第7話 初めての告白(裏面)―俺の場合―
前回のお話の主人公視点になります。
今日は “ドキッ!告白大作戦” 決行の日だ。
俺はバッキーの命令で、竜宮寺 可憐に告白しなければならなくなった。
準備は着々と進行中である。俺自身は、クライマックスの告白まで特に出番は無いのだが、マジで本当に気が重い。
今まで、好きな女子に告白したことなど一度も無いのに、いじりの一貫で、しかもあの色々とモンスター級の竜宮寺 可憐に告白とか、本当に嫌すぎる。
俺の黒歴史に新たな1ページが加わると思うと、今から頭が痛くなる。
拒否したり、断れば、バッキー達からの鉄拳制裁が待っている。その後には、更に酷い奴隷生活が待っていると思うと、命令を受け入れる他ないと腹をくくっていた。
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キーンコーンカーンコーン…
放課後を知らせる鐘が学校内に響く。正直、聞きたくなかった。
放課後なんか来なければいいのに……。
この世界にいる限り、来るな来るなと願ってもその時は確実にやって来る。なんて無慈悲な世界なんだ。いっそ異世界に召喚されて、チートスキルで俺TUEEEをしてみてーなぁー。こんちくしょー。
「おい。けつ毛野郎。そろそろ行くぞ。」
嫌な野郎が、俺に声を掛けた。いつも時間にルーズなバッキーが、こんな時だけ時間通り、律儀に俺を連れに来た。
バッキーと数人の取り巻きのたちと、俺は体育館裏へ重い足を進めた。
バッキーを先頭に、取り巻きたちが後に続く。
坊主頭に、リーゼント、パンチパーマ、スキンヘッドに、モヒカンに、逆モヒカン……、何だこの中学は。今さらだが髪型、自由すぎるだろ。それとも何か? ここは世紀末で修羅の国ですか? 君たちは“あべしっ”とか、言っちゃう輩たちですか?
更に続いて、ショートカットのケバメイク女に、茶髪ロン毛のギャル女、そして…… あれ? 今日は金髪ツインテールは来てないな。
提案者が来ないとは、投げやりにも程がある。責任もクソもあったもんじゃない。思いつきでやらされる俺の身にもなってみろ。今度、しっかり説教してやる!
……と、息巻いても実際は出来ないけどね。そんなことしたら、バッキーたちに何をされるか……奴隷生活も楽じゃない。当たり前だけど。
周りを見ると、どいつもこいつもニヤニヤと胸くそ悪い笑みを浮かべてやがる。
このイタズラ自体、竜宮寺 可憐への嫌がらせと、俺へのいじりと、その両方の側面を持っているのだろうが、こいつらにしてみれば、そんなことは口実であり娯楽の一つとしか考えていないのだろう。
その当事者たちが、どんな辛い気持ちになり、傷つき、その結果、一生の痛みになるだろうことを、こいつらは微塵も考えていないのだ。
自分たちのチャチなプライドを振りかざし、自分の欲求を満たすためなら人を傷つけることをも厭わない、それどころか娯楽として楽しんでいるこいつらに、心底嫌悪した。
……だが、俺も同罪だ。こんな奴らの言いなりになって、竜宮寺 可憐を傷つけようとしている。いくらモンスター級の相手だからって、罪もない彼女を傷つけて良いはずがない。
心が、もやっとした。
「……あー、…この告白、止めないか?」
ふと口を衝いて出た言葉に、時間が止まったかのようにバッキーたちの動きが静止した。
すぐ様、バッキーは踵を返し、俺に飛びかかってきた。そのまま仰向けに倒れ、腹の上にはバッキーが馬乗りになっていた。
バキッ…
左頬に痛みが走る。口の中に鉄の味が広がった。
「けっ。この奴隷野郎が。怖気づきやがって。てめぇ、命令違反だぞ。奴隷の命令違反は厳罰だ。ほぉら、もう一発。」
バキッ…
右頬にも痛みが走る。口の中全体が燃えるような熱さでいっぱいになった。
俺はだらんと横を向き、視線の先には、地面と雑草の根本が見えていた。
馬乗りになったバッキーは、拳を振り上げた体勢で俺に凄んだ。
「キングである俺様の命令は絶対厳守だ。次、破ったらコロスぞ。」
……だめだ。また、暗い紫色の靄に覆われて行く。体に力が入らなくなった。
俺は口の中に広がる鉄の味を噛み締めながら、ゆっくりと飲み込んだ。
ふと出た言葉だったが、まだ “抵抗する気持ち” が残っていたのか……自分でも驚いた。
だが結局、結末は変えられなかった。俺は体育館裏に来てしまっていた。
「おー。いるいる。」
「本当にあのデブス来てるじゃん。うけるー。」
「お前ら、ここからがショータイムだ。」
俺を残して、バッキーたちは各々、竜宮寺 可憐から見つからないポジションへ隠れた。
俺は、口の端から垂れる血を制服の袖で拭いながら、足を進めた。
視線の先には、落ち着きのない様子の竜宮寺 可憐がいた。まだ俺には気付いていないようだ。
あぁ。なんか緊張してきた。竜宮寺 可憐の後ろ姿が、昨日みた動物番組のゴリラにソックリに見えてきた。やべー。野生のゴリラ、超こえー。
ビビるな。俺。勇気を振り絞って、野生のゴリラに向けて声を発した。
「待たせてごめん。竜宮寺さん。」
竜宮寺 可憐の頭がグルリとこちらに振り返り、獲物を捕捉した野生動物が如く、ドタドタと巨体を揺らしながら近づいて来る。うわー、正面から見るとまじトロールじゃん。
震度2ぐらいで地面が揺れ波打っている。その揺れが地面から足を伝わり、俺の身体まで揺らされている。
やべー。マジこえー。
生で体感する竜宮寺 可憐の圧力は半端無かった。
30メートルはあった俺までの距離は、残り10メートルのところまで迫って来ていた。
このままだと、補食されるかも知れない。もう、それくらいの野性味を肌で感じていた。
言うしかない。言うしかない。言うしかない。……
思考とは反対に、竜宮寺 可憐の圧力に当てられ声が出ない。
「あ…」
なんとか声が出た。…声が出せるぞ。
地面から来る振動の揺れと、野生動物の殺気に気圧され、体全体がマナーモードのスマホのようにブルブルと震えていた。思い切り喉に力を込めて、言葉を絞り出した。
「あ…あの、
お…おれ、
おおおお…
俺と……
ど つ き 合 っ て く だ さ い。 」
彼女の動きが、一瞬止まったように見えた。
俺は、もう一度、大声で叫んだ。
「お前と俺とで、どつき合いじゃーーーボケーーーー!」
そこから先の事は覚えていない。……記憶が完全に吹き飛んでいる。
……たぶん、俺は竜宮寺 可憐に正拳突きを食らい、身体ごと吹っ飛ばされ、体育館の壁に衝突したのだった……と思う…。