11. ――― ロアシースの過去
周囲は火の海。
町の人々は全員避難している。
「くそ。ここはもうすぐ陥落される」
「ブライダ様、帝国軍の武力は強すぎます。この城の西の門は帝国軍に破壊されました。間もなく攻め込まれるかもしれません」
部屋の中でかっこよく見える男性が白髪まじりの六十歳ぐらいの執事と話している。
そのかっこよい男の名前はブライダ。
ブライダは執事の言葉を聞いて、悩むような顔つきを見せた。
「……どうやらここはもう守っておられないようだ……。フレニは?」
「奥様は今みんなを避難所に誘導しています」
「そうか。じゃ、フェルズ、お前はまずロアをここから連れて出してくれ」
そばに立っている少女は、怖い顔をしている。
「父上……」
少女が言った。
「大丈夫だよ、ロア。すぐ終わるから、安心しろ」
少女の名前はロアのようだ。
ブライダはロアの頭を撫ぜながら優しい口調で言った。
「うん……」
ブライダの話を聞いて、ロアは心がすこし安らいだ。
「わかりました。でも……」
突然「バーン」と、爆発音が響いた。
ブライダは不安な表情をした。
「どうした?」
ブライダの心の中には悪い予感がした。
窓から外を見て、西の門にはすでに帝国の旗が立てられている。
「まっ、まさか……」
ブライダはこぶしを握り締めた。
それから全身傷だらけの兵士が慌てて駆け込んできてブライダの前に跪いた。
「申し上げます。西側の門はもう完全に帝国軍に占領されました」
「……やはりな……。わかった……」
このニュースを聞いて、ブライダは難色を示した。
「ロア……」
ブライダはロアを見て、途方に暮れた。
この時、ブライダは決意した。
「フェルズ、早くロアをここから連れて行ってくれ」
「でも、ブライダ様は?」
「私は追っ手の追撃を阻止する」
「しかし……」
「しかしじゃない。時間はもう残りわずかになっている、早く!」
ブライダはフェルズの言葉を遮り、感情を高ぶらせて叫んだ。
「かしこまりました。ロア様、行きましょう」
今のブライダの唯一の希望はロアがここから逃げて、生き延びてくれることだ。
フェルズはロアの手を握り、この部屋を出る準備をした。
ロアは名残惜しくブライダを見た。
「父上……」
「安心しろ、ロア。私はあとからロアを追いかけていくよ」
しかし、ブライダはロアを追いかけていくことが不可能であることをわかっていた。
だが、ロアを安心させるために嘘をついた。
「そしてフレニに伝えてくれ、ロアのことは頼むと」
「わかりました。私は必ず奥様に伝えます」
「うん、頼むぞ」
「では、行きましょう、ロア様」
「はい」
ロアはブライダを振り返り、「さようなら、父上」と言った。
ブライダも「さようなら、ロア」と言った。
ロアとフェルズは部屋を出て、馬に乗り町を後にした。
ブライダはそれを確認し安堵した。
「ロアが大人になるのをちゃんと見たかったな」
ブライダは悲しい気分を振り払い、そばに立っている兵士に指示を出した。
「お前は早く戦える兵士を集め、私と共に帝国軍に立ち向かってくれ」
「御意!」
士兵は立ち上がって、一礼すると部屋を出た。
ブライダは腰に付けた剣を握り締めた……。
✭✭✭✭✭
フェルズは馬にロアを乗せて北の門から脱出した。
「父上は大丈夫でしょうか?」
ロアはフェルズに聞いた。
「はい、ブライダ様はきっと大丈夫です」
実際、フェルズの心は不安に満ちていた。
ブライダは助からないと思った。
フェルズは馬を止めた。
「奥様」
前方に若くて美しい女性がいた。
女性はフェルズの声を聞いて振り向いた。
「あら、フェルズでしょ?ロアも?」
フェルズとロアは馬から降りた。
「どうしてあなたたち二人だけなの?主人は?」
「ブライダ様は私たちを脱出させるために、帝国軍に必死で抵抗しています」
フレニはフェルズの話を聞き、跪いてしまった。
目から涙が流れた。
ロアはフレニの様子を見て悲しくなってしまった。
フレニに抱き着いた。
「母上、父上はすぐに私の後を追ってくると言いました。だから、泣かないでください」
フレニはロアを抱き締めた。
「奧様、ブライダ様から奥様への伝言を預かってきました」
「どんな内容ですか?」
「ロア様の面倒を頼むとのことです」
「……わかりました。私がロアを守ります」
と、手で涙を拭いて立ち上がるフレニ。
「でも、まだ安全に避難していない人がいますから、今はあなたたちと一緒に行けません」
「母上……」
フレニはロアを見て彼女の頭を撫でた。
「なら、私も手伝います。いいですか、母上?」
「いいですよ」
フレ二の話を聞いて、ロアは嬉しくなった。
突然、馬蹄の音が西から聞こえてきた。
馬蹄の音の方向を眺めると、空一面の砂塵がもうもうと押し寄せてくる。
帝国の旗が翻っている。それは帝国の騎兵部隊。
そして一名の兵士が馬に乗ってこちらへ向かってくるのが見えた。その兵士はとても落ち着かない様子だ。
フレニとフェルズは状況が良くないことを察した。
兵士はフレニたちの前に来て、馬から降りて跪いた。
「お知らせします。我らが行く先は帝国軍に発見されました」
フレニは厳しい表情になった。
「……わかりました」
フレニは指につけていた指輪を取り、ロアの指に嵌めた。
「母上?」
ロアは疑惑の顔でフレニを見た。
「安心して、ロア。私には片づけなければならない用があります。だから、フェルズあなたたちは先に行って」
「……かしこまりました」
「嫌です!私は母上と別れたくありません」
ロアは涙を流しながら大声で叫んだ。
「ロア様、わがままをおっしゃらないでください」
「でも……」
突然、フレニはロアに頬ずりした。
「間違いなく後から行きますから」
「はい」
ロアは淚を拭くとなぜか気持ちが落ち着いた。
「フェルズ、あなたはロアを連れて北方のデロシア王国へ行きなさい。あそこなら安全なはずです」
フレニは腰から一つの袋を取り出した。
それをフェルズの手に渡した。
「この袋には金貨が入っています。当座には十分です。それでは」
「さようなら、母上」
ロアはフレニに向かって手を振った。
フレニも手を振った。
ロアとフェルズは馬を乘って、その場を後にした。
フレニはその後ろ姿を見て放心した。
「あなた方は、先に一部の兵士を呼び集めて帝国軍に抵抗して。残りの兵士は続けて人民を避難させて」
と、隣の兵士に言うフレニ。
「御意!」
兵士は立ち上がって、一礼して離れた。
フレニは魔法道具《収納袋》の中から杖を取り出した。
そして帝国軍に向かい走った……。
✭✭✭✭✭
その後、ロアはフェルズとデロシア王国に行き、しばし安息の時を過ごした。
グロルートス王国とデロシア王国の連合軍が勝ったと聞いて、とても喜んだ。
しかし、ロアは両親が戦死したことを聞いて、嬉しい気持ちはすぐに消えてしまった。
ロアは悲しさのあまり家を飛び出し森へ来た。
「父上……母上……」
大きな木の下に座って悲しそうに泣いている。
「どうしたの?」
ふっと、男の子の声がした。
「誰?」
ロアは顔を上げてあたりを見回したが、誰も見えなかった。
「こっち」
その声は上から聞こえた。
ロアが見上げると、一つの光点が中空に浮かんでいる。
「どうして、そんなに悲しそうにしているの?」
その光点がロアの前に飛んできて聞いた。
「私の父上と母上は戦場で亡くなりましたの」
「そうなんだ」
その光点はロアの境遇にちょっと同情した。
「わかった。それはあなたの能力不足のせい。もし強い力があれば、ご両親を助けて誰も死なずにすんだはず」
その光点は筋道が通った話をした。
「確かに私には特に強い力はありません。下級魔法を発動してもよく失敗します……」
「だろう?」
「ええ……」
「あなたはもし僕と契約を結べば、強大な力を手にすることができるはず」
「強大な力を得られる……」
「そう」
その光点ははっきりと断言した。
だが、その光点はいったいなにものだ?契約を結べば、強大な力がもらえる?
「でも、あなたは誰ですか?」
「あー、僕は精霊ベイモッドだよ」
「精霊……ベイモッド?」
精霊という生き物は通常、人の前に現れない。精霊を引き付けるものがない限り、呼び出すことはできない。
つまりロアには何か精霊を引き付けるものがあるのだ。
―――それは指輪だ。フレニがロアに託した指輪。
その指輪には精霊を引き付ける媒体が含まれている。それも魔法道具だ。《契約の指輪》、これは指輪の名前。
「そう、お名前は?」と精霊が聞いてきた。
「ロアシースです、でもみんなは私をロアと呼びます」
「じゃロア、僕と契約しないか?僕はあなたに力をあげることができる」
「私は契約したい」
精霊と契約すれば精霊の力が得られる。それに魔力値を上げることもできる。
自分を強くすることができる。
「うん、契約しよう」
そして、精霊ベイモッドは強い光を放った。魔法陣が現れた。
「あなたに僕の力《天眼》を与える」
「《天眼》?」
「はい、それは周りの変化をすぐに察知することができる力です」
「それに体に力が湧いてきます」
そして精霊ベイモッドはロアの体に入った。
光芒が消えて、瞳は蜂蜜色になった。
それからというものロアは懸命に魔法の習得に研鑽した。
やがて王級魔法ができるようになり、魔法天才と呼ばれるようになった。
その後にグロルートス王国王家宮廷魔法使い護衛隊隊長になった、グロルートス王国最強の魔法使いだ。
「とても面白い!」
「読み続けたい!」
「更新を期待です!」
とか思いましたら
是非下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまるで構いませんか!
よろしくお願いいたします。
白皇 コスノ 拝啓




