29. ――― 出発
こんな状況に思わず嘆息をもらした。
よく考えたら、俺は彼女たちを甘やかしているようだ。だから、こんなにわがままになっている。
このままじゃいけない。
だから俺はリナとリアを腕の中から押しのけた。
「えっ、兄上?」
「えっ、お兄様?」
二人は俺の行いに驚き顔を上げた。
「お前たち、わがままがすぎるぞ!」
と、腹立ちまぎれに言った。
始めてリナとリアを叱った。
「……っ」
しかし彼女たちの怯え顔を見ると、ますます罪悪感がつのった。
「ごめん……」
ちょっとやりすぎたな。
「いっ、いいえ、謝るべきは私たちです。本当に申し訳ございません、兄上」
「私も申し訳ございません、お兄様」
リナとリアは泣き止んで頭を下げて謝った。
ほっと安心して彼女たちの頭を撫でて優しく言う。
「安心しろ、俺はただ旅行に行くだけだ」
旅行の出発日は三日後で、一ヶ月の修学旅行をする。
「そっ、そうですね……。あっ、兄上、修学旅行楽しんでください」
「お兄様、卒業試験も頑張ってください」
「ありがとう、リナ、リア」
微笑んだリナとリア。やはり彼女たちは可愛い。
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それでもリナとリアは依然として纏わり付いてきた。執務をしている以外、彼女たちはいつもそばにいて離れなかった。
彼女たちは「私たちはお兄様が修学旅行に行く前に、お兄様との時間を大切にしたいのです」なんて言った。
だから「勝手にしろ。ただ俺が執務している時に邪魔しなければいい」と俺はそう言い聞かせたけど、二人は「はい!」と答えるだけで本当に俺の意思を理解しているかは怪しい。
それから、食事も入浴も就寝なども一緒だった。恥ずかしくて、苦笑するしかなかった。
まあ、俺は慣れていた。
旅行する前日に政務の引き継ぎを幕僚たちにきちんとし、荷づくりも終わった。もう準備が整い徐々に興奮してきた。
アイラも俺専属のメイドとして身の回りの世話をするために旅行に同行する。
もちろん自分の考えがある。アイラをすぐれた暗殺者に育て上げるために、彼女に色々と見聞させたいので、連れて行くのを決めた。
この世界には俺が知らない知識はまだたくさんなので、旅行を通して知識を増やしたい。
旅行は知識を増やす方法の一つだ。
そしていよいよ修学旅行の出発日となった。
「起きてください、ご主人様」
と、アイラが俺を起こしにきた。
今日は出発日なので、すぐに起きた。旅行を思うと、胸がわくわくした。
「おはよう、アイラ」
「おはようございます、ご主人様」
アイラとお互いに挨拶した。
この時リナたちも起きた。
「おはようございます、お兄様」
「おっ、おはようございます、兄上」
「おはよう、リア、リナ」
眠い目を擦りながら挨拶する彼女たち。
「ご主人様はレーリナ様たちと本当に相性がいいですね」
いや、相性がいいんじゃねぇ、彼女たちは甘えん坊すぎるんだ。
本当にリナとリアの洗脳をやりすぎたようだ。けど、それでも彼女たちを利用できる。彼女たちにとって俺の命令は絶対だから。
俺は立ち上がり、アイラは普段着に着替えるのを手伝ってくれた。
「アイラ姉、私も着替えさせてください」
「わっ、私もです」
「はい、かしこまりました」
アイラはリナとリアを着替えさせる。
もちろん、俺は目を逸らした。
いいや、なぜ俺専属のメイドがお前たちを着替えさせなきゃならないのだ!
と、心で文句を叫んだ。この三日間彼女たちはそうだった。
それで一緒に顔を洗いに行き、そのあとは朝食のため食堂へ向かう。
「今日からしばらくお兄様と離れ離れになりますね……」
「あっ、兄上と離れ離れにはなりたくないけれど……」
「もう言っただろう、俺はただ一ヶ月旅行に行くだけだ」
「そっ、そうですけれど、一ヶ月とは長い時間です!」
「お兄様がいなくなると寂しいと思います……」
くよくよしたような顔をするリナとリア。
どうしようかな……彼女たちを慰めないとならないようだ。
すぐに食堂に着いた。アイラが俺たちのためにドアを開け食堂へ入ると、お父さんお母さんとロアはもう食事を始めていた。
席につき、アイラは給仕のため俺の後ろに控えた。当たり前のように二人とも両側に座った。
「おはよう、お前たち」
「おはよう、ノルス、リナ、リア」
「おはようございます、ノルス様、レーリナ様とレーリア様」
「おはようございます、お父さんお母さん、そして師匠」
「「おはようございます……」」
元気がない挨拶、それにずっと落ち込む様子。
「お前たち、失礼よ」
「でも……でもお兄様と離れ離れになることを思うと、やっぱりいやです!」
「わっ、私もいやです、兄上と離れ離れになるなんて……」
言い終わると、声を出してまた泣き始めた。やべぇ……と、感じた。
まったく、彼女たちは……。
「お前たち、いい加減にしてくれ!」
……無効だ。かえって泣き声が大きくなった。
リナとリアが泣いた原因はただ俺と離れたくないんだと分かっているが、どうやって彼女たちを泣き止ませるのか……。
「正直俺もお前たちと離れたくないよ。けど、俺にとってこれはとても大事な旅行なので、行かなければならないんだ。だから、すまない……」
やさしい声でリナとリアに謝ると、やっとだんだん泣き止んだ。
よし、奏効した。
この勢いに乗って言葉を続ける。
「補償として、旅行から帰ったらお前たちの言うことをなんでも一つ聞く、どう?」
「ほっ、本当ですか?」
「冗談ではありませんよね?」
しくしく泣きながら言うリナとリア。
「ああ、言ったことは必ず実行する」
「そっ、それでは、約束しますよ」
「リナ姉様の言う通りです。約束しますよ、お兄様」
「うん、約束」
彼女たちと約束し、ついに落ち着いた。ほっと胸を撫で下ろした、これでいい。
早く朝ごはんを食べないと、冷めてしまう。
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荷物はすでに馬車に積み終えた。
お父さん、お母さん、リナとリアは屋敷の門に立って俺たちを見送りに来てくれた。
「やっぱりノルスと別れるなんてちょっと名残借しいわ」
お母さんは俺を抱きしめた。
「お母さん……」
俺もお母さんを抱きしめた、なんか暖かい。
前世には俺は世界を流浪していた孤児なので、家族というものが全然わからなかった。でも今世には家族がいたため、ようやく家族はどれほど暖かいものかがわかった。
もう二度と失いたくない。だからこそ、今の家族を大切にして守りたいと決意した。
「旅行気をつけてね」
「はい」
旅行は楽しみだが、離れたくない気持ちも湧いてきた。こんな気持ちは初めてだ。
「お兄様、約束を忘れないでくださいね!」
「あっ、兄上、約束を忘れないでください!」
と、二人は涙を堪えながら口を揃えて言った。
約束を心配しているなんて思わず苦笑した。
「ああ、絶対忘れないよ」
優しく彼女たちの頭を撫でて落ち着かせる。
「そろそろ時間だな。修学旅行楽しんできてね、ノルス」
「はい、お父さん。それでは、いってきます」
お互いに手を振って別れを告げ、馬車へと乗り込んだ。その後からロアとアイラも乗ってきた。
車夫が手綱を引いて馬車を進め、北に向かって出発した。
「ノルス様の様子を見て楽しみですね」
「そうですね。師匠も楽しみ?」
「……少しですね。長い間レーダスに行っていませんから……」
悲しげな顔をするロア。
そうだな、ロアは小さい時に戦火を避けたため、レーダスにとどまり住んだことがある。彼女にとってそれは悲しい思い出だろう。
「大丈夫、師匠。僕は師匠のそばにいますから」
ロアの頬は赤くなった。
「アイラ。どう、楽しみ?」
「はい、楽しみです!ご主人様たちと一緒に旅行に行くことができて光栄の至りでございます」
「それはよかったな」
やはりアイラを連れて行くのは正しいことだ。
馬車の窓から外を見ながら、レーダスの街並みを想像する。
レーダスっていったいどんなところだろう。
「とても面白い!」
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白皇 コスノ 拝啓




