〈1章〉俺
生徒会室前−
「ここが、生徒会室…」
「そうよ。さぁ、行きましょう」
「…」
何だろうこの感じは。他の教室と違って、異様な圧力を感じる。
胡桃は躊躇なく、その扉を軽々と押した。
扉が開いた瞬間、目の前に広がった風景は、まるで校長室の様な気品のある教室だった。
また、壁には数多くの賞状や写真等が飾られてあり、ガラスのゲージにはトロフィーがいくつと置かれてあった。
生徒会に興味はないけれど、こればかりは興味をそそられてしまう。
「誰も、ここにはいませんが」
「…だって今日は珍しく生徒会はお休みだからね〜」
「それじゃあ、自分は何をしにここに?」
「あんたに、見せたい物がこの奥の扉にあるのよ」
奥の扉……そう言われ着いていくと、壁とほぼ同化したような扉が目に入った。
「さぁ、入って!入って…………」
「失礼します……胡桃?どうし−」
…!!これは一体…。
扉を開けた先に待っていたのは、薄暗い部屋の前方に大きなスクリーンがありそこから生徒会の映像が流れている。まるでミニシアターの様だった。
薄暗く、誰がいるのかは分からないが、パイプ椅子に座っている生徒が沢山確認できた。
「…誰だ?すまない、一度照明を付けてくれ」
「はい!!」
一人の男子生徒が自分達の存在にすぐさま気づき、一度薄暗かった部屋がだんだんと明るくなった。
「…胡桃坂か。お前の担当は今日じゃないだろうに、なぜここへ来た?」
困った表情で、こちらに助けを訴える。
「すみません…その−」
「…三嶽?」
「え?」
パイプ椅子に座っていた、一人の女子生徒が自分の名前を呼んだ。
「…藤宮?」
「…何だ…お前も希望者だったのか。もう既に始まっているが、胡桃坂の表情を見るに何か遅れてしまう問題でもあったのだろう。今日は大目に見てやる…」
「は、はい。ありがとうございます」
自分と藤宮との会話を聞き、自分がこの集まりに遅刻したと勘違いしたのだろうか。
それよりも、この男子生徒が言った希望者とは何の事だろうか?
「遅れてきたお前は、一番後ろに座れ」
「はい…」
言われるがままに自分は後ろの席に座った。
この男子生徒からもあの猫ちゃん呼ばわりする、あいつと似ている雰囲気を醸し出している。
「あの、胡桃?この集まりって何?」
隣に座る胡桃に小声で囁く。
「えーーーっと……」
怯えてる?いや、違う。何か隠そうとしてる?薄暗い中でも、そんな胡桃の表情が見えた。
十五分後。
「えー、以上が昨年度の生徒会活動だ。尺の関係でこれで全てと言う訳ではないが、大まかな活動内容は頭に入ったと思う。これで、今日の生徒会執行部説明会を終わる」
そう言うと、パイプ椅子に座っていた生徒は男子生徒にお礼を言い、この部屋を後にした。
「なぁ、藤宮…教えてくれ?この集まりは一体?」
呆れた表情で答えた。
「何の集まりかも知らずに来たの??意味分かんない…
「ごめん」
「はぁ…この集まりは生徒会に立候補したい人が集まった説明会よ」
「…そうか。ありがとう…」
藤宮も、男子生徒にお礼を言い部屋を後にした。
流石副生徒会長さんだ。俺を何とかしてこの場に向かわせる為校長先生を利用した巧妙な仕掛けをおこなっていたとは。
すると、前方で他の生徒たちと会話をしていた男子生徒がこちらへやってきていた。
「…先程は強く言ってしまって悪かった。それにしても、君が今年の首席…三嶽君だな」
きっと何か怒られるんじゃないかとどこか胸の奥で思っていたけれど、その声はとても優しく、緊張や不安をどこか遠い空へ吹っ飛ばすようなそんな声だった。
「こちらこそ、一年生だと言うのに遅刻してしまいすみませんでした…」
…ん?どうして俺が謝っているのだろうか。当の責任者は関わりたくないのか窓の外を眺めているが。
「まぁ、俺は今日、一年向けの生徒会説明会を行っていた。事前に担任を通してこちらに来ていた参加者は全員出席済みではあったが…三嶽君は提出し忘れたのかい?」
提出し忘れでも何でもない。今俺がここにいる理由は胡桃が無理やり連れてくるように仕掛けたからだ。だが、この聞き方まるで提出し忘れていたとしか答えれないような一言一言の重圧は自分一人では受け止めきれないほどであった。
「…それ、私が誘ったのよ」
答えに詰まっていると胡桃が捻り出したような口調でそう話した。
「胡桃坂が誘った?と言うことは三嶽君の意志ではなく…と言うことかい?」
「…」
男子生徒の目はどこか悲しげであった。どうして直ぐに答えてくれないのか。期待している答えが胡桃から直ぐに返ってこないからなのか。
「…ごめんなさい。自分が提出し忘れていたんです。それで悩んでいた時に胡桃坂先輩に声をかけてもらい、今日こうして出席する事が出来ました」
自分でもどうしてこんな嘘を言ってしまったのかは分からず驚いてる…が、一番驚いてたのは副生徒会長さんだった。だが、その眼差しはまるで息子が新たに成長したようなそんな母親のようなものであった。
「…そうか。胡桃坂と仲がいいんだな。…なぁ、胡桃坂は良く言えば、面倒見の良い奴だ。故に、自分よりも相手の事を気にかけてしまう奴でもある。だからさ、そんな時は三嶽君…君が助けてやってくれ」
小声で少し引き締まった言葉ではあるが…この男子生徒は胡桃の事をよく知っている。胡桃の彼氏だろうか。高身長で、引き締まっている様な身体、鋭い眼、外見に欠点などなさそうな人だ。彼氏であっても何ら問題ない。
「…自分よりもあなたの方が適任だと…思います」
自分よりも身近にいるこの人が胡桃に寄り添う事が許される存在だと思う。
「悪いが、俺には胡桃坂の面倒は見れる余裕がない。俺には何百人もの後輩がいるからさ〜。後輩の面倒で手一杯な訳」
軽い声で、僅かに笑いながら話した。
「そうですか…あの、あなたのお名前を聞いても?」
鋭い目付で自分を見る。
「俺は生徒会執行部、庶務長の鬼ヶ原仁。胡桃坂と同じ二年だ。それじゃあ〜俺はお先に失礼するよ」
どこか含みのある笑みを浮かべ、部屋を後にした。
鬼ヶ原…。恐怖を思わず感じてしまう名前に、とても似合う人だった。
「庶務って、一体どんな役割が?」
胡桃以外誰もこの部屋に誰もいなくなった。だがこの部屋には、自分達を監視しているような視線を感じる程の圧力があった。
「庶務ってのはこの学校の生徒本会議係と生徒係の監視役がメイン。合計100人以上居るから結構人に気を配らなきゃいけないから大変なのよ。この時期だと今日の様な説明会を開いたり、入ってきた一年生の相談窓口も担当したりしてるの」
あの時言っていた何百人の後輩とはその事だろう。
しかし、庶務と言うのは面倒な仕事が多い。面倒見が本当に良いのは鬼ヶ原さんだと、思った。
「自分にはきっと合わないな…」
ムスッとした顔でこちらを見た。
「その自分って言うのやめなよ。あんたには似合わない」
「……」
こうやって直接言われたのは初めてだった。
人が中々言えない事も、胡桃は自然と言ってしまう。
「…男なんだから、俺って言ったほうが似合うと思うよ?」
「…分かり…ました。自分って言うのは辞めます」
「ふふっ」
どこが、可笑しかったのか声を漏らして笑う胡桃は見惚れてしまいそうな程、綺麗だった。
「…ねぇさっき」
「はい?」
「さっきは…ありがとう」
続く。
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どうも猫屋の宿です!!
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更新は平日13時頃を予定しております。
授業再開が予定されてるから、6月からはペースがいっきに落ちるかも…?