28. ――― 修学旅行
入浴後、自室に戻る。
身体が重い……。くそ、入浴でリラックスできると思ったのに、リナとリアがあんなにまとわりついてくるとは思わなかった。しかも恥ずかしく死にたかった。
「まさか俺、彼女たちの洗脳をやりすぎたか……?そっ、そんなわけがないだろ……」
ハァーとため息をついた。
「《水》発動!」
廊下を歩いていると、誰かが魔法を発動している声が聞こえてきた。どうやらそれはロアの部屋から聞こえてきたらしい。
なにしている、ロアは?
ドアがすこし空いていたので、すきまから部屋の中を覗き見すると、ロアが魔法杖を振った。
「……っ」
ロアは一言も発することなく魔法杖を振ったが、魔法の反応はなかった。
彼女はいったい……。まさか!魔法を無詠唱で発動したいのか!
「そこにいるのは誰?」
ロアは魔法杖をこちらに向けた、俺はロアに気づかれたみたいだ。
さすが《天眼》、周りをすぐに察知できる。
「僕ですよ、師匠。すいません、別に覗き見したくないけど……」
「ノルス様ですか……」
「師匠はさっきなにをしていたのですか?」
「……いいえ、何もしていません」
「……そうですか」
ロアの顔を見ると何かを隠そうとしているみたいだ。
どうやら、ロアは《無詠唱》を習得したいんだ。でも、なぜ?
……まあとにかく、これから彼女には注意しなきゃ。
「わかりました、それでは失礼します」
向きを変えてロアの部屋を離れようとした時……。
「待ってください、ノルス様」
と、彼女は俺を呼んだ。
「どうしましたか、師匠?」
いきなり、ロアは俺に頭を下げた。
「……えっ?」
「勝手なお願いとは存じますが、ノルス様。私に《無詠唱》を教えていただけませんか……?」
「……」
やはり《無詠唱》を習得したいのだろうが、彼女が頭を下げるなんてまったく予想外だ。
でも正直、ロアの性格が変わった、もう自信過剰じゃない。そうだけど、彼女の目的はいったいなんだろう……?
「師匠に《無詠唱》を教える?」
「はい、ノルス様。申し訳ございません、突然にこんな勝手なことを言って……」
「一つ質問したいのですが、なぜ師匠は《無詠唱》を習得したいのですか?」
「……私は現状に甘んじて精進することを疎かにしていました。前に進みたいです。少しでも強くなって周りの人を守りたいです。今の私、『グロルートス王国首席魔法使い』という称号とは全然釣り合っていません……」
涙を流しながら言ったロア。彼女は何かに刺激されたようだ。
「申し訳ございません、ノルス様、つい涙が……」
「もしかして師匠は悪い夢を見ました?」
「はい、時々幼い頃のことを夢見ます」
ロアの過去に思いを巡らせた。俺の前世も彼女と同じく幼少時に両親を亡くし、ずっと孤独だった。
一人前の暗殺者になるため、俺も一生懸命自分を鍛えた……。
まあ、それも過ぎたことだ。
でもちょっと似ているね、俺とロアは。彼女に《無詠唱》を教えたら、多分彼女はそれを習得するだろう。
「……わかりました。俺、師匠に《無詠唱》を教えます」
「本当ですか、ノルス様?」
「本当ですよ」
「ありがとうございます、ノルス様」
ロアは笑顔になり涙を拭いた。
「師匠、手を差し出してください」
「はい」
俺は差し出されたロアの手を握りしめ、彼女の手に魔力を注いだ。
「これは……魔力の流れ?」
「はい、僕の魔力を師匠の体内に注いでいます」
魔力をロアの体内に注ぎ、ロアの魔力を誘導して流れさせている。
前にアイラに《無詠唱》を教えたのもこんな方式だった。彼女の体内に自分の魔力を注ぎ流れさせ、魔力の流れをコントロールすることで詠唱なく魔法を発動してみて、《無詠唱》をできるようにした。
「これはノルス様の魔力ですか……暖かいですね」
彼女は俺を褒めている?けど、彼女の言葉を聞いてなぜか俺の顔は赤くなった。
「……師匠、魔力をゆっくりと杖に集めてみてください」
「はい」
すると、ロアは魔力を杖に集めた。
「そして《水》を無詠唱で発動してみてください」
「わかりました……《水》!」
目を閉じるロアは精神を集中して深呼吸して、魔法を発動した。すぐに魔法陣が現れて水も出た。
さすがロア、一回で成功した。
「ノルス様、私はやりました!」
と、大喜びなロアは俺に抱きついてきたが、彼女の胸は俺の顔に当たっている。
ロアがクラースファ領に来てすでに二年になるが、身体も順調に成長したな。
……いや、いったい何を考えてるの、俺は……。
「《無詠唱》を習得しておめでとうございます、師匠」
「これはノルス様のおかげです」
「また一回しましょう。自分の魔力でやってみてください、師匠」
「はい!」
俺は手を放し、ロアは再び魔法杖を上げた。
「……っ!」
今回も魔法陣が現れて水も出て、問題なく成功した。見たところ、ロアはもう《無詠唱》を習得した。
ロアの笑顔を見て俺も嬉しくなった。
少し疲れたのか眠気がさしてきて自然にあくびがでた。
「師匠、僕はちょっと寝たいから、先に部屋に戻ります」
「わかりました。おやすみなさい、ノルス様」
「おやすみなさい、師匠」
ロアの部屋を離れ、自分の部屋に戻る。
でも、嬉しい。ロアとの距離を取り除いたんだ。日ならず彼女を支配下に組み入れるのができるはずだ。
✭✭✭✭✭
朝ごはんの時間なので食堂に入ると、いつものようにリナとリアは俺の両側に座った。
まあいいか、まだ政務があるので早く朝ごはんを食べてしまおう。
合掌しながら、いただきますと言った。
「そうだ、ノルス、お前の魔法はどうなった?」
いきなりお父さんが問いかけた。
「はい、すでに王級魔法ができるようになりました」
「もう王級魔法!」
「さすがノルス、王級魔法ができるなんてすごいわ」
「いいえ、これは師匠の教え方が上手だからです。師匠の授業はとても面白くて、説明もわかりやすいです」
向かい合わせの席に座るロアが赤面した。
「ほっ、褒めすぎです、ノルス様……」
けど、ロアが赤面する様子はまるで別人のようだ。可愛いと思った。
「でもどうしましたか、お父さん?いきなりそう聞いて……」
「なぁ、ノルスよ。ロアと別れたらどう思う?」
ロアと別れる……のか?
「たぶん寂しく思います……」
「ノルス様……」
俺は思い出した。お父さんはロアを俺の魔法教師に招いたけど、雇用期間はただ三年と定められている。
あと二ヶ月、ロアと別れるのか……。時間が経つのは早いな。
「あのノルス様、私は修学旅行をしたいのですが、どう思われますか?」
「修学旅行?」
「はい!」
修学旅行とは、教師の引率のもとに様々な経験や見聞をすること。
ロアと旅行するのか……。悪くないと思う、むしろ楽しみだ。始めてこの世界で旅行するんだ。それにロアを早く支配下に組み入れないと。
「お父さんお母さん、僕は修学旅行に行って構いませんか?」
「もちろん」
「旅行楽しんでね」
「ありがとうございます」
お父さんとお母さんが修学旅行に同意した以上。
「じゃ、僕は行きます、師匠」
「本当ですか?」
「はい。しかし、行き先はどこですか?」
「行き先は北方のデロシア王国の王都、レーダスです」
「外国ですね」
「けれどノルス様、旅行する途中に卒業試験がありますよ」
卒業試験か。面白い、それはどんな試験だろう?
「わかりました、試験をパスして見せます」
興奮してきた。
✭✭✭✭✭
朝メシを食べ終わった後、執務に行く。けど……リナとリアはずっと俺の後をつけている。
後をつける理由がわからんが、彼女たちの顔をちらっと見て何か考え事があるようだ。どうしたの、彼女たち?さっきの朝メシも多く食べ残した。
「お前たち、何があったの?」
その場に立ち止まった。
「そっ、その、兄上は修学旅行に行かなければならないのですか?」
突然、そう聞いたリナ。
「なぜ?」
と聞くと、リアは俺を抱きしめた。そして泣きそうな表情をした。
「私、お兄様と離れたくないです!」
「わっ、私もです!ですから兄上、修学旅行に行かないでください!」
リナも抱きしめてきて、二人は俺の腕の中で大泣きし、まずい状況になった。
今俺はどうする?
「とても面白い!」
「読み続けたい!」
「更新を期待です!」
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまるで構いませんか!
よろしくお願いいたします。
白皇 コスノ 拝啓




