プロローグ
人生初の小説になります。暖かい目で読んでいただければ幸いです。
晴れ晴れとした初夏の空に気持ちいい朝日が注ぎ、まだ雀のさえずりが聞こえる学校への通学路。
「おはよう。」
「おはようございまーす。」
「よう!」
たくさんの挨拶が飛び交い、皆イキイキとした表情で友達との雑談を楽しみながら並んで登校する中、俺は誰からも“おはよう”を向けられることなく、いつものようにひとり、黙々と校門に向かっていた。
この帝王大学附属高校に入学して2ヵ月、友達もおらず、ただひたすら誰とも目を合わすことはない。登下校の時は、一言も発しない。修行にも等しい時間を過ごしている。
そう俺はいわゆる“ぼっち”なのである。
大概、高校に入学して2ヵ月もすれば、挨拶を交わしたり、雑談をする程度の交友関係は造作もなく……というか簡単に、そう…ごく自然に出来上がるものだ。
俺、月削 王嗣 は、高校生活のスタートダッシュに失敗し、皆との距離感が掴めなかった残念な男なのだ。
俺としては中学時代の教訓を生かして尽力した結果なのだが……幸か不幸か、今現在、絶賛“ぼっち”中なのである。
玄関で上履きに履き替え、教室に向かう途中、後ろから耳障りの良い透き通った声が俺にかけられた。
「おはよう。月削くん。」
「あ…ああ。」
不意にかけられた挨拶に、戸惑いつつ、頭を軽く掻きながらそう答えた。
多少辺りがざわついてはいたが、俺は気にすることもなく自分の教室を目指した。
挨拶してきた彼女は、同じクラスであり1年A組クラス委員長の 姫川 赤金 だ。小柄で華奢な体躯だが、スポーツ万能、眉目秀麗、品行方正、気さくで人当りも良く、適度な茶目っ気もある、まさに完璧と言っていい人間だ。
長い艶のある髪を後ろでひとつにまとめ、清潔感ある白色のシュシュが彼女のトレードマークとなっていた。
その端正な顔立ちや高校生とは思えない落ち着いた佇まいもあり、入学式の代表挨拶の時から一際目立っていた。
入学して僅か2ヵ月というのに誰からも注目され男女ともに憧れの存在となっていた。
そんな彼女が、“ぼっち”である俺に声をかけたのだから、回りがざわつくのも当然である。
しかも俺は曰く付きの“ぼっち”なのだ。
目付きは悪く、切れ長の一重がさらに鋭さを強調し、目が隠れるくらいの前髪から覗くその眼は狂犬そのもの。
筋肉質な体型に長身と言うほどではないが、線が細く、実際の身長よりも高く見えるため、威圧感も感じるらしい。
振る舞いも粗暴で口数も少ないから、色々と誤解を受けやすい。
入学してからこの悪人面のせいで、いつしかヤンキーだ、少年院上がりだなどとあらぬ噂が広がってしまって、余計と回りに警戒されてしまっている。
地域でも有名な進学校であるこの学校では、随分と浮いた存在であり、姫川とは違う意味で注目されていたであろうこの俺に、皆、距離を置きたがり、避けようとする者はいたとしても挨拶などするような物好きは普通いるはずがない。
そんな俺にも、分け隔てなく、そして臆することもなく毎日何かしらの声を掛けてくる姫川は、本当にすごい奴だ。
こんな絵に描いたような聖人が本当に実在するんだなぁ……と、この時はまだ…そう思っていた。