第34話 勘違い俺TUEEEEEEでイキりモブ太朗爆誕す
俺は力強く地面を蹴った。刹那で間合いを一気に詰める。
体格で劣るこの俺がこの羆のような男に勝つ手段とは?
生涯無敗の大剣豪『宮本武蔵』も言っている。
『勝負とは敵を先手、先手と打ち負かして行くことであり、構えるということは、敵の先手を待つ心にほかならない。』と。
そう、勝負はすなわち……『先手必勝』!!
自重の乗った前蹴りが、微かに初動の遅れた六波羅を容赦なく強襲する。
低く構えた六波羅の顔面を渾身の力で蹴り抜いた。
潰れるような鈍い音が足裏を通して伝わった。
見事なクリーンヒット!
上履きの底から顔が剥がれ、初弾でよろめく大男へ俺は追撃を試みる。
硬く握った鉄拳をハンマーのように振り下ろした。六波羅のド頭めがけて垂直落下。
直撃。長身の体躯が、くの字に折れ曲がる。
すかさず六波羅の下がった頭を両手で抱え、膝蹴りを発射。
膝蓋と頭蓋がかち合う衝撃音。
ボールのように頭部が吹き飛び、羆のような男をのけ反らした。
限りなく奇襲に近い怒濤の先制連撃。
手応えは充分。『先手必勝』は大成功っっ……。
反り返るデカい図体が背中から崩れて行く。
うそ? もしかして、俺、勝っちゃったの??
自分でも目を疑う光景に若干戸惑いながら、呆然と大男の行方を見守った。
地ベタへゆっくりと沈み行く六波羅の姿……。
や、やったぜ! 見ろっ! 姫川、大金星だぜっっ!!
勝利を宣言するように両手を掲げ姫川のほうに踵を返す。
ポニーテールの小柄な美少女は、俺の勝利ポーズに目を見開いて口をパクパク……。
なんだ姫川? 『勝算はある』って言ったのはお前だろ?
あまりの呆気ない結末に、お前自身が驚いちまったってか?
俺の後方を指差して相変わらず口をパクパク。声を伴わずに何かを言っている。
どうした姫川? え? 何だって?
訝しげに唇の動きを観察すると……
う……
し……
ろ……、
……『後ろ』がどうしたって?
不気味な気配が背筋を覆った。
思わず飛び退き、振り返りながら身構える。
構えた先には、いまだ佇立する六波羅がっ!
あの渾身の攻撃をまともに喰らって倒れなかったことには驚いたが、大男の下半身は生まれたての小鹿の如く立っているのもやっとの状態だ。
加えて口や鼻からは鮮血が滴り落ち、直下の地面を赤く染めていた。
その様相を見る限り、俺の見舞った攻撃は確実に効いている。
姫川の言った『勝機はある』の言葉通り、このまま攻めれば今度こそ俺はコイツを倒せるかもしれない!?
『宮本武蔵』は言っている。
『敵を弱く見なして、我は強気になっておし潰すということ也。』と。
すなわち『敵に弱みがあれば一気に叩き潰せ』ってことだ!!
緑岡の置いていった言葉が少しばかり気になるが、それより今は羆のような男が弱っている最大の好機。
ここで攻めなきゃ、いつ攻めるって言うんだっ!
勝利を確かなモノとするために俺は地に足つかない六波羅に突貫する。
牽制を込めた左右の連打。繋げて右の正拳突きを叩き込む。
大男の顔が左右に弾ける。拳固が分厚い胸板に被弾。筋肉逞しい上半身が激しく揺れる。
間髪入れずに下段の回し蹴り。おぼつかない脚をしなる強打で打ち据える。
ガクッと膝が抜け大男の横っ腹が露呈した。
がら空きの脇腹に抉るような下突きを撃ち込む。拳骨が肉にめり込む。内臓を捉えた確かな感触。
きっと六波羅は苦悶の表情をしているはずだ。
勝利まであと少しっ。もうひと押しだ!
息つく間もなく猛打を重ね、俺はここぞとばかりに畳み掛けた。突きや蹴りを乱れ撃っての連撃の嵐。
脚にきていて避けられないのか、面白いように打撃が当たり、六波羅はさながら俺専用の人間サンドバッグになっていた。
あまりの手数の多さに反撃の隙もないのだろう。
俺だけが攻め続ける一方的な展開。
生徒会の連中もさぞ驚愕していることだろう。
無慈悲にぶちのめす殴打の音だけが殺風景な屋上に轟いていた。
正直、俺もこんな展開になるとは思っても見なかった。
戦う前に感じた六波羅の只者ならぬ気配は、紛うことなき強者の貫禄。獰猛なまでの実力をその身に秘めているであろう雄々しい男の姿だった。
しかし蓋を開けてみれば俺がその男を圧倒する余裕の展開。
副会長の六波羅が見かけ倒しだったってことなのか?
否。きっと、このデカイ図体の大男が『弱い』という訳じゃない……。
この手でゴツい大男を殴る度、俄には信じ難かった“姫川の不等式”が現実味を帯びて行く。
俺に手もなくヤられる六波羅の無様な姿が、それは紛れもない真実だと言っている。
そう。俺はコイツより『強い』のだ!!!……と。
事実、俺は格闘経験豊富であろう覆面少女と渡り合い、見事にこの手で勝利を収めた。
そして今まさに、強者の風格甚だしい羆のような大男をも、この拳で圧倒してしまっている……。
中学の暗黒時代に幾度となく繰り広げたモンスター級“竜宮寺可憐”との“どつき合い”と、今も欠かすことなく続けている過酷なトレーニングが、いつの間にか俺を高みへと昇華させてくれたのだろう。
そうだ! 俺は知らぬ間に自分でも信じられないほどの最強の『強さ』を手に入れてしまったのだぁぁぁ!!!
夢にまで見た“俺TUEEEEEE”だぁぁぁぁぁっっ!!
そう悟った瞬間、奇妙な自信と愉悦が沸き起こる。
今だかつてないほど心が昂った。
おいおい、ヒグマちゃ~ん。さっきまでの迫力はどこ行っちゃったんですかぁ?
俺にヤられっぱなしで、どうしちゃったんですかぁ?
あっれ~? 登場した時はめちゃくちゃ強キャラ感、出してたのにぃ~?
もしかして、副会長って言うのは肩書きだけで、実は生徒会の公認マスコット、ゆるキャラ的存在なんじゃねーの? 見た目、全然ユルかねーけど。ぷぷぷぷー(笑)
生徒会の“羆の置物”ならぬ、熊つながりのゆるキャラと言えば代表格では“くま○ン”か? いやいや、どちらかと言えばユルさを全く感じない強面ゆるキャラ、遭遇したらお子様大号泣の“夕張メ○ン熊”ってか?……プー( *´艸`)
気持ちが大きくなる。目の前にいる羆のような男がちょっとガタイの良いゆるキャラに見えてきた!
夕張メ○ン熊に蹴りをぶちこむ。
戦闘力たったの5か…ゴミめ…。
優越感が全身を支配する。
あなたが闘っている、この私の戦闘力をお教えしておきましょうか?
私の戦闘力は53万です……。
振りの大きい正拳突きを横っ面にぶち当てた。
これはクリ○ンのぶんっっ!
一発、また一発と痛打を六波羅の身体に命中させる度、実はゆるキャラだった大男に心底ビビっていた鬱憤が大きく裏返り、俺の自尊心を爆発的に肥大させる。
ふははははは! 我の至高の力に平伏すがいぃぃぃ!!
右に左に雑な攻撃を繰り出すが容易に着弾を許すちょっとごっついクマのゆるキャラ。
いつの間にか天下無双の気分になっていた。
ふははははは! このままお前を第七冥府へと誘ってやろうぅっっ!
卑小な虫けらの分際で神にも等しい我に挑んだことを地獄で悔いるがいいぃ!
冥界の黒き炎焔に焼かれて消えろぉぉぉ~っ!
第七冥府魔法 黒曜超竜獄炎殺砲―――!!
ヒャッハ―――!!!
……なんて、この時は変なテンションになっちゃって、心の中でだけとはいえ背筋も凍るサブい台詞を恥ずかしげもなく宣いながら激しく息巻いていた俺。
今思えば、初めて経験する優位な立場に踊らされて俺は完全に浮かれていた。
どこぞの宇宙の帝王か、異世界転生したチート魔王かよってくらいの傍若無人な中二発言……。
あー、めっちゃ恥ぁずかすぃーぃ(*/□\*)
言い訳させてもらえるのならば……
だってだって、めちゃくちゃ強キャラ感醸し出していた大男をこの時ばかりは明らかに圧倒してたんだもんっ。
“陰キャぼっち”のこの俺がだよ?
ちょっと考えてご覧なさいよ。
そんなん、誰だって“俺TUEEEEEE”って勘違いしちゃうでしょーがっ。
つい最近までカースト最底辺のいじられチー牛だったこの俺が『ヒャッハ―――』なんてイキったモブキャラ御用達のセリフを吐いちゃった時点でこの後ああなっちゃうことは、いつもの俺なら容易に想像できたハズだった。
しかし、姫川に『勝算はある』なんて言われて、まんまと真に受けちゃって……。
しかも、俺の独壇場と化していた場面から『俺はコイツより強い(キリッ)』なんて勘違いして有頂天になっちゃったもんだから、もう全くもって手がつけられない。
ご覧の通りの空前絶後の超絶イキり太朗が爆誕だよ……。
“陰キャぼっち”が完璧に、調子こいてたんだよね~~f(^ー^;
大物を叩きのめしている優越感と優位な状況に立った高揚感が、いつもの冷静な判断力を根こそぎ奪っていた。
緑岡の助言など、きれいさっぱり忘れてしまうほどに……
だから俺はこのあと、滅茶苦茶後悔することになる……。
あ~、マジ最悪⤵⤵ マジぴえん(´Д⊂ヽ




