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〈1章〉黒猫ちゃん





一時限目終了−


この後、二時限目は新入生に対する講演会だ。

そのせいか、講演会の時刻に合わせて休憩時間が通常十分の所を二十五分もある。

その事を分かっておいて、あの人は自分をここに呼んだのであろう。

「たいそう意地悪なものだ」

生徒指導室、という札があるこの扉。

当たり前だが、ここに来るのは初めてだ。緊張もしているがその片隅にワクワクもあった。

異常な精神状態ゆえのものだ。

扉の前に立ち、三回ノックする。

「どうぞ〜」

緩やかな声の持ち主が、そう答えた。

勿論緩やかなのは声だけであるが。

「失礼します。一年三組の−」

「…いいから。ここに座って頂戴?黒猫ちゃん?」

人を猫扱いする癖は何なのだろうか。

自分が飼い主で、その他の人たちは猫…自分なりの主従関係でも表しているのだろうか。

「ここに呼ばれた件についてお聞きしても」

「…立派な黒猫ちゃんですわね。けれど、それは黒猫ちゃん?君が一番知ってる事でしょ?」

自分が一番知っている?なんの事だ?何かこの人が自分の事を知っている事でもあるか?

「…いえ。分かりません」

「そうなの…だったら嘘つき黒猫ちゃんはこのゲージには必要ないかしらね」

ゲージ?どういう意味だ?必要ない?黒猫ちゃんが?

…そういう事か。ゲージは学校と言う意味であれば…。

この学校に自分が必要ないって事か……。

「面白い事をおっしゃる方だ。ですが、そんな風に言われたの二回目なんですよ」

あの時、胡桃が言った言葉だ。『この学校に無礼者は必要ない』ここまで、直接的には言わなかったが、きっとこう思っていたことだろう。

「…あなた嫌われているのね…」

「そうなのかもしれません。それよりも、こんな話をするた為によんだのではないでしょう」

早くこの場所から、出ていきたい。ここにいては、空気が悪くなるどころか、性格まで悪くなってしまいそうだ。

「…黒猫ちゃんの様な()()()()はこの学校には不必要な存在です。今回は厳重注意処分としてさせて頂きます。ですが、今回は大丈夫だったなんて甘い考えはしないで下さいね」

「ですから…それは誤解です!!自分はロリコンだなんて証拠なんて何一つない。そんなの冤罪じゃないですか!!やってもない罪を自分は目の前で見ていなかったから他人の証言のみで判断する…それがあなたのやり方ですか!?」

「…あなただからそうするのよ。それに理由なんてない。冤罪?だったら、疑いを持たれるような事をするあなたが悪いのよ?…根源はあなたにあるの!」

無茶苦茶な言い分だ。自分の主張の影を隠しその分、言いように全てを言い換える。

根源が自分にある…あながち間違いではない。だが、そんな事言われて、ああ、そうですかって納得する奴なんているはずがない。そもそもこれは冤罪だ。

「教師に相談したって無駄よ。自分の首を締めることになるのだから…」

「…どういう事ですかそれは」

「ふふ…自分で考えてみなさい?黒猫ちゃんは優秀なんでしょ?新入生代表挨拶の時は真面目だったじゃない」

ん?と言うことは、この人は入学式の際あの場所にいたのか?

だが、入学式に参加できる者は限られているはずだ。あの時、生徒の姿は無かった。入学式後に正門や駐車場付近で生徒がいるのは確認したが。

「誰からそれを聞いたんですか?」

「誰からって…私がこの目で見てあげたのよ。黒猫ちゃんなら知ってるんじゃなの?新入生代表挨拶をした者の習わしを」

「いえ。そのような事聞いた覚えもありません」

「はぁ…ほんと何も知らないのね。この学校の事を」

まだ、入学して半月も経っておらず左も右も分からないような状態だ。

「……。どうしたの?黙っちゃって。何か言いたい事があるなら私の目を見ていいなさい?」

「いえ、今は何も言いたい事なんてありませんよ。もういいですか、話が済んだのならば」

「そうね。せっかくだから最後に一つ忠告しておくわ。次はないから…」

と言って、その人は引き出しから小さなプリントを自分に差し出し生徒指導室を後にした。

どうやら、反省文を提出しろとの事だ。

一応これでも自分は、新入生代表挨拶をした者だ。そんな役割を担った自分がこんな事をしている事が漏洩されれば、高校の評判が悪くなるのではないか?

この件については行き過ぎた言動は認めるが、ロリコン疑惑のせいで厳重注意などおかしくないか?

この様な疑惑で処分を下される。あの人の頭がおかしいだけなのか、それともこの学校が…。

「…よし。これで大丈夫かな」

ちゃちゃっと反省文を書き、講演会が行われる体育館へ向かった。




五時限目−

朝のホームルームで言っていたように、係、委員会決めが始まった。

蹲先生はいつもより早く教室に来て、黒板に右から委員会、係の順に白チョークで書いている。

こういう感覚は久しぶりなものだ。言うならば、席替えと似ている。

「三嶽は、何にするかもう決めた?」

「…そーだな。保健委員会以外なら…藤宮は決めたの?」

しかし、席替え似たようで全く違うのが、こういう決め事は自主的にならなければいけない。

恥ずかしがり屋や、人と話すのが苦手な人は、最終的に人気のない係や委員会に半強制的にいれられてしまう。

あと、じゃんけん弱い人もね。

「…じつは私ね生徒会に入るかもしれないんだよね」

「…!?お前がか?…笑わせんなよなぁ!!よく考えてみろ。生徒会ってお前とは正反対な存在じゃないか?それに生徒会って他国の高校生と会ったり」

「私、英語とフランス語なら話せるし」

「色んな場所にボランティアスタッフとして活動したり」

「私、中学の時、学年代表としてボランティア活動してたし」

「…んーと、後は後は…お前……生徒会向いてるな」

え!?ほんとに藤宮って生徒会に向いている要素しかなくね?

しかし、生徒会執行部に入部する為には、選挙か何か必要だとかないとかホームページに、書いてあった気がする。

「どうやって、生徒会に入ろうと思ってるんだよ?」

「それは…まだ言えない」

これは、怪しいですねぇ…。これが『裏』の世界なのだろうか?

「でも、そうかぁー。藤宮が生徒会かぁー。意外だったけど、頑張れよ!」

「…うん。ありがと…それで三嶽はけっきょく何に入るんよ?」

ぶっちゃけ、そんなキツそうじゃない係とかでもいい…けど部活入ってないから少しきつめの委員会もあり。

「んー…委員会よりも何かの係になろうかな?」

もし、委員会に入り生徒会の人達と接点を持ったら、厄介事に巻き込まれる可能性もある。

五時限目の始業チャイムが鳴った。

「…それでは、五時限目を始めます。起立、気を付け、礼」

『お願いします』

こうして見ると、黒板に書かれた委員会は思いの外沢山あった。

学級委員会、生活、図書、美化、文化、風紀…など中学校の倍はあるんじゃないかと、思わせるほどのかずであった。

委員会名の下に二名の名前がかけるマスが書かれている。

係は、各教科の係や定期考査や長期休業明けの提出物を回収する係などがある。

だが、自分を除き他の人は『生徒係』『生徒本会議係』に、興味があるのだろう。

「えー、一応言っておくけれど生徒係と生徒本会議係については人数制限があるので、人数オーバーした場合は前の教壇で明日、何故この係をしたいのかの演説をお願いします」

教室内でざわめきが起こる。

「せんせー?人数制限って、何人までなんですか?」

後ろの席の男子が退屈そうな声で質問をした。

「各三人まで。ただし、上限が三人であって一人だけでも構わないけれどね」

例えば生徒係の一年生だけでも七クラス×三人となると21人にもなる。

それに二年、三年が入ると60人は超える。

…なるほど。たしかに、一年生が二年、三年と同じ条件で三人までと言うのは、二、三年からすると嫌がられるかもしれない。

けど、この係に入りたい人と言うのは胡桃の様な硬い意志を持っている人もいるだろう。

「係じゃなくてもいいのなら、委員会にある選挙管理委員会にいくのもありかと思います」


十分後−

「それじゃあ、今から委員会と係を決めるので出席番号順に前に自分のなりたい役職に名前を書いてください」

この仕方だと、先頭が有利不利と言われがちだが、心理戦にすぎない。

自分のしたかった係が先に取られたからと言って譲るって事は、所詮その程度って言う証拠。

自分は一度、委員長を決める際に他クラスの女子と一騎打ちになったが、中学の自分は何故か保健委員長になりたい欲が強く、自分で公約まで決めていた。

その女子との力の差は準備に費やした時間の差だと思う。

「でもなぁ〜…保健委員長めんどかったからなぁ〜」

だが!!今ではぬるま湯に浸るダメ人間になってしまっていた。

自分の番が来たので、なりたい役職に名前を書く。

「…よし、これで全員ね…うわぁ〜こりゃ、凄いことになってるね」

自分が選んだ役職は教科係の家庭科だ。

運良く、自分含めて二人しか名前が書かれていないので、無事安泰な役職をゲットした。

それに、家庭科はメイン教科と言われる国語や数学などの授業数より圧倒的に少ない。

凄いな。ここの生徒は。

生徒係に10人。生徒本会議係に7人。選挙管理委員会に5人。クラスの半数以上が生徒会に関する役職を希望していた。

その後、係が最終的に決まるのに半世紀かかったと言う…




放課後−

今日も一日お疲れー!!と、いつもなら叫びたい所だが今からが一日のある意味始まりかもしれない。

「藤宮?もう帰ると?」

「んーと、蹲先生から呼び出されてて、今から行かないといけないから…」

今日、朝のホームルーム後に呼ばれていた事だろうか。

蹲先生には少し気を付けたほうが良いと言うべきだろうか?

でも、言ったところで変に怪しまれるかもしれないので、黙っておく事にしよう。

「分かっ−」

あれ?藤宮?何処に行ったのだろうか?藤宮の姿が一瞬にして教室から消えていた。

そんなに、急がなければならない呼び出しとは…。

「あーあー、行きたくないなぁ〜。校長先生が呼んでるなら普通校長室に行くべきでしょ?なのに、なぜ!!なぜ!!!生徒会室に呼び出されるんだろ」

やっぱり、そーだよねー。これは完全に。

『ワナ』『罠』『わな』それしか、有り得ないんだよな。ハハッ…。

今日こういう気持ちになるの二回目な気がするけど、仕方ない行きますか…………下駄箱に!!!

君達に言うが、これは逃亡ではない。自己防衛である。

過剰ではないか?何を言っている。これは歴とした罠だ。

今日の講演会で校長は出張中と言っていたのが証拠だ。それに、高校の長である校長がこんな紙切れに書いて渡すだろうか?直接本人に伝えるだろう。そう。これらを踏まえ今から行うのは自己防衛である。

「…静かな廊下だな」

自分の足音と窓の外から僅かに部活生徒の声、笛の音、ボールが野球バットに当たる音しか聞こえなかった。

「今から、家に帰って何しようかな〜」

下駄箱に着き、自分の靴が入ってあるロッカーに視線をやった。

「…!!靴が…ない?」

もしかして、隠された!?

一体誰が?何の為に?

あの銀髪が?盗んだのか?

「誰だよ…こんな事する奴は…」

「…どうしたのかな?そんなに焦っちゃって…三嶽君?」

その声を聞いた瞬間、直ぐに信じる事が出来なかった。

「…く、胡桃!?お前が隠したのか…俺の靴を!!…お前はやってる事どんだけ−」

「そんな訳ないでしょ!!あんたが、帰ろうとしてたの見つけたから後付けて来ただけよ…」

「後付けて来たってそれやることスト−」

「違うわよ!あんたが中々来ないからもしかしたら、帰ろうとしてるんじゃないかって思って…」

靴を隠したのが胡桃じゃなくて、とても安心した。

一瞬でも胡桃を疑った自分が情けないと痛感した。

だが、自分はみごとに騙されていた。あんな校長先生を餌に自分を誘おうとせず、正直に言ってくれれば変に逃げようともしないのに。

「…なぁ、何で胡桃はそこまでして自分を生徒会室に連れていこうとするんだ?」

「前も言ったでしょ。あんたがあんな発言したからに決まってるでしょ」

「ほんとに、それだけが理由か?」

「も、もちろんそうよ」

強気で反論する胡桃の姿はいつも通りの様に見えてどこか、違うように聞こえた。

あと一歩の所で胡桃に見つかり、帰ることは出来なかった。

だが、今は自分の靴がどこにあるのか、それが気になって仕方がなかった。








続く。

どうも猫屋の宿です!

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

誤字脱字等ありましたらご報告お願いします!!


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