亭主わんぱく
わんぱくは武士である。
だからいつも日本刀を手にしている。
一人でいる時は結構強い。
女房がいる時は相当弱い。
女房の名前はひょひはんである。
わんぱくが座禅を組み、瞑想に耽っていると、台所からひょひはんが呼んだ。
「あなたー。ちょっとお醤油買って来て」
「はいはーい」
真剣を人格にしたようなわんぱくの表情が途端にふにゃりと崩れる。
日本刀を持って、わんぱくが醤油を一本買いに道を歩いていると、向こうからこむがやって来た。
わんぱくはこむが大好きである。
こむもわんぱくが大好きだった。
「こむくん!」
「わんぱくぅっ!」
いきなりこむが道の上にぱたりと倒れた。
「脳しんとうだ!」
「脳しんとうだ!」
二人は声を揃えて遊んだ。
夕暮れが森を包みはじめた頃、二人はようやく遊ぶのをやめ、家路についた。
帰る家は同じである。
帰りながら、こむがわんぱくにねだる。
「わんぱくぅ。武士の一家言を教えてよ」
「武士道とは……死ぬことと見つけたり」
かっこよく言い放ったわんぱくにこむが聞く。
「それがどういう意味かわかっとーや?」
「さあ?」わんぱくは平和な笑顔で言った。「ぼくなんかにはわからないよ」
家に帰るとひょひはんが醤油を待っていた。
わんぱくはこむと遊ぶのに夢中になってすっかり忘れていた。
「お醤油は? 買って来てくれた?」
ひょひはんは鬼の形相で聞いた。
「こむちゃん」
「えっ?」
こむはあまりに心当たりがなかったので、ばかにするような声を返した。
ひょひはんの踵落としが降って来た。
「危ない! こむくん!」
こむをかばって飛び込んだわんぱくの体がスポンジのように攻撃を吸収し、バネのようにひょひはんの巨体を弾き飛ばした。
「しょうがないわねぇ」
遠くのほうで地響きを立てて着地したひょひはんが言った。
「男のひとって、いつまで経っても子供なんだから」
「アハハ」
わんぱくは笑ってごまかした。
「あいしてるよ、ひょひ」
「そんなのでごまかせると思って?」
ひよひはんはわんぱくの柔らかい胸にそっと飛び込んだ。
「……んもぉ」




