15. ――― 恐怖消除
俺の奴隷となったアイラは、しきりに首に架かった首輪に触れ、心が落ち着かないような顔をしている。
これは不安の顔。アイラはおそらく知っている、奴隷が買われる後、しばしば彼らの主人によってあくせく働かされることを。
しかもアイラは全身に鞭打たれた傷を負っている。きっと前の主人から虐待を受けたのだろう。
だから、アイラはこんなにも不安がるのだろう。
俺はアイラに以前のような苦しい労働をさせるつもりはない。
この世界についてはまだ知らないことがたくさんあるから、アイラを一流の情報収集員に訓練し、俺に正確な情報を提供させ、この世界の状況を迅速に把握できるようにする。
もしアイラに戦闘才能があるなら、彼女を一流の戦闘員に訓練し、俺の手助けをさせたい。
だが、その前に、アイラを完全にコントロールしないと、計画は成功しない。
「おめでとうございます、若旦那様。これで《奴隸契約》の締結は完成しました」
「はい」
「アイラ、あなたは本当にラッキーですよね。ガルメス公爵家の若旦那様に買い取っていただき、それは多くの奴隷にとって、とても羨ましいことだと感じさせますよ」
「はっ、はい……」
いやいやながらビストに答えるアイラ。
アイラの心にはまだ恐怖があったようだ。
この時、俺はすでにわかった。次にどうしたらいい。
まずアイラの恐怖をなくす。
「そろそろ帰ろう」
お父さんはソファーから立ち上がった。
「はい」
窓の外を見ると、確かに昼になりかけていた。
この世界には時計のようなものがないから、太陽の高さによって時間を判断しなければならない。
「では、門までお送りさせていただきます」
「勝手にしろ」
「はい」
こいつ、しつこい。
ビストは俺たちに従って会議室を出て門までついてきた。
「どうぞ、お気をつけてお帰りくださいませ。またのご来店をお待ちいたしております」とビストは俺たちにお辞儀をした。
お父さんが門を開け、俺たちはこの商館を離れた。
ビストの態度は俺に反感を抱かせた。
まあ、商人はお金を稼ぐため、客にこびへつらうのが常だ。
階段を降りた時、俺はある人が前に土下座しているのを見た。
一人の状年の男。体つきはかなり魁偉に見え、堂々たる軍服を着ている。
しかし、なぜここに跪いているの?
この男の人は誰だろう?
「ラフィダート様がいらっしゃるというのに、お出迎えできなかったこと、本当に申し訳ございません!」
目の前の男の人はお父さんと知り合いのようだ。
「シュトル、私がここへ来たのはごく些細な私事であり、礼をするには及ばない」
「いいえ、部下として私は礼をするべきです」
男の人の名前はシュトル、それに彼もお父さんの部下のようだ。
「お父さん、こちらは?」
「彼はシュトル・クノアス・ディヤヌス伯爵、私の部下であると共に、彼もこの商業都市ディヤヌスの城主だ」
恰幅がよく、なるほど彼は伯爵というわけだ。
グロルートス王国の貴族の地位が高い順に並べたら、公爵・侯爵または辺境伯・伯爵・子爵・男爵・準男爵・騎士爵。
伯爵の地位も結構高い。
「もういい、立ち上がって」
「いいえ、ラフィダート様は遠いところをおいでいただいたにもかかわらず、我等はお迎えすることなく、罪業は萬死に値します」
と、礼を尽くすことに非常に固執するシュトル。
シュトルはお父さんに対して忠誠心が強いとはいえ、強すぎる。
あるいはシュトルはお父さんの権威を恐れている。
たくさんの人が野次馬見物に来た。
ことがだんだん面倒になってきたと思った。
お父さんはシュトルのことをどう処したらいいか悩んでいるようだ。
解決しなきゃ、家に帰れない。
もう腹減った。
俺はシュトルの前に行ってしゃがんだ。
「シュトル様ですね?」
「はい」
シュトルは顔を上げた。
「すいませんが、あなたは?」
「僕はノルス・ガルメスです。ノルスと呼んでください」
「えっ、ノルス若旦那様ですか!ノルス若旦那様と気づかなかった私を処罰してください!」
シュトルは頭を強く床に打ち付けたので床が凹み亀裂が走った。
これを見て、痛いと思った。
シュトルは額から血を流している。
大丈夫かな、こいつは?と冷や汗をかいた。
「知らなかったのだから罪はありません。そしてシュトル様はお父さんに対してとても忠誠ですね」
「それは当然です、ノルス若旦那様」
「でも、シュトル様はさっきお父さんの命令にそむきました」
シュトルは疑惑の表情を見せた。
「お父さんがシュトル様に立ち上がってと言ったが、シュトル様はまだ跪いています」
「しかし、私は……」
「礼は元より重要だけど、礼と命令は別ですよ。それと、シュトル様の行為はもうお父さんをちょっと困らせました。僕にとって忠誠とは命令に従うことを優先し、上司を困らせないことです。しかしながら、シュトル様はこの二つに違背した。それでは、忠誠と言えないでしょ?」
シュトルには返す言葉がなかった。
「では、シュトル様。礼儀を尽くすことと命令に従うことでは、どちらを優先しますか?」
シュトルは立ち上がった。
「もちろん命令に従うことを選びます」
額にはまだ血が流れている。
「ラフィダート様を困惑させて、本当に申し訳ございません」
「さあ、早く戻って。お前はもう自分の仕事を遅らせている」
「はい」
シュトルは俺たちにお辞儀をして去った。
家に帰ることができた。しかし、家に帰ったら、まだやるべきことがたくさんある。
アイラの訓練と彼女の恐怖心を取り除くこと。
俺たちは馬車に乗り、護衛たちは周囲の民衆を追い散らし、馬車が動いた。
アイラは俺の隣に座っているが、かなり緊張しているように見えた。
「ノルスの話術はすごかったな、シュトルを固執しないようにした」
「いいえ、恐縮です」
話術は暗殺者が持つべきものだ。
話術を学んだのは、自分の本当の身分を他人に気づかれないようにするため。暗殺者がその身分を誰かに知られたら、暗殺者としての生涯は終わりだ。
アイラの体がまだぶるぶる震えているのを見た。彼女の気分を落ち着かせなければ。
《気分鎮静化》と《治療魔法上級》を発動。
光りがアイラを包み込んだまま消えて行った。傷も消えた。
これで気分が落ち着いたと思った。
お父さんは俺が魔法を使うのを見て驚かなかった。もう俺は詠唱なしで魔法を発動することに慣れたようだ。
アイラは驚いて自分の体を見ている。
「わたくしの傷はよくなりまして、身体ももう痛いことがありません。もしかしてご主人様がわたくしを治してくださったのですか?」
「そうだよ」
「ありがとうございます」
アイラは落ち着きを取り戻し、生き生きとした表情になった。
「その、ノルス。この奴隷を気に入って、君なりの考えがあるのだろう?」
さすがお父さん、俺の心を見透かした。
確かに自分の考えがある。アイラは無能じゃない、ただ潜在力が発掘されていないだけだ。
「あります、お父さん」
「わかった。じゃ、アイラ、ノルスのことは頼む」
アイラは納得できない表情を浮かべた。
そうだ、俺はまだアイラに買った理由を教えていない。
「実は、僕はアイラを買って、僕の日常生活を世話する僕専属の使用人にしたかったのさ」
「えっ?力仕事ではないのですか……」とアイラは小声で言った。
「なに?」
「なんでもありません、ご主人様」
アイラは苦しい仕事をやらされないと知ってほっとした。
俺もそれを見て安心した。
「ですけれど、ご主人様は公爵様のご子息ではありませんか?それならば、邸宅には多くの使用人がおりますでしょう?どうしてご主人様は奴隷を買い求めたのですか?」
「そうだけど、屋敷には僕に合う使用人がいないから」
「それに、ノルスに気に入られたのだから君にはきっといいところがあり、ノルスを引きつける何かがあるのだろう」とお父さんが助け船を出してくれた。
「わたくしに……いいところがありますでしょうか……」
アイラはお父さんの言葉に感情をちょっと高ぶらせて泣きそうになった。
俺はアイラの頭を撫でて気持ちを落ち着かせた。
「そうだよ。だから、僕はアイラを選んだのさ」
アイラは涙を拭いた。
「わたくしは喜んでご主人様に奉仕し、どんな苦労にも決して屈しません」とアイラは強く言った。
嬉しい。アイラの恐怖心はもう消えた。
そしてアイラもゆっくりと俺の支配下に入りつつある。
「とても面白い!」
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白皇 コスノ 拝啓




