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第12話 嵐の前の奴隷的日常

このお話から第二章がスタートします。

 あれから数週間が過ぎ、姫川(ひめかわ)の奴隷としての生活も板についてきた。…奴隷生活が板につくとか…つきたくもない。自分の順応性の高さが嫌になる。…トホホ。


 姫川とは、表向きは別段親しくもないただのクラスメイト。時々、挨拶や世間話をする程度で、それ以上の接触は極力お互いに控えていた。

 そのレアな接触を目撃した生徒からは、相変わらずの驚きの声と、“ぼっち”にも分け隔てない心優しき人格者 姫川への称賛に溢れていた。

 

 裏では俺をこき使い、ワガママ放題の姫川など、俺以外の生徒は知るよしも無い。


 腹が減ったと言われれば売店にパンを買いに行ったり、


 喉が乾いたと言われれば自販機に飲み物を買いに走ったり、


 疲れたと言われればマッサージをしたり……。


 パンを買いに行ったり、お茶を買いに行ったり、肩を揉んだり……

 

 パンを買いに行ったり、ジュースを買いに行ったり、足つぼ押したり、

 

 ほぼ毎日……そうだな、パシリしかしてないな。…あと、マッサージね。

 

 陰湿ないじりが無い分、中学の暗黒時代に比べれば全然マシだ。余裕さえ感じる。


 姫川のワガママに振り回されるのは、いつも視聴覚室だった。俺たちは視聴覚室への集合が日課となっていた。但し、この前のようなことが無いよう、合流するときは細心の注意を払っていた。



 今日の昼休みもいつも通り、俺と姫川は視聴覚室で合流した。


「おい。ド変態ゴミ虫。」


「姫川。その呼び方、言いづらくない?」


「うるさい。ド変態ゴミ虫。発言するときは私の許可をとれ。」


「あー、はいはい。では、話してもいーすか?」


「よし。許可しよう。なんだ。ド変態ゴミ虫。」


「あー、やっぱりもういいや。姫川、その呼び方気に入ってるんだろう?」


「そーだな。お前にぴったりの呼び方だろう? 女子高生パンツ愛好家のド変態ゴミ虫。」


「……それは流石に長すぎだろう…。それと、女子高生パンツ愛好家はやめて…。」



 いつも姫川は、視聴覚室の中央付近に椅子を置き、気だるそうに脚を組んで座っていた。俺は、姫川の目の前に正座させられ、これが毎度のポジションになっていた。


「ほぉい。ふぇんたいくほむふぃ。あふぃたの…もごもご…。」


「姫川。食べ終わってからしゃべろうな。はい、ミルクティー。」


 俺の差し出したパックジュースのストローを咥え、姫川はミルクティーを一気に飲み干す。


 ゴクゴクッ……ゴクゴク…


「ぷはー。はぐっ…はぐっ…はぐっ…。」


 姫川は、パンを思いっきり頬張っている。右手に惣菜パン。左手には菓子パン。どちらも俺が、さっきパシリに行って買ってきたパンだ。その両方を交互にかぶりつき、口一杯にモグモグしている。


 姫川の食べっぷりは、いつ見ても気持ちがいい。清々しささえ感じる。小柄ながら、ちょっとしたフードファイターだ。

 俺が買ってきた色々な種類のパン12個を、ものの数分で造作もなく平らげた。


 ハグッ…モグモグ……ゴクンッ。

 

「おい。ド変態ゴミ虫。明日の体育祭、お前は何の競技に出るんだ?」


「俺は、個人種目だけだな。100メートル走と障害物走だけだ。」


「なんだ。全然クラスに貢献してないな。全く、このゴミ以下のド変態()()()が。」


 …おっと、ゴミ虫から退化したぞ。この酷い言われようにも、段々慣れてきたな。


「そう言う姫川は、何に出るんだ?」


「私は個人種目と団体種目、そのほとんどに参加する。この前のホームルームで決まっただろうが。お前、聞いてなかったのか?」


「あー、悪い。正直、寝てた。“ぼっち”の俺には関係ないイベントなんで。

 姫川は大変だよな。運動神経も良くて、クラス委員長で、みんなからの信頼も厚いから、何だかんだで色々な種目に出なくちゃいけないもんな。

 ま、あんまり無理すんなよ。身体(からだ)、小さいんだし……。」


「…小さいだと……。」


 姫川は、自分の胸に手を添え、鬼のような形相で俺を睨みつけてきた。


「大きければ良いってもんじゃない! 小さくたって…小さくったって……。…メリットだって有るんだぞ!」


 え? そうなんすか? そのメリットとやらを詳しく…。心の声は届くこと無く、さらに姫川は早口で捲し立てる。

 

「お前も大きい派か? 大きい派なのか? 大きければ大きいほうが良いとかいう節操無しか?!

 そうか…そうか……お前も大は小を兼ねるとか言っちゃう派なんだな! 巨乳大好き党の幹事長で、次の選挙で出馬する気だな!

 

 この巨乳マニアのド変態クソ虫が――――!!!」


「いやいや姫川さん。俺は身長のことで言ったんですが……。それに、そんな性癖丸出しの政党からも出馬しませんよ……。」


 完璧少女の姫川にもコンプレックスがあったんだな。少しだけ親近感が沸いた。


「まぁまぁ。そう怒るなよ。」


 手足をバタバタさせ、俺を殴ったり、蹴ったりする姫川の頭に、俺は手の平を置いた。


「はうぅ。」


 そのまま姫川の頭を優しく撫でる。


「ふにゃぁ……。」


 姫川は、頭を撫でられると落ち着くらしい。ホント、チワワのジョンにそっくりだ。

 

 この数週間で姫川の扱いにもだいぶ慣れてきた。俺に命令することは、基本パシリの様なことばかり。奴隷といっても、大したことはされてないが、不自由で在ることには変わりない。

 早く姫川のスマホの音声を消去して、この奴隷生活ともおさらばだ。


 その奴隷解放のカギは、明日催される体育祭にある!

 

 体育祭中は携帯やスマホは使用禁止なので、着替えや荷物と一緒に、当然スマホも教室に置いて行く。

 そして、ほとんどの生徒は、そのままグラウンドに集まるので教室は藻抜けの空となるのだ。


 さっき本人の口から確認した通り、姫川は、ほとんどの競技に参加するらしい。その上、クラス委員長でもあるので、明日は忙しくグラウンドを走り回っているはずだろう。

 片や俺は、参加する種目は二種目のみ。競技に参加していない者はクラス参加者の応援だが、この“ぼっち”の俺が応援を抜け出しても気にする者など誰もいない。


 その応援の時間こそが、姫川のスマホをゲットする最大のチャンス!


 この絶好の機会に動かずして、いつ動く! 月削(つげ)王嗣(きみつぐ)


 はっはっはっはー! 見ていろよ。姫川。明日は、必ずやお前のスマホをゲットして、お前の(くびき)から解き放たれてやる。

 

 明日の体育祭に“姫川のスマホ、ゲットだぜ! 奴隷解放大作戦”を実行する。

 俺にとって、未来を決定づける一日になるだろう。俺は大いなる野望を胸に秘め、明日の体育祭に臨むのだった。

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