序章④
翌日
昨日からずっと茶封筒の件について頭がモヤモヤとしている。
あの、女子生徒に自分はお礼を言うべきなのか今になって迷っている。確かに保健室に茶封筒があったのは事実だ。
だが、茶封筒があったからと言ってあの女子生徒が自分を助けてくれたとは言い切れないじゃないか。
「どうすれば…」
そんな葛藤が続く中、いつの間にか学校の正門へ辿り着こうとしていた。正門を入り右手側に駐輪場があり、その付近で朝の挨拶運動が行われており、体育系の教師や地域の方、そして生徒が複数人いた。
恐る恐る周りを見てみると、生徒達の中に昨日言い合った女子生徒が今日は笑顔で挨拶を登校する生徒達にしているのが見えた。
(通るのが凄く気まずい…)
いかん、いかん。弱気になっては…と言い聞かせようとしながらも中々こんな場所で話しかけようとすれば、何を言われるか分からない。
ここは、無視をして通り過ぎるのが妥当だろう。
「おはようございます!」
色んな人から挨拶をされるが軽くお辞儀をするだけで速歩きで通り過ぎていた。
何とか何も起こらずに突破出来そうだな。
…と、安堵していた矢先に…
「おはようございます!!」
「……」
「…。無視するんだ…やっぱりあんたなんか…なければ…よかった…!!」
背筋が凍りながらも自分は何とか正門を突破出来た。たが、あの女子生徒が何かボソボソと言っていた様な気がした。
下駄箱に着き靴を脱ぎ、上靴を取り出し目線を上げると蹲先生が立っていた。
「あ…おはようございます…」
「…おはよう。んー、この調子だとまだ元気じゃなさそうね」
「いえ、自分は体調は良くなりました。なので学校にだって来れてますから」
真に受けられない表情な蹲先生は、おかしな事を言った。
「昼休みになれば保健室に来なさい。いい?」
「ですが−」
「いいから来なさい」
「…はい、分かりました」
蹲先生はスタスタとどこかへ行ってしまった。
なぜ自分が保健室に行かなければならない?自分では体調は良くなったと思っている。なのに、どうして…。
腑に落ちないまま自分は教室へと向かった。
教室に入るとまだ半分ほどの生徒しか居なかった。
まだ、名前どころか顔もよく知らない生徒ばかりで、話す気にさえならなかった。
席に座り通学バッグを開けると複数の教科書が入った一つの隙間に茶封筒が顔を出していた。
自分はこの小さな茶封筒一つで頭を悩ましている。たかが茶封筒じゃないか。なのに、こんなに頭から離れないのはなぜ?
自分はどうしたいと思っている?この中に入っているのは生徒会勧誘の手紙なんだ。そんな興味のない紙切れを捨てきれないのはなぜ?
「三嶽?どうかしたの?」
顔を上げると、藤宮が困った顔をしてこちらを見ている。
「いや、今日の自己紹介の事を考えていただけだ」
「私もさ!今日の自己紹介何って言えばいいんだろなぁーってずっと考えてたからさ!凄く不安なんだよね」
不安の要素がない表情をしながらそんな事を言われても同情できない。
それにそんな事で不安になったりするような奴じゃない事は知っている。
「ところでさ…三嶽、昨日倒れたんだって?」
「何でその事を?」
少し驚いた。昨日の事は殆どの人は知らないはずだ。藤宮はたしかその時玄関口付近に居た様な気もするが、それならば知っている可能性もゼロではない。
「だって、玄関口に蹲先生と話をしてたら血相を変えて走ってきた先輩が男子生徒が倒れたって言ってたから。遠くから見たら三嶽っぽかったから」
「あのさ…その先輩って女子?」
「うんうん。何か左手にビラみたいなの持ってた気がするけど」
「……。ありがとう教えてくれて…」
もしかしてその先輩ってのは…いやいや、やっぱりありえないよなぁ……
昼休み−。
新一年生への説明や各教科の授業の進行説明、教科書等に名前を記載を行い昼休みになった。
蹲先生に朝、昼休み保健室に来いと言われているので昼食を摂らずに直ぐに保健室へとやって来た。
昨日はここへ運ばれた記憶はない為、初めて来る場所のように感じている。
「失礼します」
学年、名前を言おうとして扉を開けたが、保健室には誰も居なかった。
無言で保健室に入ると左側にベットが三つ並べてあるが、どれも空いていた。
真正面の小窓が僅かに開いて、そこから感じる風以外、他の気配は感じなかった。
「なんで、誰もいないんだよ…」
蹲先生が言ったのはジョークだったのか、それとも自分を騙す為に言った事なのか?
呼び出した側を待つ事になるとは思っていなかった。だが、偶然昼休みに別件の用事が入った可能性もある。
十分程待って、それでも来ないのであれば教室に戻るとしよう。
「…。」
「…。」
「…、暇だ」
案外十分と言うのは長いものだ。けれど、もし十分も待てずに蹲先生がその後保健室に来た時、きっと思うはずだ。
「ほんの十分も待てない気の小さな男子だねぇ〜」と。
そして、それが蹲先生の妹にも伝わり…。
この後の想像はしない事にした。
待ち始めて数分立った頃だ、廊下から保健室の扉に向かって歩く音が聞こえた。保健室通りの廊下は保健室に用がない限り通る事はない。
やっと、蹲先生が来たのだと思うと待っていて良かったと報われた気分になった。
足音が保健室の扉の前で止まる。
今から自分は蹲先生と何を話し合うのだろうか、そんな事を思いながら扉に顔を向けた。
「失礼します………ぁ何であんたがここに…」
扉から現れたのはあの女子生徒だった。
「自分がここに居ては駄目なんでしょうか?ここは学校内であって貴方専用の場所ではないはずです。であるならば、貴方に−」
「そんな上から目線で、何?自分で正論言ってるつもりなの?」
少なくとも自分は正論を言っているつもりだ…いや、また現実から逃げているだけなのかもしれない。今目の前にいる女子生徒のおかげで助かったのかもしれないのに、こんな口の利き方をしてしまい情けない。
自分はこの人に感謝しなければならない…かもしれない。それわ分かってる…なのに目の前にすると素直になれなくなってしまう。
こんな言い争いをしたい訳ではない…ただ……。
「…」
「何黙ってんのよ?あんたって自分にとって都合が悪くなれば逃げる。今日の挨拶だってそう。あんたって−」
「…昨日は助けてくださりありがとうございました!」
自分の頭の中がモヤモヤしていたのは感謝の言葉を言うのに躊躇っていたからだ。
「…!!はぁ…?人違いじゃないの?私は別にあんたを助けてなんか−」
「いいえ、違います。貴方が助けたんです。こんな自分を」
自分が生徒会に対して否定的に言っていたとき、目の前のこの人にとっては高嶺の花と評価している生徒会を侮辱している様にしか聞こえなかっただろう。普通、そんな人を助けるだろうか?
「まぁ…いいわ。そんな事よりも昨日、生徒会に興味がないって言ってたけれどそれについて撤回しなさい。やはり、許せない。この学校に入学しておきながら生徒会に興味がないなんて」
「昨日の生徒会に対して、失礼な発言は撤回します。ですが、生徒会に対して興味がないと言うのは事実であり、撤回する事はありえません」
生徒会に興味がない。その事が許されないのはこの学校だからだ。他校に行けば生徒会なんて馬鹿らしいと思っている生徒もいるはずだ。
それに、生徒会と言っても所詮、子供の集まりみたいなものだ。そんな集まりに教師が真剣に耳を傾けるだろうか?
そこがこの学校と他校の生徒会の在り方の違いであろう。
大きな権限を持っている生徒会であるからこの発言は許されない。
「…!!そう…ですか」
「はい、そうです」
昨日ならば、反抗していたにも関わらず、今日はその気が全く無いように−。
「………決めました。私が貴方を生徒会執行部に興味が持てるようにしてあげるわ!!」
突拍子もない発言に首を傾げた。
「いいですよ…と言っても貴方は生徒会執行部の方ではないのに、どうやって自分を生徒会に興味を持たせるんでしょうね?」
ビラ配りは生徒会を支える機関である、生徒係と生徒本会議係がする仕事の一つである。
言ってしまえば生徒会執行部の奴隷のようなものだ。
そんな奴に自分をどうやって興味を持たせれるのだろうか?
「…そうですね、良い機会ですからここで私の自己紹介でもしておきましょうか」
目の前の女子生徒は目を輝かせながら続けた。
「…貫武大仙高校、第69期生徒会…副生徒会長。胡桃坂凪!」
軽く微笑み、女子生徒は自分を睨みつけた。
「生徒会の魅力を叩き込んでやるわ」
続く。
どうも猫屋の宿です!!
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
誤字脱字等ありましたらご報告お願いします!!
次話からはついに第一章突入です!