こむ
コラが尖った肩を揺らし、発光しながら森をパトロールしていると、道の真ん中にこむが立っていた。
こむは哺乳類である。
哺乳類は弱い。
コラがちょっと腕を振っただけでピンク色の肉塊になってそこに散らばってしまうだろう。
だからコラは注意した。
「コラコラ。こんなところに哺乳類が立っていたら危ないよ」
するとこむはぼうっと立ったまま、途方に暮れるように呟いた。
「どぼこしょ」
「ごめん。どぼこしょってどういう意味?」
コラは頭を下げた。
「よかったらその言葉の意味を教えてくれないかい?」
こむは悲しそうな顔をした。
悲しそうな顔をして、そこに立っていた。
コラは答えを待ったけど、時間が経つほどに後悔しはじめた。
ごめん。たぶん意味なんてないんだね? バカなこと聞いてごめん。君がバカな哺乳類だとわかってあげられなくてごめん。
僕は哺乳類じゃないから。僕は尖ってる発光体だから、君のこと理解できない。
同じ哺乳類なら理解できるんだろうけど。
するとこむがまた寂しそうに呟いた。
「どぼこしょどぼこしょどりょどりょどりょ」
コラはこむがかわいそうになった。
こむをほっておけない。なんだかほっておけない。さびしそうで、かわいそうだ。
そんな気持ちと警備の板挟みにコラが勝手に苦しんでいると、こむが言った。
「チーズサンドブッセって100回言ってみて?」
おっ。なんかゲームが始まった。
楽しそうじゃないか? 楽しそうだね?
コラは肘を尖らせて折ると、100本の指を全部広げた。
チーズサンドブッセと1回言う毎にひとつ、指を折っていく。
しかし、なかなか難しかった。結構この言葉が言いにくいのだ。
途中で何度か言い間違えた。
チーズサンドブッヘ
チーグサンドルブッ……
チーズさんとヘッセ
ミーを三度ぶって
清水さんとヘッセ
言い間違えるたびに指を立て戻し、ちゃんと言えるまで言い直した。
そうしながら、一体こむは何をさせようとしているのだろう? と推理する。
チーズサンドブッセに似た言葉って何かあるだろうか?
大体チーズサンドブッセって何だろう?
繰り返しているうちにゲシュタルト崩壊にも襲われた。
神経を全集中して、98回まで来た時、コラは初めて知る異様なまでの快感に包まれていた。
口は疲れてうまく動かないようになっていた。
舌はもつれて回らないようになっていた。いや舌って元々回らないだろうと思いながら、
99回目をヒーブハンホフッヘと言い間違えた時、何かが見えた気がした。ビーフハンバーガーをチーズサンドブッセと言わせようとしているのではないか? いやあまり言葉が似てない。
そして遂に100回目。
「チーズサンドブッセ!」
言えた。綺麗に言えた。さぁ、何が来る?
コラは心から楽しそうな顔でこむのほうを見た。
寝ていた。




