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序章①

お久しぶりです。猫屋の宿です。

投稿から長い間時間が経ってしまい申し訳ありません!

本日より少し修正を加え物語を再開させていただきます!





三月中旬の早朝。

リビングに置かれてあるこたつに足を入れながらニュースを見ていた。すると、台所で朝ご飯の支度をしている母が目に入ったので、横目で一度見るとまだ目が覚めていないのか目が半開きになっていた。

視線を元に戻してニュースに目を向けると今日の午後からは雪が降ると、気象予報士が言っている。そして、ニュース司会者の男性が一言こう言った。

「今日は公立高校の合格発表日ですからね」

その言葉にコメンテーターの男性が張りのある声で言った。

「受験生にとっては最後の仕事の様なもんですから、何かあってはいけませんからね。必ず雨具を持って行くように」

その後もテレビから話し声が聞こえているが頭に入ってこなかった。

なぜか…最後の仕事−その言葉がしばらく頭から離れようとしなかったからだ。きっと、受験生という肩書きが今日をもってなくなるからだろう。他者からの期待や自分へのプレッシャーに耐えながらやってきたのだ。

すると、こたつテーブルに置いていたスマホが一度、もう一度、揺れた。

スマホを手に取り通知を見ると「※白鳥」と表示されている人物からメッセージが送られていた。あくまでニックネームであって本名は※白鳥ではない。彼の本名は白夜(はくや)(しゅん)である。初めて俊の、ニックネームを目にした時は思わずツッコミそうになった。

ただ俊は、文字通りすぐれている奴だ。勉学において右に出る者はいない、と言っても過言ではない。しかし−

(合格した?俺は合格したぞー!)

メッセージを開いたスマホに目を落として再度認識する。

彼はアホである、と。

直ぐにメッセージを俊に送信した。

(まだ合格発表は行われていないんじゃなかったか?笑)

直ぐに既読がついた。

(バカ野郎。本気にすんなよ!合格発表は午前10時からなんだからよ!)

つい、口元が緩んだ。心の中でバカ野郎はどっちなんだと想った。

母が朝ご飯をこたつテーブルに置きだしたので、 スマホの画面を暗くしテーブルの上に置いた。

「自分の受験番号覚えてる?曖昧に覚えて他の人の番号と間違ったりしないでよ?」

「それだけは絶対に嫌だから、千回繰り返して覚えた。だから、心配無用」

「それだと違う意味で心配になるのだけど…でもまぁ、私から言える事は結果がどうあろうと、きちんと受けとめなさいよ」

結果というのはとても恐ろしい言葉だ。いくら死ぬ気で努力しても、その努力は己の身が知っている事であり他人は分かった気にしかなれない。だから、第三者がみても納得できる結果で全てを判断する。なので、当然弁解をする余地は微塵もない。

自分はそれを幾度も体験している。きっと自分の思う結果でなければそれ相応の悔しさを感じるだろう。

「今日の朝ご飯は、味噌汁に白米、愛情込めた玉子焼き、そして緑茶!」

いつもの朝ご飯と変わらないメニューと思いながら抹茶色の湯呑みを手に持ち茶を啜った。

「…!?いつもの緑茶より味が濃い?」

普段よりも茶葉の香りや味が深くなっているのに気づいた。茶葉を変えたのだろうか?それとも作り方を変えたのか?

母の表情を見るとにこりと頬んでいた。

「お茶の葉を蒸す時に火加減を強くして下さいって頼んだの」

茶葉は、近所にお茶農家の方が居るので、そこから買っている。お茶農家の方は気さくな性格をしており、周囲からも人気者である。

「火加減を強くすると味が濃くなるんだ…」

確かに茶の色が濃く、湯呑みの底が見えていない。てっきり、茶の葉の数を増やしたんだと思っていた。

「今度、お茶農家の方に礼を言わなきゃいけないな」

お茶を呑むと、体が暖かくなり、平常心を保つ事ができる。それは、本当である。懸念を生じてもお茶のパワーで、吹き飛ばせるようにさえ感じる。

朝ご飯を食べ終わると、歯を磨き、中学の制服に着換え、高校へ行く支度を済ませた。

時計を見て、時間には余裕があったが、早く着いて損はないのでそのまま高校へ行く事にした。

「それじゃ、行ってきます」

玄関にやって来た母を確認し、一言ずつ丁寧に言った。

「行ってらっしゃい」

玄関の扉を開けると、外の冷たい風が家に入り込んできた。寒気を感じるのと同時に緊張感を持った。

右手で手を振りながら、自分は静かに扉を閉めた。




家から高校までの距離は徒歩では到底無理だが、自転車やバス、電車を使用すれば造作もないことだ。

だが、今日に限っては原則公共機関を使用する事と、高校側から言われているのでバスで高校に向かう。

バスと電車、どちらを使用しても往復数百円はかかる。決して安いとは思えない。

バス停まで行く間に制服を着た生徒を見かけた。親が同行していたのできっと、自分たちと同じ立場であるのだと判断した。

家から数分歩きバス停付近に着くと数人程度バスを待っている生徒がいた。制服を着ていたので全員中学生だろうか?いや、今はそんな事を疑問に思うよりも自分の事を考えるべきだ。

寒い中数分待ち、バスの到着予定時間になった…が、バスは来ない。もう少し待っていると、三分遅れて目を光らせた大きな車がバス停の前で停車した。案の定バスの乗員は既に多く居た。ぎりぎり全員が乗車出来たが、車内は身動きもとれない状態だった。

バスが停車したり出発したりする度に足元を踏ん張るのに大変であった。こんなにも混んだバスに乗ったのはおそらく初めてだと思う。

すると、バス運転手による注意アナウンスが流れた。

幾つバス停を通り過ぎたか分からないぐらい、時間の経過が長く感じた。

てっきり早く家を出たので、バスは混まないと思っていたのだが、まさか満員とは考えの視野にも入らなかった。

思考ミスをしてしまった自分が悪い。これを踏まえ次からは電車の方が良いのかもしれない。

ようやく、目的地である高校前のバス停に到着した。

一斉にバスに乗っていた生徒がぞろぞろと降車した。

自分以外降車し終わってみると、こんなにもバスの中は広かったのかと錯覚に惑わされていた。

出口に向かい、乗車料金を支払うと丸い黒縁眼鏡を掛けた運転手が尋ねてきた。

「今日はあまり見かけない制服を着た生徒さんが多いいが、何かあるんね?」

「ええ。今日は公立高校の合格発表当日なんです」

必要な情報だけを述べると、運転手は納得がいったのか大きく頷いた。

「そぉか。教えてくれてありがとうな」

バス停から離れ、大きかったバスは徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。

高校前に着くと、正門の前に数人の制服を着た女子生徒がいた。

濃紺を基調としたセーラー服に二本の細い赤のラインが刻まれた、お淑やかな雰囲気を醸し出している。ここの高校の制服だ。つまり、在校生がこんな朝早くから自分たちの為に学校へ来ていると言う訳だ。

少し見惚れて歩いていると、視野の端に影が近づいて来ているのが見えた。直ぐに前を向き歩こうとすると、時既に遅しだった。

「「……!!」」

互いの右肩があたり、痛みよりも驚きが先に走った。

「…すみません!痛くなかったですか?保健室行きましょうか?」

よく見るとあたった相手は二本の細い赤いラインが刻まれていたセーラー服を着ていたので、この高校の在校生であった。

「こちらこそごめんなさい…?あなたうちの高校の生徒…じゃないわよね?」

もちろん違いますよ、と言おうと口を開けた瞬間我に返った。

「あ、その、変な事口走ってしまいすみませんでした。中学の時に保健委員の委員長を務めていたので、つい癖で…」

「そういう事ね。でもね、初対面の人に向かって保健室に連れて行く癖は治した方が…自分の為よ?」

全くその通りだ、と自分に言い聞かせた。

「はい。その通りです。治せるよう精進します」

「合格発表場所はここから真っ直ぐ行けば、看板があるから、その指示に従って、エントランスへ向かえばいいからね」

そして、気品のある笑みを浮かべ相手は立ち去った。

自分が全て悪いと言うのに、相手は親切に対応してくれた。とても優しい心の持ち主なんだと悟った。

自分は相手の綺麗に整った長い茶髪を揺らしながら歩いている後ろ姿を何度か振り返りながら、合格発表が行われるエントランスへ向かった。

しかし、相手がこちらを向く事は一度もなかった。

そのまま真っ直ぐ進むと、看板が見えた。看板には右矢印が示されていただけだった。

左手にはめた腕時計を見た。短針が指していた数字は九をあと少しで超えそうな辺りだった。

「まだそんな時間か…」

ふと、空を見上げると厚い灰色の雲が一面を覆っていた。既に日の出の時間は過ぎているのに日の光は見えなかった。

まるであの雲を見ていると自分の心までもが、灰色の雲にのみ込まれそうになっていた。

そんな事を思いながら、再度自分の受験番号を確認した。受験番号は724番。年に置き換えるならば聖武天皇が即位した年である。

そうやって自分は覚えた。案外番号を年に置き換えて、覚えてみると面白く覚えられるものだ。

たかが三桁の数字を覚えるだけだが、人は精神状態を常に良好に保つ事は出来ない。ならば、常に自分が思い出す事が出来る覚え方で覚えておけば、不安材料が一つ減ると言う訳だ。

ぼーっとエントランスの前で立っているとポッケに入れておいたスマホが一度、もう一度揺れた。

きっと、俊からのメッセージであると見越し、スマホの画面を明るくした。

すると、俊からのメッセージであったがそれとは別にもう一人からメッセージが送られていた。

ニックネームを見ると「❅ゆき❅」と、表示された。誰かさんと違い、とても分かりやすいニックネームである。ちなみに、本名は藤宮由紀(ふじみやゆき)

まずは俊のメッセージを開いた。

(こっちは高校着いたけどさ、すげー閑散としてる。)

(まだ合格発表まで時間があるから来てないだけなんだろ)

俊の受けた高校はここら辺ではトップ校に位置する高校だ。偏差値で表すなら七十を優に超えると言われている。

(そうなんかなぁ〜だったら俺と暇潰し相手になってくれよ)

(俊とは違ってこっちは人が多いんだ(汗))

俊とのやり取りをしている間、藤宮が自分からの返信に待っていると考えると一度俊とのやり取りを早急に終わらせるべきだ。

(だから、また後でいいか?)

その直後既読がつき「了解!!」と返信がきた。

(もう着いた?)

藤宮のメッセージを開くと主語のない文面を目にした。端的に済ませようとする性格は文字上でもはっきり滲み出ている。

(やっと既読ついた。遅い(怒))

この様子だとずっと俺のメッセージを開いていた事になる。

(ごめん(_ _;)少し俊と話していたから遅くなった)

俊と藤宮とは中学三年生の時同じクラスであった。藤宮とは特別仲が良かった訳ではないが同じ班になれば話しかけたり、かけられたりと言うような距離感だった。

ただ、藤宮とは同じ高校を受験していた為時々メッセージでやり取りなどを行っていた。

残念ながら藤宮は性格が素直すぎる故自分とのやり取りでは普段女子と話している口調だったので、時々困惑する事があった。まぁ、今でもやり取りが続いている事が自分にとって不思議に思う。

(また話してたの?ちょっと今通話できる?)

自己中心的である藤宮。どうせ、通話できないと言っても通話をかけてくる−着信音が鳴った。

「なに藤宮?まだ通話の許可をおろしていないんだけど」

『許可?そんなのなくても三嶽(みたけ)君だったら必要ないよね♡』

「いやいや。必要大ありですけど」

『…もういいや。それより高校着いた?』

「ああ着いたよ。わりと結構人多いから気をつけて来いよ〜それじゃ−」

『ちょっと待って!後、十分!十分前後で着くから正門で待っててくれませんか!』

少し意外な頼み事に息をのんだ。

「…分かったよ。その代わり十分前後で来なかったら待たないからな」

『はーい』

そして、通話が切れた。

自分が受験した高校で同じ中学の人はあまりいない。例年十〜二十人程度受験者数がいるにも関わらず今年は数人しかいない。その、数人の内の一人が藤宮である。

なぜか、最近はメッセージを送るよりも相手から送られる方が多くなってきていた。受験期の中複雑な感情が故にそうなっているのかは分からないが、受験後では通話を掛けられたりしていた。

男子からすると、気があるんじゃないかとか変な勘違いを起こしてしまいそうである。

それで、少しづつ藤宮美由紀を理解しつつあった。最初は藤宮を観察するかの様に会話を交わしていたが、気がつけばありのままの自分になって藤宮と会話を交わしていた。自分の中の藤宮に対しての警戒心がまるで両手に強く縛られた鎖が錆びて急に勢いよく壊れた様であった。






藤宮との通話を終え十分が経った。

その間自分は一歩も動かずに正門に立っていた。他の中学生がぞろぞろと正門を通過する中、藤宮の姿は見えなかった。

正門で待つ事に対しては問題ないのだが、時折正門を通過する前に自分の事を睨みつける様に見てくる生徒がいたので変人扱いされているかもしれない。

それに、正門近くにはこの高校の教師らが挨拶をする為立っている。

大きな声で挨拶を返す生徒もいれば小さな声で返す生徒もいる。ここで、小さな声で挨拶をしてしまえば教師にとってその生徒の第一印象が悪く刻まれてしまう。

そもそも、教師がこんな日にわざわ正門の近くで挨拶をしている行為はあまり見かけない。きっと今年の受験生は挨拶をきちんと返す事が出来るか観察しているのではないかと思う。

すると、教師が大きな声で挨拶をした声よりも大きな声で挨拶を、返した生徒がいた。

つい、気になってしまいその生徒を見てみると、自分が知っている人であった。

中学の校則をきちんと今もなお、厳守して制服を着て、肩に掛かった後ろ髪を揺らしながらこちらに走って来ている藤宮を目の当たりにし懐しさを感じた。

「おっはよー!!(つかさ)!!きちんと時間通りだから!」

こんな日のこんな朝からハイテンションで来られると今日一日分の体力ではもちそうにない。きっと、明日、明後日の分まで体力を消費する事になるだろう。

それに、いつもは名字で呼ぶ藤宮が、なぜ今日に限って名前で呼ぶのか理解できない。やはり、ハイテンションになり精神が狂っているのだろう。

「おはよう…まぁ、そうだな。ぎりぎりだが、十五分程で来れているから藤宮が言ったとおりではあるな。それじゃあ行こう」

「ねぇ、司?って、どうしたの?」

「どうしたのって、なんで今日は名前で呼んでるんだ?」

「…何となく名前で呼んでみたくなったから?」

俺からの質問の答えを疑問形で返答されると、どう返してよいのか分からかなくなってしまう。質疑(Question)の場であるならば永遠と先に進まないだろう。

「普通名前で呼んでみたくなる時とかあるか?単に親交を深めたいとかだったら分かるが…そうか、藤宮は俺と仲良くなりたいんだな?」

そうでないと、急に名前で呼んでみたくならないだろう。周囲が皆自分の名前を、司と呼んでいるなら藤宮もそれに合わせる為名前で呼んでいる可能性もあるが、女子からは名字で呼ばれるのが殆どだ。

「仲良くなりたい?…私が?司と?…どうなんだろ…」

否定せず、言葉を濁す藤宮はどこか恥じらいをもった乙女に見えた。

これが、幻覚と言うやつなのだろうか。いや、それだと藤宮がまるで乙女ではないかの様に聞こえてしまう…

「べつに合格すれば、また三年間同じ学校なんだから急がなくても仲良くなれるんじゃないか」

「それだと、合格しなかったら仲良くなれないって聞こえるけど!」

そんなつもりで言った訳ではなかったのだが、たしかにそう捉えられても間違いではない。だからと言ってお互いが離れても藤宮が望むのであれば自分は仲良くなれると思う。

再びエントランスに向かうと、藤宮と会うまではなかった大きな看板が置かれていた。白いシートに覆われた看板には合格者の受験番号が記載されている。

隣にいる藤宮の様子を見ると不安げな顔をしていた。いつもは元気なくせにこういう時はとことん凋落する。しかし、それは自分も含めここにいる全員がそうであるだろう。自分に至ったては昨夜はあまり深く眠る事が出来なかったぐらいだ。

適度な緊張感が大事だとよく言うが、その通りだと分かった。なぜなら、過度な緊張は健康状態を悪化させる事に繋がるからだ。

自分は白いシートが捲られる時まで適度な緊張感を持つ事に専念した。

午前九時五十八分。

黒いスーツを着こなした二人の男性教師がエントランス前に置かれている大きな看板に近づいた。

二人は同時に目で合図を送ると白いスーツに手をかけた。

頼む!!自分の受験番号があってくれ…!!!



勢いよく捲った。




続く。



どうも猫屋の宿です!!

最後まで読んでいただきありがとうございました!!

誤字脱字等ありましたらご報告お願いします!!

今回の作品はタイトル名について、頭を悩ませました。

この話を読んでみて、タイトルの意味が理解出来ない方もいたかと思います。

これが、正式な作品タイトルなのか?そーですね、よく言われる真相は闇の中に!!的な感じかな(?)

これから、この作品が沢山の方に読んでいただける様に頑張りたいと思います。

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