23. ――― 暴動
「まっ、まさか、あなたが現在の公爵の御子息であり、神童と呼ばれるノルス・ガルメス様……ですか?」
神童なんて……。苦笑した。
お父さんは時々他の諸侯と俺のことについて話しており、口コミでクラースファ領のみなは俺が神童と呼ばれていることを知っている。
「そうだよ」
騎士たちに俺を信じてもらうために、ポケットから貴族身分証を取り出した。身分証にはガルメス家の紋章がある。
俺の身分証を見て、騎士たちはすぐに立ち上がって敬礼をした。
「先程はノルス様と気づかず大変失礼しました。本当に申し訳ありません」
「ノルス様、私たちの失礼の罪を処罰してください」
騎士たちは深く頭を下げて謝り、言葉も敬語を使うようになった。
「知らなかったのだから罪がないので処罰しない」
「ですが……」
「ですがじゃないよ」
「……わかりました。ご容赦いただきありがとうございます、ノルス様」
「ノルス様は度量が広いって、やはり本当です」
俺は度量が広いというわけじゃない。お前たちを処罰するのは俺にとって利益がないからだ。
「でも、すみませんが、ノルス様はお一人でテヤダにいらっしゃったのですか?護衛を従えていないのですか?」
「あぁ、その通り、俺は一人でクラースファからテヤダに飛んできた」
「「ノルス様は一人でクラースファから飛んでいらっしゃったのですか?!」」
騎士たちは俺が言うことを聞いてびっくり仰天した。
クラースファからテヤダまでの距離は確かに非常に遠く、馬車では早くても三日間かかる。一時間ぐらいでテヤダに飛んでくるとは彼らには想像できないだろう。
「さすがノルス様です!すごいです!」
「神童と呼ばれるのは本当にだてじゃありません」
「もういい、褒め殺しは止めてよ。……さて、俺はお前たちに聞きたいことがあるの」
今はむだ話をする場合じゃない。早く暴動の問題を解決しなければ。
「おっしゃってください、お答えしますから」
「最近テヤダではいったい何が起こったのか?更にその上俺を暴徒と見なして殺そうとしたのか?」
騎士たちは俺にこう聞かれ、感嘆の顔を浮かべた。
「実はノルス様の見ての通り、今テヤダには干ばつが起こっています。農民たちは生計を立てたため、互いに水源を奪い合い始めましたが、伯爵様はまったくこのことを問題にしませんでした。大規模な武力闘争事件が起こってしまい、もう手遅れとなりました」
「そのために、農民たちは伯爵様が無能だと思い、立ち上がって武裝蜂起しました。しかし、二日前に伯爵様は我ら騎士団に革命と関わりがある民衆を一人残らず逮捕するように、場合によっては殺してもよいと命令を下しました」
やはり、グロス伯爵は鎮圧するような命令を下した。
「くそっ、あいつがこんなに人命をおろそかにするなんて、もってのほかだ。許せん」
騎士たちから聞いたグロス伯爵の行為に、俺は怒ってこぶしを握りしめた。やり場のない怒りが心の奥から沸いてくる。
いや、現在は怒っている場合じゃない。まだ取り返しのつかない事態になっておらず、今から挽回するのに遅すぎるということはない。じゃあ……。
その中の一人の騎士に言う。
「お前、他の騎士たちの鎮圧行動を止めさせてくれ、早く!」
「はっ!」
その騎士は俺の命令を受け、すぐに馬に乗って離れていった。
またもう一人の騎士に言う。
「そしてお前、俺をグロス伯爵のところへ案内してくれ」
「はっ!」
俺を馬に乗せて騎士は手綱を引き、最速の速さでテヤダの城へと急ぐ。
冷静になりたいが、心が混乱して考えられない。
それでも、俺は必ず干ばつと革命を平和的に解決するための対策を考えなきゃ。
✮✮✮✮✮
城壁が見えてきた。だが、城壁には一人も兵士が歩哨に立っていない。
城門を通った。しかし、城門周辺にも兵士は一人もおらず、表通りでさえも散らかっているように見えた。しかも多くの建物が破壊され、甚だしきに至っては多くの屍が通りに晒されている。男女の関係なく、そして子供も……殺された。
なんと……そんな……。残忍だ、残忍すぎる。
思っていたより慘めだった。
目も当てられない惨状を俺の前にある。全くこの光景を直視できなくなり、心臟が激しく鼓動している。
なぜかテヤダの城に近づけば近づくほど気持ちが沈む。
「―――っ!」
にわかに、殺気を感じた。この時、三本の矢が俺たちに向かって飛んでくることに気がついた。まずい!
俺は服の内ポケットから匕首を三つ取り出し、グリップに《魔糸》を卷きつけて三本の矢に投げた。
矢の攻撃を防ぎ、力を入れて《魔糸》を引き戻し、匕首を内ポケットに戻した。よし!
前に自我訓練の時、俺は匕首のグリップに《魔糸》を卷きつけて投げた時に、《魔糸》を利用して匕首の方向を自由に操縱できることを見つけた。
突然、騎士は馬を止めた。我に返えると、俺たちがとり囲まれたことに気づいた。こりゃどういうことか?
「……っ」
「まずいです、ノルス様。私たちは暴民たちにとり囲まれたみたいです」
なるほど、彼らが騎士たちの言う暴民たちか……。
「……うん、そうだな」
「なら、ノルス様、私が戦って血路を開きましょうか?」
「そんな無鉄砲なことを言うな」
「はっ」
相手は十二人で、全員が武器を持っている。なぜ俺たちをとり囲むのか?……その理由は騎士に向けられた憎しみだ。
顔を見ると彼らにはすでに死ぬ覚悟ができており俺たちを全員殺すつもりだ。でも、正規の訓練を受けておらず、俺にとってはただの烏合の衆だ。
けれど、彼らから革命に関する情報を得ることができる絶好のチャンスだ。騎士たちの言い分だけで革命の本質を判断することはできない。
馬から降りた。彼らがいきなり俺たちを攻撃するのを防ぐために、俺は両手に魔力を注いだ。
「子供!?」
「まさか……」
「てめぇ!」
彼ら全員が騎士をにらみつけた。
なんでみなが俺を見て『子供』と呼ぶ……?
「そこの子供、早くこっちへ来い!」
「……っ」
「安心して、おじさんたちはちゃんとお前を守るから」
うんっ、彼らはなにを間違えているだろうか?……まさか、彼らは俺がこの騎士に逮捕されたと思ったのか?……まあ、まず情報を収集しよう。
「お前たちは何を言っているのかわからないけど、一つお聞きしてもいい?」
彼らは俺が言ったことを納得できないらしい。お互いに顔を見合わせ、ひとりが口を開く。
その人がこのグループのリーダーだろう。
「いっ、いいけど」
「実は、俺とこの騎士はクラースファから来たのだ。が、テヤダに来てこんな悲惨な光景を見た。俺が聞きたいのは、なぜテヤダがこのようになったのか?いったい何が起こったのか?これは殺戮ではないか」
全員の表情が変わった。伯爵への不満はすべて顔に書いてあった。
「俺はお前たちがテヤダに来るタイミングがあまりにもよくないとしか言えない」
「どうしたの?」
「ああー、なぜならこのテヤダを支配するグロス伯爵政府は腐敗しすぎたから」
口ぶりから、彼らが本当にグロス伯爵をひどく憎んでいることが聞き取れた。
「ほお、どういう意味?」
「お前たち、城内に入る前に農地を見てきただろ?」
「うん、見てきた。作物が枯れ、土壌も乾いてひび割れしていた」
「そうだろ。実は俺たちは近くの村に住んでいる農民だ。けど、テヤダに干ばつが起こり、俺たちの糊口に強い打撃を與えた。しかし、グロス伯爵はこの干ばつを無視した。救済を行わなかったうえに、政府は絶えず租税を上げてきた」
租税を上げる?騎士たちはこのことを教えてくれなかった。
「村長様は俺たちがもう暮らしを維持できないのを見て、生活を持続するため、しかたなしに我々を率いて立ち上がるしかなかった」
なんだ、一揆を起こした指導者はその村長だ。
「しかしながら、殘虐なグロス伯爵はテヤダの騎士団を派遣して鎮圧を行った。老人も子供も婦女も、革命とは関係のない人たちが調べを受けることもなく殺された……。ごめん、お前をテヤダの騎士と勘違いしてしまった」
「いっ、いいえ」と騎士は慌てて言った。
謝るべきは俺だろう。嘘をついたから。だけど、それは善意の嘘だ。
この人が言うことは騎士たちの弁解とほとんど一致している。
「お前たち、早くここを離れたほうがいい。でなきゃ、テヤダの……」
「いいや」
先ほどからグロス伯爵がそんなに堕落したと聞き、ちょっと会いたくなくなった。
気が変わった。その村長に会うことに決めた。
「離れないよ。実をいえば、俺たちがテヤダに来た目地はお前たちのためにそのグロス伯爵を厳罰に処することだ。よかったら、お前たちの指導者に会いたいけど、いいかな?」
また理解しかねる顔をした。
「ああっ、すまん、自己紹介を忘れた。俺の名前はノルス、ノルス・ガルメスだ」
「ノルス・ガルメス……。―――っ!?」
その場にいる彼らは俺の名前を聞いた途端に、口を大きく開けて目も丸くした。
「まっ、まさか、あなた様は神童と呼ばれる公爵の御子息であるノルス・ガルメス様……ですか?」
また苦笑した。
やっぱクラースファ領のみなは俺が神童と呼ばれていることを知っている。
「そっ、そうだよ」
突然、彼ら全員は俺に跪いた。
「ノルス様、テヤダを助けてください。お願いします」
「そりゃもちろん」
次のステップを考えるべきだ。
俺は絶対グロス伯爵にとことん責任を取らせねば。
「とても面白い!」
「読み続けたい!」
「更新を期待です!」
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白皇 コスノ 拝啓




