雪山遭難大奇譚!
1999年1月中旬。
この時32歳だった僕は、当時働いていたサーフ系雑誌“F”の同僚である、中出氏とグリオと共に、新潟にある「ガーラ湯沢」へ滑りに来ていた。
1月の中旬に来た理由は、この頃だと、まだ車で行ってもタイヤにチェーンを装備しなくても大丈夫だからだ。
それにガーラ湯沢は、関越自動車道の湯沢ICを出てから20分程で到着できる場所にあって、アクセスが良い。
インターを降りればガーラへ向かう道からは、温泉水が絶えず流れ出ていて、道路には雪が無いどころか、凍った箇所がまったくない。
これは、地元の代議士だった田中角栄が整備した公共事業で、このおかげで新潟に着いてもタイヤにチェーン装着しなくて良いというワケなのだ。
話は変わるが、僕が大学生だった頃は80年代のバブルの絶頂期で、原田知世と三上博史が主演の映画、「私をスキーに連れてって」が大ヒットし、空前のスキーブームとなっていた。
僕の大学の友人たちも、女子大生らとスキー場へしょっちゅう行っており、僕も何回か誘われたりした。
だが、僕はその誘いを頑なに拒んでおり、決して彼らとスキー場へ行く事はなかったのである。
何故ならば!?
実は、僕はあの頃、まだスキーをやった事がなかったのだ!
ブームに乗り損ね、完全に出遅れてしまったのだ!
ああ…、もし、このままスキー場へ行こうものなら…、無様な醜態を女子大生たちの前で晒し、他の男どもの引き立て役になってしまうのだ!
今まで築き上げて来た僕のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れて行くぅ~…ッ!
ああ…、それだけはイヤだ!
咬ませ犬には成りたくない!
僕は、この時ほど長州力の気持ちが…、いや!、木村健吾…、もしくは寺西勇の気持ちが分からない時はなかった。
そういうワケで、僕はウィンターシーズンになると、ひたすら春の訪れをじっと待つのだった。
だって、僕の出来るウィンタースポーツは、「雪合戦」しか無かったのだから…(笑)
そして月日が経ち、時代は90年代に入った。
この頃、若者の間で密かにスノーボードがじわじわと流行り出して来る。
こッ…、これだぁッ!
僕の年代のやつらはスキーしか出来ない!
(俺と同年代でスノボ出来るやつなど見た事も無い!)
やつらはスキーを手放してまで、スノボにチャレンジする様な気概も無いヘタレ野郎どもだ!(笑)
そこで僕は、27歳になるとスノボを始め出す。
幸いな事に、この頃になると「ザウス」や「狭山スキー場」という、室内ゲレンデが東京近郊でオープンし出した!
そして僕は、オールナイトで、ひたすらスノボを室内ゲレンデで練習した。
ビデオや教則本で学んで、僕はひたすら特訓した!
そして僕の読み通り、時代はスキーからスノボに主役の座は変わった!
わはは!ザマーミロ!
これで立場は逆転だぁ!
ところが自慢してやろうと思ってた友人らは、転勤やら結婚やらで、僕とスキー場へ行くどころではなくなってしまった。
僕はあの頃、1年の半分近くは雪山や室内スキー場で滑っていたのに、目標が無くなってしまった。
そんな時、スノボに「バッヂ検定」というのがあると知る。
スキーと同じ、1級~3級というのがあって、合格するとバッジを貰ってそれをウェアに付けるのだ。
カ…ッ、カッコエエ…。
3級以上だとゲレンデで、海水浴場のライフセーバーみたいなバイトが出来るらしい…。
教本を見た限り、2級まではイケそうな感じだった。
僕に新たな目標が出来たと思った矢先であった…。
僕は突然、スノボを辞めてしまう。
それは音楽活動を急遽再開する事になったからだ。
スノボは危険で怪我を伴う、1回あばらをやった時は、大変だった。
もしライブに支障をきたしたらマズイと思い、僕はスノボを封印した。
当時は、冬になるとスノボをやりたくてウズウズしてたが、ずっとやらなくなったら、いつの間にか平気になってしまった。
もうやる事もないだろうと…、2年前にバートンの板とか全て不用品回収業者へ出してしまった。
そんな事を思い出しつつ、今回は懐かしのゲレンデでの小説を書いてみる事にしよう。
「よ~し、午前中はこの1本でラストにするか?」
リフトを降りた彼が、ゲレンデを眼下に見渡しながら中出氏とグリオに言う。
「アニキ!、やっと昼飯ですね♪」
スキーヤーのグリオが彼に言った。
「ああ…、下まで降りたら麓のカワバンガでメシでも食おう!」
「あの…、ちょっと、今度はこっちにも入ってみませんか…?」
彼がグリオと話していると、スキーヤーの中出氏がボソッと言った。
(※この日、スノボは彼だけであった)
中出氏が言った“こっち”とは、ゲレンデを囲った柵の外であった。
いわゆる“オフピステ”である。
「バックカントリーは、危ないぜ」
「でも…、ほら見て下さいよ。あっちはパウダースノーですよ♪」
中出氏がオフピステを指しながら笑顔で言う。
オフピステは誰も滑らないから、雪質が良いのだ。
但し遭難する可能性も高い場所だった。
「ちょっと入ってみましょうよ♪」
そう言って柵を越える中出氏。
「やめとけよ」
「少しだけなら大丈夫ですって♪」
彼が止めても中出氏は、澄まし笑顔でオフピステの中へと入ってしまった。
「お~い!、中出氏~!、戻れってッ!」
遠くに立つ中出氏に、柵の内側から声を掛ける彼。
「大丈夫ですよ~!、私の人生、バーリトゥード(何でもあり)ですからぁ~!」
長身でシャクレ顔の中出氏が、メガネを太陽光に反射させながら彼らにそう言った。
「それッ!」
中出氏はそう言うと、急斜面を颯爽と滑り出した。
シャッ!、シャッ!、シャッ!
見事なパラレルで中出氏は滑る。
その先には、大きなコブが見えた。
バッ!
中出氏がジャンプッ!
そのまま後方回転のバックフリップを決めた!
ザシッ!
見事に着地する中出氏。
「すげぇなアイツ…」
「ナカデさんはスキー2級らしいですよ…」
グリオが隣の彼に言う。
「いや…、そういうレベルじゃないって…(笑)」
苦笑いで彼が言った。
そしてまた、大きなコブが中出氏の目の前に現れた。
バッ!
今度は中出氏が、フロントからのフリップッ!
「おおッ!」
驚嘆する彼とグリオ。
ところが着地しようとした中出氏の先は、断崖絶壁であった!
「わあああああああ~~~ッ!!」
谷底へ落下して行く中出氏。
「中出氏ィ~~~~ッ!」
それを見た2人は、慌てて柵を越えオフピステへと入る!
そして、中出氏が落下した場所まで急いで滑って向かった。
「あ~あ…、こりゃえれぇ事になったぞ…」
中出氏が落下して行った谷底を眺めながら、彼が言う。
「ナカデさん、再来週の合コン行けなくなっちゃいましたね…?」
隣のグリオが、谷底を見つめながら言う。
「あいつは合コンが生き甲斐だったからな…」
「そうだグリオ、せめて合コン当日には、あいつの遺影でも持って行ってやれよ…」
「めちゃめちゃ盛り下がりそうですね?、その日の合コン…」
グリオが、しみじみと言う。
「お~い!」
その時、谷底を見下ろしていた彼らの後方から声がした!
「なッ…、中出氏ィッ!?」
声の方へ振り返り、そう叫んだ彼に向かって、笑顔で走って来る中出氏。
「おッ!、お前!、今、谷底に落ちたよなぁ~ッ!?」
目の前にいる中出氏に、彼が驚きながら言う。
「どおいう事ですかぁッ!?」
グリオも驚いて言う。
「私は、自分の身に何かがあった時に、すぐさま他の私が起動される様になっているのです…」
含み笑顔で中出氏が彼らに言う。
「じゃあ何かッ!?、お前はクローンで、お前がいっぱい居るって事なのかッ!?」
彼が言う。
「いえ…、私はクローンではありません」(中出氏)
「どういう意味だ?」(彼)
「人体とは、しょせん魂の入れ物に過ぎません…」(中出氏)
「なんか、怪しい宗教団体みたいな事言い出しましたよ」
グリオが隣の彼に怪訝そうな表情で言う。
「これは、私の親戚の叔父さんが携わっている、ある研究機関のシステムを起動したのですよ」(中出氏)
「親戚のオジサン~…??」(彼)
「はい、叔父さんの名は、伊刈屋 源道と申しまして、人類補完計画という研究を…」(中出氏)
「綾波レイか、テメエはッ!?」(彼)
「まぁ、とにかくナカデさんも無事だったという事で、ここは危ないから早くゲレンデに戻りましょうよ…」
グリオが彼をなだめる様に言った。
「そうだな…、じゃあ、さっさと戻るか…」
「ん!?」
「どうしました?」(グリオ)
「無い…」(彼)
「何が無いんですか?」(グリオ)
「さっきまで、あそこにあったゲレンデが無いッ!」(彼)
「ええッ!?、あッ、ほんと~だぁッ!」(グリオ)
「なんでだぁ~ッ!?、ほんの数10mしか移動してないのにぃ~~ッ!」(彼)
「僕たち遭難したって事ですか…?」
恐る恐る尋ねるグリオ。
「落ち着きましょうよ!」(笑顔で言う中出氏)
「ふざけるなぁ~ッ!、てめぇのせいだぞぉおおおッ!」(彼)
「まぁ、まぁ、落ち着きましょう…」
「あれ…?、雪が降って来ましたね?」
「風も強くなり出しました。こりゃ吹雪になりますね…?」
澄まし顔で中出氏が言う。
「あッ!…、あれぇッ!、さっきまで昼だったのに、今もう、4時ですよぉ~ッ!?」
腕時計を見てグリオが叫ぶ。
空はいつの間にか、日が沈みかけていた。
「ああ~ッ!、なんてこったぁ~ッ!」
頭を抱えて彼が叫ぶ。
ビュウゥゥゥーーーーーーーッ!
その時、急に突風が吹いた!
雪山の雪が空中に舞う。
「と…ッ、とにかく、どこかへ早く非難しましょうッ!」(グリオ)
「どこかって、どこに行けばいいんだよッ!?」(彼)
「あれを見て下さいッ!」
中出氏がそう叫んで指す丘の上には、避難小屋が見えた。
※避難小屋は、登山者が遭難したり怪我を負った時などに、一時的に避難する山小屋である。
「あんなのさっきあったか…?」
怪訝そうな顔をして彼が言う。
「とにかく、あそこへ向かいましょうッ!」(グリオ)
「分かった…、急ごう!」
彼がそう言うと、3人はそれぞれの板を脇に抱えて避難小屋へと向かうのであった。
「ふ~…、助かったぁ~…」
避難小屋に入った彼が言う。
その建物の中は、中央に焚火が出来る囲炉裏があり、端には薪と毛布が置いてあった。
「このままだと低体温症になって凍死しちまうな…」
「おい、グリオ!、そこの薪を囲炉裏の中へぶち込んでくれ!、暗くなる前に火をおこそう!」
「分かりました!」
グリオは彼にそう言うと、端にあった薪を抱えて囲炉裏の中にセットした。
「よし!、これで火を点けるぞ!」
彼がリュックから、ポテチの袋を出して言う。
「何ですか、それ…?」(グリオ)
「おやつに用意してた、ポテトチップスだ…。これは着火剤にもなるんだ」(彼)
「なるほど~!、ポテチは油を含んでるから着火剤になると!」(グリオ)
「そういう事だ…」
そう言うと彼は、薪の上にポテチを数枚乗せ、ポテチの上にはポケットティッシュから出したちり紙を1枚乗せる。
カチッ…、カチッ…。
ちり紙に火が点く。
そしてその火は、ポテチにも引火した。
だが、その炎は薪に火を点ける事が出来ず、消えてしまう。
「どうですか…?」(グリオ)
「ダメだ…、ライターじゃ薪に火を点けるのは無理だ」(彼)
「そうですか…」
ガッカリするグリオ。
「何か、もっと紙とかがあれば良いんだがな…」
険しい表情で彼が言う。
「じゃあ、これを使って下さい…」
側にいた中出氏はそう言うと、リュックの中から1冊の本を取り出した。
「何だそれは…?」(彼)
「エロ本です(笑)」(中出氏)
「何でそんなモン、持ち歩いてんだよぉッ!?」(彼)
「仕方ないじゃないですか…、持って来なきゃ、どうやって裸を見れば良いんですか?」(中出氏)
※時代はインターネットが普及して間もない頃であった。
光どころか、ADSLの更に前の、ISDN回線の時代であった。
ネット回線は重く、つながった時間だけ、莫大な通信料が発生した。
この頃、エロ画像を見るには、まだまだ紙媒体が主流であったのだ。
「俺が聞いてるのは、何でスキー場にエロ本なんか持ってくんだって聞いてんだよッ!」(彼)
「でも、おかげで助かったでしょ…?(笑)」
「これは私が開発した、チッチョリーナの飛び出すエロ本なのです」
中出氏はそう言うと、含み笑いを浮かべた。
「飛び出すエロ本~?」(彼)
「なんですかそれ?」(グリオ)
「子供の頃、母親に読み聞かせをしてもらいませんでしたか?(笑)」(中出氏)
「飛び出す絵本の事か?」(彼)
「そう!、それですよ…(笑)、私は子供の頃、飛び出す絵本を読み聞かせされながら、これでエロ本を作ったら大儲け出来ると考えていたのです(笑)」(中出氏)
「お前、そんな子供の頃からそういうコト考えてたのか…?」(彼)
「はい…(笑)」(中出氏)
「末恐ろしいガキだな…」
呆れ顔の彼。
「生まれ落ちた瞬間から、ことごとく変態ですね…?」(グリオ)
「お褒めにあずかり光栄です…」(中出氏)
「ホメてねぇよッ!」(彼)
「ふふふ…(笑)、ところで2人は、こんな言葉を知ってますか…?」(中出氏)
「言葉…?」(彼)
「エロを制する者は、世界を制す…!」(中出氏)
「聞いたこともねぇ…」(彼)
「私の祖父、中出ヨシツネの言った言葉です…」(中出氏)
「知るか、そんなモンッ!」
彼がそう言うと、グリオも「知りませんよ!」と言う。
「人間は、どんなに経済が不況になっても、エロに金を注ぐのには惜しみません…」(中出氏)
「それがどうしたってんだ…?」(彼)
「以前、ビデオテープには、VHSの他にベータという、コンパクトサイズのテープがあったのを覚えてますよね?」(中出氏)
「ああ…」(頷く彼)
「ベータテープのビデオデッキは、日本が世界に誇る最大手、SANYが手掛けていました」(中出氏)
「ほお…」(彼)
「ところが、ビデオデッキは他メーカーの出すVHSタイプに軍配が上がり、SANYはベータから撤退してVHSに方向転換しました。どうしてでしょう?」(中出氏)
「知らん…」(彼)
「おかしいですよね…?、VHSテープは大きくてかさばります。時代はレコードからCD、そしてMDへと、どんどんコンパクト化しているのに、なぜかビデオデッキだけが逆行したのです!」(中出氏)
「何でですか?」(グリオ)
「当時、VHSのビデオデッキは1台30万円ほどしました。それなのに、この急速なビデオデッキ普及率は、不自然だと思いませんか!?」(中出氏)
「確かにおかしいな…?」(彼)
「ここでエロが、大~きく関わっているのです…(笑)」(中出氏)
「エロが…?」(グリオ)
「そうです…。グリオさん…、あなた“洗濯屋ケンちゃん”をご存じですか?」(中出氏)
「明星で、あの三原順子(※現参議院議員)のカレシだった事を暴露した宮脇康之が、子役時代に出てたドラマの事ですか…?」(グリオ)
「違いますよ…、それは子供番組のケンちゃん・チャコちゃんシリーズの事でしょう?」
「私が言ってるのは、日本初、海外向けに制作された伝説の裏ビデオ、“洗濯屋ケンちゃん”の事ですッ!」(中出氏)
「あ!、俺、知ってる!」(彼)
「あのビデオは、実に、日本国民の10人に1人は観たと云われている裏ビデオなのですッ!」
「何故だと思いますか!?、あの当時、VHSビデオデッキを購入したら特典として、“洗濯屋ケンちゃん”が配られていたのですッ!」(※マジです)
「人々は、ノーカット作品の“洗濯屋ケンちゃん”を観たいが為に、VHSデッキを購入したのです!」
「“洗濯屋ケンちゃん”は、家庭用ビデオデッキの普及に大きく貢献したのですッ!、そしてAVメーカーはVHSを中心に作品を制作します!」
「ベータよりも、VHSの方が品数豊富というワケですッ!」
「そしてSANY帝国は敗れ去りました…。SANYは、エロに屈したのですッ!」
中出氏は大演説を行っているかの如く、熱く語るのであった。
「分かりましたか?、エロを制する者は世界を制すという意味が…?」(中出氏)
「どうでも良いよ、そんなハナシは…」(彼)
「そうですか…。では、燃やしますよ…」
中出氏はそう言うと、囲炉裏にさっきのエロ本を入れようとした。
「あッ!」
それを見て、彼が叫ぶ。
手を止める中出氏。
その彼を、チラッと見るエロ本を持った中出氏。
中出氏に見つめられる彼は、無言でそっぽを向いていた。
そして再び、エロ本を囲炉裏の中へ投入しようとする中出氏。
「ああッ!」
今度はグリオが叫ぶ。
「何ですか…?」
2人を見て中出氏が言う。
だが2人は、そっぽを向いて無言でいた。
「見たいのですね?、これが…」
中出氏はニヤッと微笑みながら彼らにそう言った。
「いや…、ちょっと飛び出すエロ本って、どんなモンかなと思ってさッ!」
彼がモジモジしながら言う。
「チッチョリーナの飛び出すエロ本です…。立体画像です…。ノーカットです…。見たいですか…?」
中出氏がそう言って微笑むと、2人は無言で首を縦に何回も振った。
「分かりました…。ではお見せしましょう…。準備は良いですね…?」
中出氏は2人にそう言うと、飛び出すエロ本をおもむろに開く!
バッ!(※ページの開く音)
チッチョリーナのバストが、エロ本から飛び出したッ!
「おおッ!」
驚嘆する2人。
「それッ!」(中出氏)
バッ!(※ページの開く音)
チッチョリーナの尻がエロ本から飛び出すッ!
「おお~ッ!」
驚嘆する2人。
「それッ!」(中出氏)
バッ!(※ページの開く音)
チッチョリーナの大開脚がエロ本から飛び出すッ!
「うぇッ!、うほぉ~ッ♪」
驚嘆する2人。
「それッ!」(中出氏)
バッ!(※ページの開く音)
今度は、チッチョリーナと男優のベッドシーンの場面が飛び出した!
「これ何ですか…?」
ページの端から飛び出ている、レバーみたいな物を見たグリオが、中出氏に聞いた。
「それをつまんで、左右に動かして下さい…」
中出氏がグリオにニヤッと微笑んで言う。
グリオは言われた通り、エロ本のレバーを左右に動かした。
すると、チッチョリーナの上にいる男優の腰が、カクッカクッと、小刻みに動き出した!
「わははは…ッ!、何だこれッ!?」
それを見た彼とグリオが大笑いする。
「どうですか?、コーフンしたでしょう!?(ドヤ顔)」(中出氏)
「しねぇよッ!、誰がこんなの見てコーフンすんだよッ!?(笑)」(彼)
「余りにも、ばかばかしくて、思わず笑っちゃいましたよッ!(苦笑)」(グリオ)
「もお良いよ!、さっさとそのエロ本を燃やしてくれ…」
彼がそう言うと、中出氏は「はい…」と言って、残念そうな表情で飛び出すエロ本を囲炉裏の中へ投入するのであった。
パチ…、パチ…。
燃やしたエロ本のおかげで、やっと薪に火が点いた。
3人は囲炉裏の炎を無言で見つめていた。
「やっと火を起こせましたね?」
しばらくするとグリオが、炎を見つめながら言った。
「ああ…、これで何とか凍死しないで済みそうだ…。あとはこの火を絶やさない様に、薪をくべるのを怠らない事だな?」
彼が言う。
「時間を決めて、順番に仮眠を取って、1人が薪を囲炉裏にくべる様にしましょうか?」(グリオ)
「そうだな…。それが良い。2時間置きに焚火の担当を立てよう」
彼がそう言うと、いきなり避難小屋のドアが叩かれた。
ドンッ!、ドンッ!
「うわッ!」
驚く彼。
ドンッ!、ドンッ!
「レスキュー隊が、僕たちを助けに来たんですかねぇ?」
ドアに振り返ったグリオが言う。
「そんなわけねぇ…、もし救助に来るのなら吹雪が止んだ日中に来るはずだ…」(訝し気に言う彼)
ドンッ!、ドンッ!
「じゃあ何ですか、あれは?」(グリオ)
「分からん…、グリオ…、お前ちょっとドアを開けて見て来い…」(彼)
「嫌ですよ…、アニキが見て来て下さいよ!」(グリオ)
「何だお前?、ビビってんのかぁ?」(彼)
「ビビッてんのはアニキでしょぉ~!」(グリオ)
「俺はビビッてなんかねぇよ!」(彼)
「じゃあ見て来て下さいよ!」(グリオ)
ドンッ!、ドンッ!
「分かった…、俺が見て来る…」
そう言うと彼は立ち上がり、入口のドアへと向かった。
ギィ…。
ドアを開ける彼。
するとイキナリ、外からの猛吹雪が室内の中へ飛び込んで来た!
ブワッ!
粉雪の白煙が舞う!
「うぁッ!」
彼は顔をしかめて、うつむいた。
ホワイトアウトになった目の前は、何も見えない!
数秒後、彼は目の前に人が立っているのを確認した。
その人物は、若い女性に見えた。
彼女は長い髪で、白い着物を着ていた。
雪の上を裸足で立ち、無言でうつむいていた。
その姿を見た彼は、女性の事を、まるで雪女みたいだと思うのであった。
「どうしたッ!?、あんた大丈夫かッ!?」(彼)
「すみません…、道に迷ってしまいました…。申し訳ありませんが、風吹が止むまでここに置いて頂けないでしょうか…?」
白い着物の女性は、力の無い声で彼にそう言うのだった。
「早く中に入るんだッ!」
このままでは、彼女が凍死してしまうと感じた彼は慌てて言った。
「すみません…」
女性はそうポツリと言うと、避難小屋の中へ入るのであった。
「大変ですね…。雪の上に裸足だと霜焼けになっちゃいますよ…?」
裸足の彼女を見た中出氏が、彼の後ろから覗き込んで言う。
「ばかやろッ!、霜焼けどころじゃねぇだろッ!」
的外れな事を言う中出氏に彼が言った。
パチ…、パチ…。(焚火の音)
「さあ、これで安心だ…」
彼は、焚火の前で頭から毛布をかぶる彼女にそう言った。
「ありがとうございます…。私はこの近くに住んでいる、ユキヤマ ユキメと申します…」
「ユキヤマ ユキメ~?、どんな字を書く?」(彼)
「紙と鉛筆ありますか?」
「あるよ…、ほら…」
彼はそう言って、紙と鉛筆を女性に渡す。
「こう書きます…」
自分の名前を書いた紙を、そう言って彼に渡す女性。
その紙には、「雪山 雪女」と書いてあった。
(まんまじゃねぇか…)
紙を手にした彼はそう思うのだった。
「じゃあ、これでひと段落しましたね?」
「夜はまだまだ長いです!」
「どうですか?、焚火を囲みながら、ここはみんなで、怪談話でも持ち寄って、語り合いませんか!?」
中出氏が笑顔でそんな事を、急に言い出した。
「良いですね~怪談話♪、やりましょう!」
グリオが、中出氏のその提案に乗った。
「じゃあ、まず僕から話しますね…♪」
グリオが元気よく言った。
「僕の知り合いで、なぎさちゃんてコがいるんですよ…。そのコが体験した話をしますね」(※キャバクラ嬢)
「なぎさぁ~…?」と彼。
「はい、なぎさちゃんです♪」(グリオ)
「どうせネタ元は、キャバ嬢か何かなんだろ…?」(彼)
「ちッ…、違いますよぉッ!」(グリオ)
「じゃあ、そのコの苗字は?」(彼)
「えッ!?…、あう…、しッ…、知りません…」(グリオ)
「何で知り合いなのに、苗字知らねぇんだよ?(笑)、やっぱキャバ嬢じゃねぇか!(笑)」(彼)
「違いますよ…」
小さく弱々しい声で、グリオが無念な表情で言う。
「まぁいいや!、話してみろよ!(笑)」(彼)
「はい…、この話は、彼女が中学生だった時の話です…」
グリオがキャバ嬢から聞いた怪談を話し出した。(※実話です)
「当時、学習塾に通っていた彼女は、その日の塾が終わって、自転車で自宅へ戻っていた時です」
「夜の8時半頃だったそうです。自転車を漕いでいた彼女は、突然、後ろの荷台から重さを感じたそうです」
「なぎさちゃんは、変だな…?と思いつつも、そのまま自転車で走り続けたそうです」
「すると、道路反対側にいた巡回中のお巡りさんに、「ほらッ!、そこ、2人乗り運転するんじゃないッ!って、怒られたそうです」
「つまり、その時、彼女の後ろには幽霊が乗っていて、周りの人からは2人乗り運転をしてる様に見えていたという事です!」
「ほぉ…、霊魂にも重さがあるんだぁ…?、それでオチは…?」
グリオの話が終わったので、彼がそう聞いた。
「オチはありません…」(グリオ)
「は!?」(彼)
「そこまでしか、聞いてなかったので…」(グリオ)
「じゃあ今度聞いといてくれよ、霊魂の重さについても、どんな感じが知りたいし」(彼)
「無理です…」(グリオ)
「なんで?、電話して聞けよ」(彼)
「彼女のケータイは、プリペイドケータイで、もう解約してますから…」(グリオ)
「プリペイド携帯~?」(彼)
「お店が彼女に支給してる、営業用のケータイです。彼女は店を辞めてしまったので、ケータイは解約されてました…」(グリオ)
「やっぱりキャバなんじゃねぇか!(笑)」
彼にそう言われたグリオは、「ぐぅぅ…」と無念そうに呟くのであった。
「では、次は私が話して良いですか…?」
今度は中出氏がニヤリと微笑んで言った。
「おう、お前も怪談ネタがあるんだ?、いいぜ話してくれ」
彼がそう言うと、中出氏は怪談を始めた。(※実話です)
「私の知り合いの女性の話です…」(※性風俗勤務の女性)
「彼女はモモカさんと言って、接客サービスの仕事をしております」(※性風俗勤務の女性)
「彼女はその日、ひっきりなしにこなす接客業務に疲れたので、次のお客さんが来るまで、バックヤードの更衣室へ休憩に向かいました」
「更衣室には従業員のロッカーと、中央に長椅子が置いてありました」
「彼女はその長椅子に横になりました。少しの間、仮眠を取る為です」
「モモカさんがウトウトしていると、突然、金縛りにあったそうです!」
「意識はハッキリしてるのに、身体が動かないモモカさんは動揺します」
「すると彼女の背後から、何か人の気配を感じたそうです」
「モモカさんは金縛りで振り返る事は出来ませんが、視界には男性の姿が見えたそうです」
「その男性は、段々と彼女に近づき、モモカさんの顔のすぐ横まで迫って来たそうです!」
「彼女は動揺しました!、だけど身体を動かす事も、声を出す事も出来ません!」
「するとその男性は、彼女の耳元に顔を近づけて、こう言ったそうです…」
「あんま、可愛くないな…」
「わはは…ッ!、何だそれッ!?」
中出氏の話に笑う2人。
「そう言われた瞬間、彼女の金縛りは解けたそうです!」
「彼女は急いで後ろを振り返りますが、その部屋には誰も居なかったそうです…」(※実話です)
「へぇ…」(彼)
「確かに、そのコ、あんま可愛くないんですよ…(笑)」(中出氏)
「わはは…ッ!、じゃあ何か?、幽霊も品定めするって事か?」(彼)
「そういう事になりますねぇ…(含み笑)」(中出氏)
「まったく、お前らの話す怪談は、ちっとも怖くねぇなぁ…、よし、俺がとっておきのやつを話してやるよ!」(彼)
「あの…」
その時、側に居たユキメがボソっと言った。
「ん?」
彼やみんなが振り返る。
「私も怪談を話しても良いですか…?」
ユキメは、小さな声でそう言った。
「あんたが怪談を?、いいぜ、話してくれよ♪」
彼がそう言うと、ユキメは怪談話を始めるのであった。
「昔々…、ある東北の山奥の農村に、ミノキチという青年が、お雪という美しい女性と暮らしていました」
「ミノキチとお雪は夫婦です。2人は前年に知り合い、すぐ恋に落ち結婚したそうです」
「これは雪が吹雪く、ある夜の日の事でした。ミノキチとお雪が暮らす家の前で、旅人が行き倒れていたそうです」
「それを見たミノキチは、その旅人を家の中に入れ、介抱したそうです」
「一晩経つ頃には、その旅人も元気になり、ミノキチとお雪は、囲炉裏を囲んでその旅人と楽しく食事を楽しむのでした」
「するとその旅人は、せっかくだからみんなで怪談話でもして盛り上がりませんか?と持ち掛けたそうです」
「そこでミノキチは、だったら自分が体験した凄い話があると、得意げに怪談を語り始めるのでした」
「その話は、ミノキチが子供の頃の話でした」
「茂作という老人のきこりと、見習いのミノキチは、ある冬の日、吹雪で家に帰れなくなってしまったそうです」
「近くに小屋があるのを見つけた茂作は、その小屋の戸を開けようとしますが、なかなか開きません」
「それでも茂作は、このままだと凍死してしまうと思い、その小屋の戸を無理やりこじ開ける事に成功しました」
「すると、開けた戸の前に白装束の若い女性が立っていたそうです」
「その女性は口から、ハーーッ!と、白い煙の息をいきなり茂作に吹きかけると、茂作は凍って凍死してしまいました」
「それを間近で見たミノキチは、震えあがります。そして、その女性はミノキチに振り返るとこう言ったそうです」
「私は雪女…、私を見てしまったからには生かしておく事は出来ません…。しかしあなたはまだ若い…、殺してしまうのは気の毒です」
「あなたが今見た事を誰にも話さないというのであれば、私はあなたを殺しません…、約束できますか…?」
「雪女がそう言うと、ミノキチは黙って何回も頷いたそうです」
「そして雪女は、ミノキチへ最後にこう言い残してその場を去りました」
「あなたが、もし誰かにこの事を話したら、私はあなたを殺します。分かりましたね…?」
「ミノキチは雪女に、自分は絶対にしゃべらないと約束したそうです」
「そしてミノキチは、それ以後、誰にもその話をしませんでしたが、この日、ついにその旅人に喋ってしまうのでした」
「ミノキチの怪談が終わると、彼の隣にいたお雪が、シクシクと泣いているのに気が付きます」
「お雪、どうしたんだい?と、ミノキチが彼女に聞きます」
「するとお雪は立ち上がって、こう言います」
「あなた…、あなたはついに喋ってしまいましたね…?、その雪女は、私です…」
「あれほど約束したのに、どうしてあなたは喋ってしまったのですか…?」
「これで私は、あなたを殺さなければなりません…」
「お雪の言葉に驚く、ミノキチと旅人」
「その2人目がけてお雪は、ハーーッと、白い息を吹きかけます!」
「囲炉裏の前に座るミノキチと旅人は、瞬く間に凍り付き、家の中も氷で覆いつくされてしまいました」
「お雪は、そのまま姿を消し、2度と村には現れませんでした」
「そしてミノキチたちの凍死した亡骸は、翌日、近所の村人に発見されたとの事です…。めでたし、めでたし…」
「どこが、めでてぇんだよッ!?(苦笑)」
ユキメの怪談を聞き終わった彼が、彼女にそうツッコんだ。
「みなさん…、実はその雪女とは、私の事なんです…」
ユキメが囲炉裏の前から立ち上がると、そう静かに言う。
「なぬ~~~~~~~ッ!?」(彼)
「マジですかぁ~ッ!?」(グリオ)
「ええ、そうです…。あなた達は私の正体を知ってしまいました…」
「だから残念ですが、知ってしまった以上、私はあなた達を殺します…」
「ふざけんなぁ~ッ!、アンタが勝手に喋ったんじゃねぇかぁッ!」(彼)
「そうだッ!、そうだッ!、そんな横暴が許されてたまるかぁッ!」(グリオ)
「そんな事、言うんだったら、こっから出てってもらうッ!」(彼)
「そうだッ!、そうだッ!、とっとと出てけッ!」(グリオ)
「帰~れッ!、帰~れッ!、帰~れッ!、帰~れッ!…」
彼が突然そう言い出すと、グリオも手拍子をしながら、帰れコールを繰り返す!
「帰~れッ!、帰~れッ!、帰~れッ!、帰~れッ!…」
「ううッ…!」
帰れコールに動揺する雪女。
その姿はまるで、スーパーストロングマシーンのマネージャーのKY・ワカマツが、プロレスの試合会場で観客たちから帰れコールを浴びせられてる姿と同じであった。
「ああ…ッ!、待って下さいッ!」
「こんな吹雪の真夜中に放り出されたら、私は凍死してしまいますぅッ!」
雪女が、彼にすがる様に懇願し出した。
「何言ってんだッ!、お前、雪女なんだから平気だろッ!、とっとと出てけッ!」(彼)
「あうう…、それが近年は温暖化の影響で、私の寒さへの耐久性も衰えて来まして…、情けない事に家では床暖房を設置した次第なんですうぅぅ…」(雪女)
「床暖房だとぉ~?、ふざけやがって~!、俺ん家だって、そんな贅沢な設備なんかねぇってのにッ!」
「もお勘弁ならん!、お前なんか、とっとと出てけぇ~ッ!!」
彼がそう怒鳴ると、後ろにいた中出氏がこう言った。
「まぁまぁ…、いいじゃないですか?、今夜は泊めてあげましょうよ…」
「お前、何考えてんだよッ!?、相手は雪女だぞッ!、口から白い息吹きかけられた、凍っちまうんだぞぉッ!」
「大丈夫ですよ…、私の人生、バーリトゥード(何でもアリ)ですから…」
中出氏はそう言ってニヤリと微笑むと、メガネのフレーム中央を、中指でくいっと上げるのだった。
パチ…、パチ…。(焚火の音)
それから4人は、囲炉裏の炎を見つめながら座っていた。
彼とグリオの座る正面には、中出氏がユキメ(雪女)と、頭から毛布を一緒にかぶって肩を寄せ合いイチャイチャしていた。
「ユキちゃん…♪」(※雪女だから)
ユキメを見つめてながら、中出氏がニヤニヤして言う。
「ヨッちゃん…♪」(※中出ヨシノブだから)
それに応える様に、笑顔のユキメも言う。
「ねぇ、ユキちゃんて、いくつなの…?」
中出氏がユキメに年齢を聞く。
「も~お!、女性に年齢を聞くなんてぇ~♪」
その言葉に、プィッとスネるユキメ。
「良いじゃないですか、教えて下さいよ…」(中出氏)
「499歳!」
恥ずかしそうにユキメが言う。
「へぇ~!、そうなんだぁ~!?、全然見えないよぉ~!」(中出氏)
「私、室町(時代)生まれだから…」(ユキメ)
「もっと全然、若く見えるよぉ~!」(中出氏)
「うふふ…、ありがとう♪、ヨッチャンは何歳なの?」(ユキメ)
「当ててみて下さい…」(ニヤッと言う中出氏)
「え~!?、ずるいぃ~!、え~とね…、25歳!」(ユキメ)
「ブーーッ!、おしい!、ハズレ!」(中出氏)
「ここはキャバクラかよ…!?」
正面でその光景を見てる彼が、ボソッと呟く。
「どんな状況でも、キャバクラっぽく持って行っちゃうのが、ナカデさんのスゴイとこですよね…?」
彼の隣に座っているグリオも言う。
「そうだ!、ユキちゃん、これ一緒に飲みませんか?、あったまりますよ♪」
中出氏はそう言うと、リュックから1本のボトルを取り出した。
(あのヤロウ…、あんなモン隠し持ってやがったのか…?)
それを見た彼がそう思う。
「何それ…?」(ユキメ)
「ホワイトホースです」(中出氏)
「ホワイトホース…?」(ユキメ)
「ウィスキーですよ…。そうか、ユキちゃんは、もしかして日本酒しか知らないのかな?」(中出氏)
「それ、お酒なんだ?」(ホワイトホースを見つめて言うユキメ)
「そうです。ウィスキーは洋酒なんです」(中出氏)
「洋酒?」(ユキメ)
「外国のお酒って事ですよ」(中出氏が微笑む)
「ウォッカみたいなもの?」(ユキメ)
「え!?、ユキちゃん、ウォッカは知ってんだぁ!?」(中出氏)
「ええ…、以前、お隣に住んでいるユキオさん(※雪男と書く)が、アブハジアにいるご親戚から頂いたものを、おすそ分けされたの…」(中出氏)
「そのユキオさんは、外国に親戚が住んでるんだぁ?」
「なんか、そのご親戚は、元々はヒマラヤ出身らしいんだけど、随分前にアブハジアに引っ越されて…、それで、そこはロシアと隣接した場所だから、ロシアへ買い物に出た時、ウォッカもよく買って来るんだって…」(ユキメ)
「それを、わざわざ外国から送ってくださるんだぁ…?」(中出氏が感心する)
「ええ…、フェデラルエクスプレスで送って来るみたい。この前、梱包されたまま渡された時、ラベルが貼ってあったから…」(ユキメ)
「ご親戚は向こう(外国)でも、やっぱ“雪男”って呼ばれてるんですかねぇ…?」(中出氏)
「イエティって、呼ばれてるみたい」(ユキメ)
「そうかッ!?、イエティと雪男は親戚だったんですかぁッ!?、それじゃ、ビックフットとかは、どうなんですかねぇ~?」(中出氏)
「ヨッちゃんよく知ってるわね?、ビックフットさんは、アメリカのご親戚よ」(ユキメ)
「ええッ!、そぉ~なんですかぁ!?」(中出氏)
「ユキオさんは、ご親戚があちこちにいるみたい…。日本にもいるわよ広島に…」(ユキメ)
「それって、ヒバゴンの事ですかぁ~?」(中出氏)
「驚いたわぁ~!、ヨッちゃんて、何でも知ってるのね!?」(ユキメ)
「今の話、ムーの編集長の三神さんに教えたら、大喜びしますよぉッ!」(中出氏)
(東スポもな…)
その話を聞いていた彼が、呆れながらそう思うのだった。
「じゃあウィスキー初体験という事で…」
中田氏はそういうと、シェラカップを手にしたユキメにウィスキーを注いだ。
トクトクトク…。
「じゃあヨッちゃんのは、私が注ぐね♪」
ユキメもお返しに酒を中出氏に注いだ。
「あ~あ…、これがキンキンに冷えてたら美味いんだけどなぁ…」
カップを眺めながら中出氏が言う。
「外の雪、持って来ましょうか?」(ユキメ)
「ダメですよ…、雪なんか入れちゃ味が薄まります。ボトルごと冷蔵庫で冷やして飲むのが良いんですよ」(中出氏)
「私に良い考えがあるわ!、ヨッちゃん、そのカップを前に出して!」(ユキメ)
「え?、こうですか…?」
中出氏はユキメに言われるがまま、そのカップを彼女の方に向けて差し出した。
「ハァーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
すると凄い形相で、ユキメがイキナリ、口から白い息を吐き出した!
ピィキィーーーーーンンッ!
カップは、一瞬で凍り付く!
しかし目の前の中出氏も凍り付いた!
全身真っ白くなった中出氏は、つららを付けた状態で固まっている!
メガネも真っ白で、まるでメガネクリンビューのCMの、エンゾウ師匠の様になっていた。
「きゃあ~ッ!、どうしましょッ!?、どうしましょッ!?」
中出氏まで凍らせてしまったユキメは、頭を掻きむしりながら右往左往と動き回る。
「だから言わんこっちゃないッ!」(彼)
「どうしましょッ!?、どうしましょッ!?」(ユキメ)
「早くそいつを囲炉裏の中へ放り投げろッ!」(彼)
「はいッ!」
ユキメはそう言うと、華奢なくせに驚くほどの怪力で、中出氏を頭上に持ち上げ囲炉裏の炎へ投げ込んだ!
ドーン!(囲炉裏に投げ込まれる音)
投げ込まれた中出氏は、炎の中でじっと固まっている。
数秒後、彼の身体を覆う氷が溶けだして来た!
「わぁあああああああ~~ッ!」
すると中出氏がイキナリ奇声を上げて、囲炉裏から飛び出した!
「あちちちち…ッ!、あちちちち…ッ!」
中出氏が、かちかち山のタヌキみたいに、背中から煙を出して部屋中を走り回る!
それを見ているユキメは、頭を抱えながら「どうしましょッ!?、どうしましょッ!?」と叫んでいる!
「早く火を消せッ!」(彼)
「はいッ!」
彼の言葉にユキメはそう言うと、ゴジラの様に口から煙を吐き出した!
「ハァーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
ピィキィーーーーーンンッ!
また中出氏が白く固まった。
それを見て、ガクッと崩れる彼とグリオ。
「きゃあ~ッ!、どうしましょッ!?、どうしましょッ!?」
それを見て、ユキメが再び叫び出す。
「アホ過ぎて付き合いきれん…」(呆れ顔の彼)
「ほっといて、もう寝ましょう…」
グリオも呆れてそう言うと、2人は毛布を持って小屋の端へと移動するのであった。
翌朝
昨夜の吹雪が嘘のような晴天となった。
「じゃあヨッちゃんまた来てね~♪」
避難小屋の前で、ユキメが手を振り、笑顔で中出氏に言った。
「うん♪、愛してるよユキちゃ~ん♪」
笑顔の中出氏が、丘の上のユキメに、そう叫ぶ。
(2度と来るかよ、こんなとこ…!)
2人のやり取りを見てる彼は、そう思うのだった。
「あのホワイトホース、ちゃんとキープしておいて下さいね~♪」(中出氏)
「ボトルキープは、3ヶ月よ~!(笑)」(ユキメ)
「じゃあ、それまでにまた来ないとね~♪」(中出氏)
「場末のスナックで、こういうシーンをよく見かけますよ…」
グリオが隣の彼に言う。
「好きにさせとけ!、また来たきゃ、アイツだけ来りゃいいんだからよ…!」(彼)
「では、みなさん!、そろそろ下山しましょうか!?」
2人に振り返り、笑顔の中出氏が言った。
「そうだな…、早くしないと日が暮れちまうからな…」(彼)
「歩くと時間が掛りますね。せっかくだから滑って降りませんか!?、パウダースノーだし…」(中出氏)
「良いけど、お前、また谷に落ちたりすんなよ!」(彼)
「大丈夫ですよ!、では出発しましょう!」
中出氏がそう言うと、3人はオフピステの斜面を勢いよく滑り始めるのであった。
シャーーーーーーーーッ
「アニキ!、気持ち良いですねぇッ!?」
グリオが隣で滑る彼に言う。
「ああ…、このまま無事に下まで行ける事を願うよ」(彼)
風を切って滑る3人。
しばらく行くと、雪に埋もれた林が見えて来た。
「ん!?」
その時、滑る彼が林の中で何かを見つけた。
減速して止まる彼。
前方20mには、先程の林。
「どうしたんですか?」
彼の横に止まったグリオが、彼にそう聞いた。
「何か今、あの林の中で黒い物が動いた…」(彼)
「黒い物…?」
グリオが彼に、そう聞き返した瞬間であった!
林の中から大きな生き物が、のそっと姿を現した!
「うわぁッ…!、ムグッ…」
大声を出そうとしたグリオの口を、彼が急いで手で塞いだ!
「ばかッ!、大声だすんじゃねぇ!」
グリオの口を押さえながら、彼が力強い小声で言った。
林から姿を現したのは、大きな熊であった!
口を塞がれているグリオは、目を見開いてその熊を見つめている。
そして彼が小声で素早くグリオに言う。
「あれは冬眠し損ねた熊だ…。ああいうやつは餌が無くて気が立っている。大きな音を出して刺激してはダメだ!」
「さっさと逃げましょうよッ!」
力強い小声で、グリオが彼に言う。
「獣に背を向けてはダメだ。やつを見つめながら、ゆっくりと後ずさりするんだ…」
「いいか!?、絶対に走っちゃダメだぞ!、熊は犬と同じで、走ると追っかけて来る習性があるからな…」
前方の熊を見つめながら、彼が小声でグリオにそう説明する。
熊は鼻をフゴフゴと鳴らしながら、こちらを見ていた。
そして、のそのそと、こちらの方へ向かって動き出す。
「くそう…!、熊避け鈴でも付けてたら、鉢合わせせず、アイツに俺たちの存在を知らせられたのに…」
彼が無念そうに言うと、後ろに立っている中出氏が言った。
「鈴ならありますよ♪、ほら、こんなにいっぱい!(笑)」
「え!?」
彼がそう言って振り返ると、一体どこから出して来たのか?、中出氏は両腕に大きな鈴を2つずつ付け、手にはカラオケボックスでよく見かけるタンバリン。
そして首からは、銅鑼をぶら下げて立っていた。
「それッ!」
中出氏はそう言うと、イキナリ身体を激しく振りながら、鈴とタンバリンを鳴らし始めた!
シャンシャンシャンシャン…ッ!(両腕の鈴)
シャカシャカシャカシャカ…ッ!(タンバリンを叩く音)
「うわぁ~ッ!、ヤメロ、バカーッ!、何考えてんだぁ~~~ッ!?」
彼が中出氏を慌てて止めに行く!
しかし中出氏は、首から下げた銅鑼を勢いよく鳴らす!
ボワァァァ~~~~~~ンン…ッ!!(銅鑼の音)
「今鳴らしてしても、イミねぇだろぉぉぉ……ッ!!」
怒りで身体を震わせた彼に、首を絞められる中出氏が「うぐぐ…」と、うめき声を上げる。
グォオオオオオ……ッ!
その時、激しい音に興奮した熊が怒り、2本足で立ち上がった!
フッ、フッ、フッ…!
熊の息遣いが、明らかに激しくなった!
今にも飛び掛かって来そうな状況だ!
「どうすんですかぁ…?、アニキィ~…」
ガタガタ震えながらグリオが言う。
「ヤバイぞ…、マジでヤバイぞ…」
正面に立つ熊を見つめて、彼が言う。
「ネゴシエーション(交渉)してみたら、どうでしょう?」
笑顔でそういう中出氏の言葉に、彼とグリオはズルッと崩れる。
「お前、熊と一体どうやって交渉すんだよッ!?」(彼)
「これを使います…」
澄まし笑顔の中出氏はそう言うと、手にした物を彼に見せる。
「なんだそれ…?、こんにゃくか…?」(彼)
「翻訳コンニャクです…。これを使えば誰とだって話せます…」(中出氏)
「それッ!、ドラえもんの道具じゃねぇかぁ~ッ!?」(彼)
「これは宇宙人とでも話せますから、動物も理論上では会話できます…」(中出氏)
「お前が留学経験無いのに、英語がペラペラなのは、もしかしてそれかぁ…?」(彼)
「いえ…、あれは本当に大学受験の時、予備校でマスターしたものです」(中出氏)
「予備校って…、以前言ってた、あの予備校か…?」(彼)
「はい、みしゅじゅ学苑です」(中出氏)
「怒涛の英語力の…?」(彼)
「はい、みしゅじゅ学苑です」(中出氏)
「普通、大学受験の予備校って、代ゼミとか駿台とか行かねぇか…?」(彼)
「いえ…、私はあのテレビCMを観て、あそこに決めました」(中出氏)
「お前ならそうかもな…?」
中出氏の言葉が、妙に説得力あると感じた彼なのであった。
「アニキッ!、何ごちゃごちゃやってんすかぁッ!?、熊が近づいて来てますよぉぉぉ…ッ!」
力強い小声を震わせながら、グリオが言う。
「では、2人はここでお待ちください。私が熊さんとネゴシエーション(交渉)して来ますから…」(中出氏)
「お前しか出来ねぇだろ、そんなコト…」(彼)
「では、行って来ます…」
中出氏はそう言ってニヤッと微笑むと、熊の方へと歩き出した。
「ホントに大丈夫なんですかねぇ…?」
遠巻きから、熊と対峙してる中出氏を訝し気に見つめてるグリオが言う。
グォオオオオオ……ッ!
その時であった!
気が立っている熊が、再び2本足で立ち上がって、目の前の中出氏を威嚇した!
だが中出氏は平然としながら、熊に何かを話し掛けている。
すると、振り上げた手をピタッと止めた熊。
熊は上げた手を振り下ろすと、目の前で話し掛けて来る中出氏に、何やらウゴウゴと唸り出した。
「あれッ!?、アニキ、見て下さいよ!、ナカデさん熊と打ち解けてますよぉッ!?」
驚いてるグリオの目の前では、笑顔の熊が左手で口を押さえながら、右手で中出氏の肩をポンポンと叩いている姿が…ッ!!」
※「あ~ら奥さん!、ヤダわぁ~♪」みたいな感じの仕草。
「まるで買い物帰りの、近所のオバちゃん同士が楽しく話してるみたいですねぇ…?」(グリオ)
「何なんだよアイツはよぉ~ッ!?」
今起きてる現状が、理解不能な彼がそう言う。
それから中出氏と熊は、雪の上であぐらをかいて向かい合った。
時折、中出氏が「うんうん…」と頷くと、熊は手で目頭を押さえながらうつ向くのであった。
「まるで人生相談にでも乗ってる感じだな…?」(唖然としながら見つめる彼)
「アニキ!、これはチャンスですよ…」(グリオ)
「そうだな…、今のうちに逃げるとしよう…」
彼がそう言うと、2人はその場からそ~と離れようとした。
するとその時、熊と話し合っている中出氏が立ち上がり、笑顔で彼らに振り返る。
「みなさぁ~~~んッ!、もお大丈夫ですよぉぉ~!」
そう言いながら中出氏が、彼らに向かって走って来た!
隣には四つ這いで、一緒に向かって来る熊の姿も…ッ!
「うわぁああああ~ッ!!、こっち来ンじゃねぇよッ、バカーーーーッ!!」
彼とグリオは必死の形相で、雪の中を走り出すのであった。
10分後…。
熊が襲って来ないと理解した彼とグリオは、笑顔の中出氏から、やつの隣に立っている熊を改めて紹介された。
「こちらは熊田さん…、熊田ヨーコさんです!」(中出氏)
「熊田ヨ~コぉ~!?」(彼)
「彼女の名前です♪、彼女はメスで、2匹の子持ちです(笑)」(中出氏)
「なんか、そんな名前のグラドル、いませんでしたっけ…?」(グリオ)
「人間界にも熊田曜子さんていますけど、こっちは動物界の熊田ヨーコさんです!(笑)」(中出氏)
「なんで熊に名前があるんだよ…?」(訝しむ彼)
「話してみたら、どうやら熊にも名前があるみたいですね…。熊語を翻訳すると、熊田ヨーコになるんです…」
「ウソこけッ!」(彼)
「本当ですよ!、それから偶然にも、彼女の方も独身時代は、グラビアの仕事をやっていたそうですよ!」(中出氏)
「熊がどうやってグラドルやんだよッ!?」(彼)
「信じられませんね…」(グリオ)
「本当だと言っております…」
そう言った中出氏の耳元で、何かフゴフゴと耳打ちしていた熊田ヨーコ。
「じゃあ何の本に出てたんだよッ!?」(彼)
「聞いてみましょう…」
そう言った中出氏が熊田に何かを話すと、熊田はフゴフゴ言いながら、中出氏に何か伝えた。
「聞きました!」(中出氏)
「何の本だ!?」(彼)
「“ムツゴロウのざんねんなどうぶつ図鑑”だそうです!」(中出氏)
「それ、グラビアじゃねぇだろぉッ!」(彼)
「ところで熊田さんは、何でさっき怒ってたんですか?」(グリオ)
「彼女がさっき気が立っていたのは、2匹の子熊の事が原因なんです」(中出氏)
「2匹の子熊ぁ~?」(彼)
「はい…、熊田さんたち家族は、母子家庭なんです。ダンナは子熊が生まれてすぐ、他のメスの方に気持ちが行ってしまい、彼女は離婚したそうです」(中出氏)
「なんじゃそりゃあッ!?」(彼)
「そして3人暮らしの熊田さんは、生活に困窮しておりまして、餌を探し続けるあまり…、今年の冬眠に入るのが失敗してしまったのです」
「更にこの事で、余計食べ物が不足してしまい、ついには、反抗期になり始めた子熊たちと喧嘩になって、子熊たちは家を飛び出してしまったのです」
「そこで熊田さんは、家出した子熊を探していて、気が立っていたのです」
「大変だな…、子育ても…(苦笑)」
彼が中出氏の話に呆れ顔でそう言うと、熊田が中出氏にフゴフゴと、何か耳打ちした。
「政府は人間ばかりでなく、熊にも子供手当を支給すべきだと、彼女は言っております…」(中出氏)
「ウソこけぇ~ッ!」(彼)
「それで熊田さんの提案なんですが、麓まで道案内をするので、途中まで一緒に子熊を探してくれないか?と、申しております…」(中出氏)
「麓まで道案内ですかぁ…、どうしますアニキ!?」
話を聞いたグリオが、彼に振り向いて言う。
「どおいう展開なんだよ!?、この小説…??」
困惑しながら、そう言う彼なのであった。
こうして3人は、ツキノワグマの熊田ヨーコに先導されながら雪山の麓を目指す事となった。
雪山を歩く3人と1匹。
フゴフゴ…。
熊田ヨーコは立ち上がると、“こっち、こっち”と、手(前足?)で方向を彼らに知らせた。
「良かったですね~!?、地元の熊さんだから、絶対に道には迷う事ありませんね♪」(笑顔の中出氏)
「いや、まぁ…、そうなんだけどさぁ…」
確かに中出氏の言う通りなのだろうが、この有り得ない現状に戸惑う彼は、そう言うのだった。
グォ…?
歩き始めてから1時間が過ぎた頃だろうか?
熊田ヨーコが、そう唸ると、急に2本足で立ち上がった。
空を仰ぎ、クンクンと鼻を鳴らす熊田。
「どうしました?熊田さん?」
中出氏が熊に聞く。
フゴフゴ…と、中出氏に何かを伝える熊田。
「えッ!?、そおなんですかぁッ!?」(中出氏)
「どうした?」(彼)
「今、子熊たちの声が微かに聴こえたそうです。そしてニオイも僅かにするとの事です」
中出氏がそう言って、彼に状況を伝える。
「あ!、あれですかねぇッ!?」
その時、遠くで何かを見つけたグリオが言った。
グリオが指差す方向には、猟銃を肩に担いだハンター2名が、子熊に首輪を掛けて連れて行く姿が確認できた。
グゥルルルル…。
それを見た熊田が、怒りの表情で唸った。
ガァッ!
熊田は、そう吠えると、イキナリ走り出した!
「あッ!、熊田さんッ!」
中出氏が叫ぶ。
3人は、熊田がハンターのいる方へ、猛然と向かって行く後姿を唖然として見つめる。
キュイ、キュイ、キュイ…。
首輪を掛けられた子熊2匹が、苦しそうな鳴き声を上げている。
それをハンターたちは、強引に引っ張っていた。
「お、おいッ!、あれを見ろッ!」
ハンターの1人が、仲間に慌てて叫ぶ。
「うわッ!、親熊が来やがったぁッ!」
そう言ったハンターへ、突進して来る熊田の姿。
ジャキッ!
ハンター2人は、急いでライフルを構えた!
熊田は20m先まで来ていた!
ガガーンッ!
2人同時に撃つハンター!
ビシッ!
グアアッ!
弾は熊田の眉間に命中した!
グゥルルルル…。
額から血を流す熊田が苦しそうに喘ぐ。
そして大の字に仰向けで倒れるのであった。
ズダァ~~ン…!(熊が倒れた音)
「あ~ッ!、熊田さんッ!」
中出氏はそう叫びながら、熊田の元へ駆け寄る!
キュン、キュン…。
母親が目の前で撃たれたのを目の当たりにした子熊たちが哀しい声を上げる。
「ナイス!、名人!」
「まぁな…♪」
熊の急所である眉間へ見事に命中させたハンターたちは、そう言うと笑顔でハイタッチをした。
「ん!?、何だあいつらは…?」
熊に駆け寄る3人を見て、ハンターの1人が言った。
「顔を見られちゃマズイ…、早くずらかろう…」
隣の仲間がそう言うと、彼らはその場から急いで離れようとする。
キュン、キュン…。
「ほらッ!、早くこっちへ来いッ!」
その場から離れたがらない子熊を、強引に引っ張るハンターたち。
「おいッ!、待てよッ!」
その時、彼がハンターたちにそう叫んだ。
ハンターたちは、その彼をジロッと睨みつけた。
一方、熊田を介抱している中出氏。
「熊田さんッ!、しっかりして下さいッ!」(中出氏)
フゴフゴ…。
力の無い顔で、熊田は弱々しくうめく。
熊の命は、今にも燃え尽きそうな感じであった。
「そうだッ!、熊田さんッ、これを食べて下さいッ!」
中出氏は慌ててそう言うと、腰からぶら下げた巾着袋から、タブレットの様なモノを急いで熊田に食べさせるのだった。
「なぜ子熊を連れて行く…?」
ハンターの近くまで来た彼が、やつらに質問した。
「キサマにはカンケーねぇ事だ…」(ハンターA)
「さてはお前ら密猟者だな…?」
彼がやつらを睨んで言う。
※解説をしよう。
熊の捕獲には2タイプある。
定められた期間内に、定められた方法で都道府県へ毎年狩猟登録をして行う「狩猟」と、個体数の調整調整の為に、都道府県から特別に許可される「許可捕獲」の2タイプである。
しかし昨今は、農民による無許可の捕獲が増えており、農作物への被害を守る為という大義名分の名のもとに、勝手に熊狩猟を行う者たちもいるのが現状だ。
しかもその連中の中には、熊狩猟がビジネスになる事を知っていて、敢えて違法に熊を密猟するのだ。
熊は、毛皮や皮が取引額が10万程の高値なる。
熊肉もジビエブームで売れるし、何よりも漢方に使われる熊胆は、貴重な材料としてかなりのカネになるのだ。
山の中で、バラバラに切り刻まれた無残な熊の死骸は、そうした密猟者たちが行ったもので、今問題になっている。
「俺たちが密猟者なら、どうするつもりだ?」(ハンターB)
「子熊を放さなきゃ、警察へ通報してやる…ッ」(彼)
「やれるモンなら、やってみろ…」(ハンターB)
ジャキッ…
密猟者はそう言うと、彼に猟銃を向けた!
「うッ…!」(彼が後ずさりする)
「お前バカだな…?(笑)」
もう1人のハンターも、そう言って銃を構えた。
「こんな誰も来ない場所に、ノコノコ現れやがって…、ここでお前ら全員を撃ち殺したって、誰にも気づかれねぇんだって事が分かってねぇな…?」
やつはそういうと、ふふふ…と含み笑いをするのだった。
「雪が溶ける頃には、お前らは狐やカラスの餌になって、誰にも発見されやしねぇ…(笑)」
銃を向けながら近づいて来る、ハンターが言う。
「お前らぁぁ…ッ!」
彼は怒りの表情で密猟者を睨むのだった。
「ア…、アニキッ…!」
彼の後ろに立つ、グリオが言う。
「では、ごきげんよう…」
密猟者は、彼にそう言うとライフルのスコープを自身の左目に合わせた。
「くッ…!」(彼)
「ふふふ…、ん!?」
スコープを覗き込むハンターの1人が言う。
その時、彼の背後から金色の光で覆われた物体が、ムクッと起き上がったのだった!
「うわぁあああッ!」(ハンター)
「??…ッ」(彼)
ハンターの尋常じゃない反応に、彼は背後を振り返る!
そして振り返った彼の後ろには、金色に輝くツキノワグマの熊田が、全身の毛を逆立てて怒りの形相で立っていた!
「グァ…、ガァ…、ギャ…、グェ……」(※ク・マ・ハ・メ…)
熊田はそう言いながら、広げた両手をくっつけ脇に構えた!
「ガァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!」(※ハー!)
熊田はそう叫びながら、脇に構えた両手を前に押し出した!
ボワッ!!
熊田の手の中から、何か白い光の塊が飛び出したッ!
ドーーーーンッッ!!
その塊に当たり、吹っ飛ばされるハンターたち!
「わぁッ!」(ハンターA)
「おわぁッ!」(ハンターB)
やつらは、そう叫ぶと20m先まで飛ばされた。
飛ばられたやつらは、雪山の傾斜がキツイ坂道へ着地しながら転がった!
「わぁあああああああ…ッ!」
ハンターたちは、そう叫びながらボール球の様に、坂を勢いよく転がり落ちて行った。
転がりながら雪が身体にどんどん付いていく彼ら。
ハンターたちは、雪ダルマの様になりながら、その場から見えなくなってしまった。
やつらが見えなくなると、熊田の身体から発する金色の光は徐々に弱まって行き、普通の熊の姿へと戻っていった。
そして2匹の子熊が、母親の元へと嬉しそうに飛びつくのであった。
「どッ!、どおいう事だぁッ…!?、熊は撃たれて、死んだんじゃないのかぁ~ッ!?」
彼がそう叫んで、中出氏の方を向いた。
「世田谷自然食館のサプリメントを与えました…」
笑顔の中出氏が言う。
「サプリメントぉ~ッ!?」(彼)
「はい、それを飲めば死にかけている身体でも、瞬時に回復します♪」(中出氏)
「スゴイですねッ!?、何ですかそれは!?」(グリオ)
「仙豆です…」(中出氏)
「センズ~~ッ!?」(彼)
「はい、仙豆です。しかも世田谷自然食館のモノは、復活した際には、以前よりも戦闘力が倍増する様になっております!」
「その戦闘力がMAXになった時には、あの様に身体が金色に輝き、クマハメ波を放つ事が出来るのです!」
「ドラゴンボールじゃねぇかッ!?、それッ!」(彼)
「どうして戦闘力がMAXになると、金色に光るんですか?」(グリオ)
「スーパーサヤマ人になるからです(笑)」(中出氏)
「サヤマ人…??」(グリオ)
「はい、埼玉県のサヤマ(狭山市民)人です!」(中出氏)
「意味が分からん…?」(彼)
「意味なんてありません…、そもそも意味などは、ライフスタイルを変えれば、どうにでもなるのですよ…。アルフレッド・アドラー(心理学者)の言葉です…」(中出氏)
中出氏は2人にそう言うと、中指でメガネのフレームを、くいっと上に押し上げるのであった。
「では、熊田さん、お気をつけて!」
それからしばらくして、中出氏は熊田にそう言うと、彼ら3人は熊田親子たちと別れるのであった。
「熊田さんの話だと、あと3Km降りれば、麓につながる林道へ出られるそうです」
熊たちを見届けた後、中出氏は彼とグリオにそう言うのであった。
「まだ3Kmも歩くんですかぁ…?」
グリオがその説明に対し嫌気が差して言った。
「歩くと長いですが、滑って降りればスグですよ♪(笑)」
笑顔で中出氏が言う。
「そうだな…。そうしよう…」
彼がそう言うと、3人は雪の斜面を再び滑り出すのであった。
シャーーーーーーーーーーッ!
勢いよく滑る3人。
すると中出氏が調子に乗って、先頭に躍り出た!
シャッ!、シャッ!、シャッ!
エッジを利かせて、見事なターンをキメていく中出氏。
そして中出氏の目の前に、また大きめのコブが現れた!
バッ!
中出氏がジャンプ!
中出氏はそのまま、アイアンクロスからのサイドフリップをキメた!
(※脚を後ろに曲げ、X字にクロスさせながら、そのまま側方宙返りする合わせ技)
「おお~ッ!」
中出氏の繰り出した大技エアに、驚愕する彼とグリオ!
しかし、中出氏が着地しようとした先は、またもや断崖絶壁の谷であった!
「わぁああああああああ~~~~ッ!」
中出氏が谷底へと落下して行く。
「中出氏ィ~~~ッ!」(その光景を見た2人が叫ぶ)
シャーーーーーーッ
ザッ!
後ろから追って、彼とグリオが崖手前で止まった!
オフピステの雪が白煙を上げる!
「ナカデさん、また落ちちゃいましたね…?」
谷底を覗き込みながら、グリオが彼に言う。
「だからチョーシこくなって言ったのによッ!」
彼も崖下を見つめながら言った。
「どうせまた平気な顔して、現れるんじゃないんですか?」(グリオ)
「そうだな…、心配する事ないか…?」
彼はそう言うと、中出氏が現れるのを待つ事にした。
しかし先程は、数秒で姿を現した中出氏であったが、今度は5分過ぎても現れる事はなかった。
「ヤバくないですか…?」(グリオ)
「ああ…」
グリオの言葉に頷く彼は、蒼ざめていた。
「どうしましょう…?」(グリオ)
「どうしましょうって言われたって…ッ」
彼がそう言い終わると同時に、後方から何か音が聴こえて来た。
パラパラパラ……。
「あッ!、アニキッ!、あれッ!」
グリオがそう言って指差す方向には、一機のヘリコプターが見えるのであった。
「なんだあのヘリは…ッ!?」
彼がそう言って見つめるヘリは、軍用のヘリコプターであった。
彼が驚いているワケは、そのヘリが、ヘリコプター特有の激しいプロペラ音が全くしていない事であった。
そのヘリは、自衛隊が極秘に開発したヘリで、“スカイバット”という機種であった。
無音で飛び回り、潜伏してるテロリスト達から気が付かれずに、発着しテロを制圧する特殊ヘリなのである。
(※ゲッターロボ號 第1巻参照)
「レスキューが助けに来たんですかねッ!?」
グリオが彼に聞く。
「それは無い…。そもそも俺たちが遭難してるなんて誰も知っちゃいねぇんだから…」
彼はそう言うと、訝し気に上空から近づいて来るヘリを見つめるのであった。
「お~~~~いッ!、お~~~~~~いッ!」
その時、ヘリから身を出して、拡声器を手にした男が叫んだ。
その声が中出氏のものだと分かった2人は、その場でガクッと崩れ落ちた。
「お~~~~いッ!、お~~~~~~いッ!」
笑顔の中出氏が雪面の2人に、再び拡声器から呼びかける。
どうやらヘリは、自動操縦に切り替えてある様だ。
中出氏は、2人が自分に気が付いた事を確認するとヘリの中に戻り、操縦桿を握りしめた。
静かに飛ぶそのヘリの中は、BGMが掛けられていた。
そのBGMは、なぜか西城秀樹が歌う“ギャランドゥ”であった。
そして機内には固定カメラが設置してあり、操縦する中出氏の姿を撮影していた。
悔しいけれどぉッ!、お前に夢中ぅ~ッ!、ギャランドゥッ!、ギャランドゥ~~♪
「何ですか?、BGMなんか掛けたりして…?」
外まで聴こえて来る大音量に、グリオが訝しげに言う。
「いい気なモンだな…」
呆れてる彼も、近づいて来るヘリを見つめながら言った。
「みなさ~んッ!、もう歩き疲れたから、これに乗って帰りませんかぁッ!?」
彼らの上空に浮かぶヘリから、中出氏は拡声器を手にして顔を出しながら言った。
「お前、そのヘリどぉしたんだよぉ~ッ!?」
上空の中出氏に、彼が叫ぶ。
「家から持って来ましたぁ~ッ!」(笑顔の中出氏)
「何で初めからそうしねぇんだよぉ~ッ!?」(彼が憮然として叫ぶ)
「ナカデさぁ~んッ!、そのヘリ、ナカデさんのモノなんですかぁ~ッ!?」
そうグリオが中出氏に聞くと、中出氏はグリオでなく、固定カメラに振り向いて言った。
「イエスッ!…、鷹巣クリニックッ!」
END