。だが、帝王陛下がどうしてもと言うから、パーティーに帯同させていたに過ぎない。他のみんなだって、そうだよな?」


 ギデオンが後ろに控える、他のパーティーメンバーにも視線をやる。


 誰も俺の追放に異を唱えない。

 多かれ少なかれ、みんな同じことを考えていたのだ。


「お、俺だって、こんなパーティーに加わりたくなかったさ。俺は魔法を研究することしか興味がなかったからな。魔物と戦うことは専門外だ」


 確かに……優秀かどうかはともかく、俺は一介の宮廷魔導士だ。


 それなのに帝王はある日、俺にこう告げた。



『お前を第五皇子ギデオンが率いる、魔物討伐パーティーに加入させる。変な研究ばかりしているんだ。帝国のために、ちょっとは役に立ってみせよ』



 ……と。


 第五皇子ギデオンは王位継承権はあるものの、序列は低い。能力的にも低く、このままでは王位を継ぐことはまずないだろう。


 しかしギデオンには野心があった。

 ゆくゆくは自分が帝王の座につき、『勇者』と呼ばれる存在になる野心だ。

 そこでギデオンは昨今、増加の傾向を見せる魔物に対応するため、世界中を旅するパーティーを結成した。

 そのパーティーに俺は魔導士、そしてサポート役として、加わっていたわけだ。


「自分のことをよく分かっているじゃないか」


 考えごとをしていると、ギデオンが鼻で笑った。


「今回の戦いが最終試験のつもりだった。しかしお前は吸血鬼を前に恐れおののき、逃げ回ることしか出来なかった。お前は不合格だったんだよ」


 そう語るギデオンの右手には、討ち取った吸血鬼の首が握られている。


 傍には死体となった吸血鬼の胴体。

 吸血鬼と激しい戦いを繰り広げているギデオンの一方、俺はいつも通りに()()()()をしていた。

 それが結果的に、ギデオンには逃げ惑っているように見えていたわけだ。


「ふ、不合格!? そんなの勝手に決めつけないでくれ! 俺はみんなの足を引っ張らないように……」

「黙れ!!」


 ギデオンが俺の右頬に、思い切り拳を叩きつける。

 俺は衝撃に逆らわず、地面に倒れ込んだ。


「反論は聞かない! もう今更遅いんだ! 陛下からは僕から言っておこう。さらばだ」


 最後にそう言い残して、ギデオンたちが離れていく。

 俺は顔を伏せ、悔しさを堪えるしかなかった。


 そして彼らが見えなくなった後。



「計算通り」



 ニヤリと笑った。



 ◆ ◆



「やれやれ」


 パンパンと服に付いた埃を払う。


 魔法で気配を察知するが……うん、ギデオンたちはこの場にはいない。他に人もいない。計画を進めよう。


「もういいぞ。出てこい」


 俺がそう告げると、なにもない空間からブォンと音を出して魔物が現れた。


 それは先ほど、ギデオンが倒したはずの吸血鬼であった。


「お見事です、ハワード様」

「演技に付き合わせて、すまなかったな。つまらなかっただろ?」

「確かに……つまらない戦いでした。ギデオンという男は非常に()()、まるで子どもの遊びに付き合っているようでした。私が本気を出せば瞬殺しゅんさつだったでしょう。

 しかし私はあなたのような素晴らしい人間に出会えた。その気になればすぐに殺せたというのに、力を()()()逃げ回り、私に交渉を持ちかけた。しかもギデオンという愚かな男は、このことについて最後まで気が付かなかった」

「まあ気付かれては困るしな。それにギデオンごときの男が気付けるはずもない」


 おっと。

 そうだ、忘れていた。


 俺は魔法の発動をやめ、()()()の死体を消す。


 もちろん、今消したのは偽の死体だ。

 この偽の死体に、ギデオンたちはまんまと騙されていたわけだ。

 あいつらが帝国に帰った頃には魔法の効果も切れ、吸血鬼の首が跡形もなく消えているだろうが……その時、ヤツらはどんな顔をするんだろうな?


 俺も計画通りに追放されたし、バレても差し支えはない。


「では……戦いの際に話した内容だが、もう一度聞くぞ。お前は本当に俺の仲間になってくれるのか?」


 そう問いかけると、人々から恐れられているはずの吸血鬼は俺の前で地面に膝をつき、こう答えた。


「はい。帝国の人間どもには、私たちの家族を皆殺しにされました……! 無抵抗の妻は最後まで、私の名前を呼んでいたそうです。ヤツらに復讐出来るなら、私はなんでもいたしましょう」


 さっきだって、すぐにでもギデオンたちを殺したかっただろう。


 しかしギデオンは帝国の表層。

 ギデオンを倒しても、巨悪を倒したことにはらないのだ。


「俺も……だ。俺も帝国に大切なものを全て奪われた。だから今度は俺が、あいつらから大切なものを奪ってやる番だ」


 そう言って、俺は吸血鬼の頭に手をかざす。

 すると吸血鬼を中心に、翡翠色の光が広がった。


「名前を告げよ」

「エドヴァルトです」

「うむ。では、エドヴァルトよ。我々は君を歓迎する。共に帝国に復讐をしよう」


 俺の魔力が吸血鬼エドヴァルトの中に取り込まれる。

 これによって、エドヴァルトは俺たちの正式な仲間となった。


 さあ──ここからは反撃の時間だ。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ