〈1章〉呼び出し
目の前にいるこの女子生徒がこの学校の副生徒会長!?
いや、待て。副生徒会長がわざわざ朝の挨拶運動、ビラ配り等をするものか?たしか、あの時生徒会長は居なかった。
それに、あの仕事は係が担当する仕事のはずだ。
「…私が不適当な事を言ってると言いたそうな顔ね」
「ああ、そうだよ。そうやって脅そうとしてるんだろ?」
深いため息をつき、自分に対して面倒な奴だと思っているのだろう。
「普通、副生徒会長が係がする仕事をわざわざするか?いや、しない。そうだろ?生徒会執行部は沢山の仕事があり、そんなビラ配りをする様な時間がないから係にさせているんじゃないのか?」
「たしかに、あんたの言う通りよ。生徒会は学校行事や、周辺地域の環境づくりだけではなく、海外の学校との交流や国内での自然災害時にボランティアスタッフとして現地に派遣等、沢山の仕事がある為その中で交流やボランティアスタッフの方が生徒会としては優先的になる。けれど…」
突然、黙ってしまった胡桃坂は、自分に対して何か言えない事でもあるかの様に見えた。
ノリでやってるとか、何となくやってるとか、そんな軽い気持ちではなく、きっと自分が思っている以上に生徒会に対して一途なのであろう。
「そうか…まぁこれからも頑張ってくれ」
「…待ちなさい?三嶽司君」
「何で自分の名前を?」
内心とても驚いた。相手に自分の名前を教えていないにもかかわらず、相手が自分の名前を知っている時のこの感じ。とても怖い。
「昨日倒れた時………なぁ、何でもないわ!!」
「昨日…倒れた時…?先程、貴方は自分を助けてないと言ったはずですが、本当は助けてくれてたんじゃないですかね?」
少し、意地悪しすぎただろうか。だが、本人は助けてないと言ったのだから、疑問に思うのはおかしくないはずだ。どうして隠す必要があるのだろうか。
「…その貴方って呼び方やめてちょうだい。私は胡桃坂よ」
上手く、話を変えようとしてきたが、また自分が先程の会話に戻そうとすれば二回目ともなれば苛立ってもおかしくない。
「すみません。では、くるみと呼ぼうかな」
「…!!く、くるみ!?そ、そそ、そそそん私に似合わない呼び方やめてよ!」
動揺しきってる、胡桃坂は案外可愛かった。
「そうやって、自分で勝手に似合わないとか決めつけない方がいいですよ?副生徒会長さん?」
「それは一理ありますね。だったら、せめて漢字にしてよ?『くるみ』じゃなくて『胡桃』ね!!」
いや、口に出したら平仮名だろうが漢字だろうが変わんなくね?
「まぁ、どちらでも構いませんが…だったら、自分の事も『あんた』じゃなくて名前で呼んでくださいよ」
「ふふ…そぉね。あんたが、生徒会に興味を持ってくれれば好きな呼び方で呼んであげる」
そこまでして、自分に生徒会に対して興味を持って欲しいのか…だが、そんな罠でこの自分を釣れると思っているのか……いや待てよ。これはこれでありではないか?
生徒会に興味を持つだけで、好きな呼び方で呼んでもらえる…ならこのまま…興味を持っても…
「いいわけねぇだろ。そんなので、生徒会に興味を持つと思ったのかよ?」
「もちろん、あんたがこんな拙劣な罠で引っかかるなんて思ってないわよ」
「「……ふっ」」
自分達はどこか似てそうで、実は全く似ていない。その結果、今日の会話はほとんど言い争いばかりしている。
「…それじゃあ、自分はこの辺で帰ろうかな」
「…?いや、あんた何か要件があってここに来てたんじゃないの?」
−あ、そうだった。蹲先生に呼び出されて来てたんだった。
けれど、待ち始めて二十分以上経っている。それでは流石に、自分が帰ったとしても文句は言えないだろう。
「んー、そうやけど、中々来そうにないから帰ろうかな」
きっと、元から蹲先生は保健室に来る気なんて無かったのではないだろうか?
「だったら、私も帰ろうかな?」
「胡桃こそ、ここに来た理由があったんじゃなのか?」
「…あんたと同じで中々来ないから、もう帰る」
自分はともかく、副生徒会長である胡桃が、そんな簡単に帰ってしまってもいいのだろうか?
それか、生徒会の仕事が溜まってるのもあって、帰ろうとしているのだろうか。
「…そうか。それじゃ、またどこかで」
「…そうね………」
保健室を出て、互いに反対方向に歩き始める。
僅かにずれた足音がだんだんと小さくなり、気付かないうちに、足音は見事に合っていた。
そのまま、職員室の方へ向かった。
会わなければならない人がそこにいるはずだから。
職員室の入室の仕方も保健室とさほど変わらない。
一呼吸して、扉の前に立つ。ノックを三回して、扉に手をかけ−
「…三嶽君?」
声の方向に直ぐに自分は歩み寄った。
「蹲先生ですか。丁度、今職員室に居るか確認しようとしていた所でした」
「ごめんなさい。急用で保健室の方には行けなくなってしまったの」
…。急用?そんなありきたりな言い訳など通用しない事を分かっているはずなのに。
「そうでしたか…」
「…けれど、元気になってくれて良かったわ」
「…え?」
理解し難い言葉を自分に言うと、蹲先生は職員室へ入ってしまった。
蹲先生は、自分のどこを見て元気になったと判断したのだろうか…?
もしかして、外見ではなく内面を見て言ったのか?
たしか、胡桃も中々来ないと言っていた。自分も中々来なかった。この時点でお互いに共通し合っているのは『中々来ない』と言う部分だ。
問題はその主語が何かだ。自分の場合は蹲先生である、胡桃の場合は誰であったのかだ。
可能性としてはお互い、蹲先生を待っていた可能性もある。まず、胡桃の発言からして集合時間は昼休み、それに、集合場所も同じく保健室。こんな奇妙な偶然があるだろうか?偶然なんかじゃなく、意図的に…なんて事もあるのではないだろうか?
「いや…蹲先生に限ってそんな事はきっと…ないだろう」
数日後−
「…おはようございます!!」
今日もいつもの時間に家を出発し、高校の正門へと着いた。どうやら、毎年この時期は挨拶運動をしているらしく、表向きは新入生が朝から元気よく学校生活を送るために、一日でも高校に馴れる為に行っていると言われているが実際はよく分からない。
そんな時、今日の挨拶運動の中に胡桃の姿が見えた。
今なら、前の様に無視せずに挨拶を返す事が出来る。
「おはようございます!!!」
「…おはようございます」
相手の表情を一瞬確認し、自分は胡桃の横を通り過ぎようとしていた。
その時、自分の足元に何枚かのプリントが落ちてきた。落ちてきた方向を考えるとこいつしかいない。
「プリント…落ちましたよ」
数枚プリントを拾っていったが、すべて白紙であった事に違和感を覚え恐る恐る最後のプリントを拾った。
「……!!」
『本日放課後、生徒会室に来なさい。by校長先生』
続く
どうも猫屋の宿です。
最後まで読んでいただきありがとうございました!