〈1章〉ターゲット
「…どういう事だ?」
胡桃から落ちたプリントの一番下に、なぜ校長先生からの手紙があるのだろか。それに、胡桃が持っていたという事は、この手紙は自分ではなく胡桃宛の手紙ではないのか?
けれど、この手紙も渡そうとした際に胡桃は頭を横に振った。自分を無視するかの様に、登校する生徒達に挨拶を再び始めた。
「…仕組まれた罠だな…」
全て胡桃の計算通りに仕組まれた罠に違いない。
上手く引っかかったものだ。
それじゃあ、この手紙を無視して今日は真っ直ぐ家に帰るなんて事は出来ない。
相手が同級生ならまだしも、校長先生だ。それに、入学式後に呼び出された時には『英語担当の教師を付ける』と言っていた。
その件の可能性もある。…けどなぁ、そんな早く英語担当の教師が決まったとでも言うのだろうか?
「おはよう、三嶽」
「おお、おはよう」
危ない危ない。これでは自分が動揺しきってるではないか。
「何かあったの?」
「いや、何にもないよ。それよりも、今日は藤宮学校に来るの早いぁって思って」
藤宮は直ぐに人の心を読もうとする。もし、その際に心を読まれた時には自分が満足するまでそれだけに集中してしまう傾向にある。
つまり、ロックオンされれば終わりという訳だ。
「そう?いつもと変わらない時間だ思うけど?」
「…何か企んでるんでしょ??私には分かるんだから!」
「何も企んではいない。考え事をしていただけなんだ」
と言っても、藤宮がそんな簡単に引くとは思わない。あと数分でHRの時間だ。それまで粘ればどうにか誤魔化しきれるだろう。
「…そんなのかなぁ〜?そうだ!三嶽を脅迫すれば口を開けてくれるかな?」
「それ、聞く相手間違ってるだろ。それに、脅迫は犯罪だから」
何て恐ろしい事を言う女の子だろう。ハニートラップに向いているな藤宮は。
「確かにそうかぁー。それじゃ、誰に聞けばいい?」
「だから、聞く相手−」
少し待てよ。藤宮は人の言葉を鵜呑みにする様な性格じゃないが、自分に対しては割と信じてくれる割合が多い。
ここは、一ついたずらでもかましてやろうか。
「そうだな…蹲先生なんていいんじゃないか?こういう時は大人に一度聞いてみるのもいいと思うよ」
「…たしかに!!あり!!!」
(いや、なしだろ!!!)
思わずツッコんでしまった…良かったぁ…声に出さなくて。
案外、藤宮は人の言う事を信じてしまうタイプなのだろうか?疑う目を一つも見せる事なく、了承したからな。
周りを見ると、クラス内の生徒のほぼ全員が席についていた。
ホームルームの予鈴のチャイムがなり終わり、少しして蹲先生が教室に入ってきた。
「おはようござます。今から朝のホームルームを始めます。えー、職員会議の方でお知らせが四件ありましてー、一つ目は…」
十分前後で終わるホームルームが始まる。大体、知らせや時間割変更やプリントの提出期限の締め切りの事を話している。
「最後なんですけど、今日の五、六限目を使って係、委員会決めをしようかなって思ってます。まぁ、毎年一年生は中々決まらない事が多いので、今から配るプリントに事前に目を通してどういう係や委員会があるのか見ていて下さい」
ホームルームはこれで終了した。
この後は一限目が二十分後に始まる。
中学の頃は朝の会が終わると五分ほどで一時間目が始まっていたので、余裕があるように見えるが後々この時間を使って予習が出来ていない人や小テストの勉強の時間に当てるそうだ。
さらに、この高校では珍しく朝課外の導入も検討中で今年度の二学期から一度希望制で試行するそうだ。
朝課外のメリットとして、早寝早起きの生活リズムを保つ為など言っている人もいるが、そんな理由で朝課外を推進しないでほしい。
朝課外を口実にしなくても自分に意志さえあれば早寝早起きなど造作もない事だ。
「…えーと、藤宮さん。少しいいですか?」
「は…はい!」
どうしたんだろうか?蹲先生はホームルームが終われば直ぐ他クラスの授業がある為、教室を出ていくのだが。
遠くから蹲先生と藤宮が話している様子を見る限り、叱られている様には見えない。
まぁ、悪い事をしたのではないなら自分も口出しする必要はないだろう。
しかし、蹲先生の話を終え席に戻ってくる藤宮の表情はどこか困っている様に見えた。
「…珍しいな。先生に呼ばれるなんて」
「そうだねー…」
これは何か裏があるな。こんな棒読みな藤宮は珍しい。
嫌な事があったと言うよりかは、隠したがっている?そんな雰囲気を出している。
「何言われたんだ?」
「別に…後で話があるって言われただけ」
「そうなのか…変な事してないんだろ?」
「もちろん!!私がそんな悪い事する様な人に見えた事が一度でもある?」
「そりゃ、ないけどさ。藤宮のそんな困った様な顔見たくないんだ…」
急に笑顔になる藤宮。まさか、演技じゃないよな…。だとすればあなたは、演劇部に行ってきなさい。
「そんな風に思っててくれたんだ〜へぇ〜〜」
「そーやって、すぐ調子のろうとする。おこちゃまだなぁー全く」
「何よそのウザキャラ!三嶽は頭は悪くないんだから…」
頭は…?それ以外は悪いと言いたげだな。けれど、文句を言ってるように見せかけて褒めてくれている、このツンデレキャラにウザキャラと言われたくないな。
「ツンデレだな。藤宮は…うん…ツンデレだ」
「…!?はぁ?何言って…このロリコン!!」
「お前のほうが何言ってんだよ!!おいおいおいおい!!根も葉もない様な事言ってよ。一度たりとも俺がロリコンだなんて言ったか?」
あ−しまった。また、俺って言ってしまった。
感情的になると俺って言いがちだな。
「言ってないけど、視線で分かるのよ。そのくらい!」
クラス内どころか、隣のクラスの生徒まで自分達の様子に注目している。
藤宮は声量が大きすぎる。上の階や下の階にも聞こえていてもおかしくない。
「だから、そんなんで決めつけるのはおか−」
『朝から騒がしいですわね。二匹の子猫ちゃん?』
その一声でクラス中の雑音が消えた。まるでこの空間に、何もかもいなくなったような。
とても長く艶やかで薄く染まった銀髪。
明らかに自分等とは異なるオーラを自然に出している、この人は何者なのか。
「「申し訳ありませんでした」」
「いいのよ…聞き分けが良くて助かるわ…」
そう言うと、帰ると思っていたが、一歩一歩自分の方へ近づいている。
身長は藤宮よりも多少大きく、制服のスカートは校則の規定は確か……膝丈?だったような気がするがそれよりも長い様な気もした。
「ねぇ黒猫ちゃん?」
「は、はい!何でしょうか」
「…次の時間の休憩時間。生徒指導室まで来なさい。拒否権はないわよ……どうしても拒むと言うなら…私のエサにしてやっても…いいけどね」
耳元で囁かれるとはこのように感じるのか。身体中が違和感を覚えるような感覚だった。
「…分かりました」
「それじゃあ…お邪魔いたしましたわ〜」
異様なオーラを放っていた魔物が居なくなった瞬間、張り詰めていた空気がだんだんといつもの様に戻っていった。
「…ごめんね。ロリコンなんて言って」
「いや、自分も悪かった。ウザキャラなんて言って…」
お互いに謝罪をした所で、とても精神的に疲れていた。
まだ、一時限目も始まっていないと言うのに。
「何か、さっきの人に言われたりしたの?」
「…まぁ、気を付けろよって注意されたぐらいかな」
「悪いのは三嶽よりも、私の方なのに」
「あの人も女である藤宮より男の自分に言いたかったんだろうよ。きっと…」
あーーー。次は生徒指導室!?え?今度こそ退学宣告されるんじゃないの?もう、いよいよだろ。ここまで来てしまったらよ!
「やっぱり…何かあるんじゃ?」
「いや、ほんとに何もないから安心して!!」
とは言ったものの、どうしよかな?
どうせ自分に明日はないんだ☆
だったら、これぞ逆の発想。ひっちゃかめっちゃか学校生活を送ることも出来る。
…いやぁ、待て。前回のように退学と思いきや、校長はあの時自分の強みを気づかせてくれた。
…。
…。
…、あんな怖い人から何を気づかせてくれるの??
うん。何もないわ、これ!
何か得るどころか、何か失われそうな気しかしない!!
しかも、校長と違って相手は女性。さらに、同級生ではなく二年生か三年生だろう。
自分は女性の行動パターンと言うものは中々考えていた導き出せる答えではない。
つまり『詰み』!!
と言うわけだ。
…しかし、今の自分の精神状態はとても興奮に近いものを感じていた。
今ならどんな相手だろうが、立ち向かえるのではないかと。
「……」
続く。
どうも猫屋の宿です!!
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!!
誤字脱字等ありましたらご報告お願いします!!
個人的な話となりますが、休校期間中に、課題!!さらに追加課題!!と、更に更に本日自宅に追加課題がやって来ました…更にオンライン授業も始まり5月中は更新速度はこのペースでいきたいなぁと頑張っております汗