【回想】2人のデート
紅葉デート翌日の日曜日
聡美は休みなのに
仕事の日よりも
早く目覚めてしまったようだった。
カーテンの隙間から見える外の色は
まだ朝と言うには困る暗い色だった。
枕元のスマホで時間を確認すると
午前4時32分だった。
聡美「あぁ…うぅ…」
枕に顔を埋めて唸った。
眠いのに眠れる気がせず
頭の中はもやもやとしていて
いい気分とはとても言えなかった。
その原因は昨日のデートの
最後の方にあるのは確かだった。
昨日は、滝を見た後
車で数分の所にあったラーメン屋で
昼食を食べた。
見た目は古びたラーメン屋だったが
俊也が観光情報誌で見つけた所だっただけに
味は文句なしに美味しかった。
また2時間かけて地元に帰る道中
これまた俊也が観光情報誌で見つけていた
美味しいソフトクリームの店に寄った。
聡美は特濃バニラ、
俊也は贅沢チョコレートを選んだ。
お互いのを味見するために
最初の一口を交換した。
俊也に貰った贅沢チョコレートは
贅沢と言うだけあって
ちょっとビターで高級な味がした。
バニラは甘さ控えめなのに濃厚で
両方とも文句なしに美味しかった。
その後も少し寄り道をしながら
ゆっくりとデートを楽しんだので
地元に着く頃には
辺りはすっかり暗くなっていた。
しかし、暗い割には時間帯としては
まだ18時を過ぎたばかりだったのが
聡美は嬉しかった。
まだ一緒に居られるよね。
そう思ったからだ。
夜ご飯は地元民しか知らないような
路地裏にある定食屋に行った。
おじいちゃんとその息子が調理、
おばあちゃんと息子の嫁が接客をしている
そんな小さな定食屋で
何を頼んでもハズレ無しと地元では
評判だった。
マイナス点をあげるなら
駐車場が狭い上に少ないという事だった。
2人が行った時も、満車に見えたが
ちょうど出ていく車があり
ラッキーだねと2人で喜んだ。
聡美は酢豚定食、
俊也は刺身定食を頼んで
これもまたお互いに一口ずつ交換をした。
その日の出来事の感想を言い合いながら
料理を綺麗に平らげていった。
時々、店のおばあちゃんが話に入って来て
若くて良いわねぇと言って去るのが
何だか面白くて2人で顔を見合せて笑った。
食後に出された
サービスの温かい麦茶も綺麗に飲み干し
2人で手を合わせご馳走さまをした。
そして、会計を済ませ店を出た。
聡美は別れるのが名残惜しくて
おしゃべりしながら
地元を少しドライブしたいと
俊也に提案した。
俊也は快く引き受けた。
俊也は少し車を走らせた後
夜景が綺麗だと
地元では有名な公園の駐車場へ車を止めた。
この場所も聡美は初めてだった。
駐車場には既に数台の車が止まっていた。
2人は車から降り、公園内へ入った。
公園は高台にあり、入った瞬間から聡美は
確かに綺麗な夜景が見えそうだと思った。
聡美が辺りを見回すと
公園内のベンチや階段のあちこちに
大人カップルや
高校生くらいに思われるカップルが
仲睦まじい様子で座っているのだった。
暗くてはっきりは見えないが
抱き合ったり唇を重ねたりしているカップルも
中には居た。
聡美は目のやり場に困って
空を見上げていた。
俊也「やっぱり人気だね」
聡美「なんか、照れちゃうね」
俊也「ごめん、嫌だったよね」
聡美「嫌じゃないよ。夜景、綺麗だもん。ただ、気を遣っちゃうよね。邪魔しちゃいけないって」
俊也「みんな、目の前の恋人しか見てないよ。俺みたいに」
俊也は聡美を抱き締めキスをした。
2人の唇が重なった。
聡美は驚いたが雰囲気を壊さぬよう
そっと目を閉じた。
10秒…20秒…きっとそれ以上の時間、
2人は舌を絡ませながらキスを続けていた。
俊也が唇を離し、その代わりとでも言うように
おでことおでこをくっつけた。
聡美「俊也、好きだよ」
俊也「俺も好きだよ、聡美」
俊也は気分が高揚しているらしい時には
聡美の事を、普段の呼び方の「さと」ではなく
「聡美」と呼んだ。
俊也「寒いから車、戻ろうか」
聡美「うん」
もう一度キスをして手を繋ぎ車に向かった。
車の中で少しお喋りをして帰る事にした。
聡美「今年ももう残り約2か月だね」
俊也「うん、何か早いよね」
聡美「俊也はさ、私と居て楽しい?」
俊也「楽しいよ」
聡美「ずっと一緒に居たい?」
俊也「勿論」
聡美「ありがとう」
俊也「さとは、どうして心配になる?」
聡美「うーん…、自信が無いからかなぁ」
俊也「どうして自信が無い?」
聡美「えー…それは…」
聡美は責められてる気がして
俊也の納得しそうな言葉を考えた。
聡美「何でだろうね、私、何の取り柄も特技も無いし…」
俊也「そんなの無くても俺は聡美がいいよ。だからもう、一緒に居て楽しいのかなとか、そんな心配しないで欲しいな」
聡美「でも…」
俊也「でも?」
聡美「心配するくらい自由にさせて欲しい。好きだから心配するんだもん。俊也はいつも余裕があっていいよね。きっと私と別れてももっといい人見つける自信があるんでしょ?」
聡美の悪い癖が発動してしまった。
悪い癖とは
否定される事を勝手に前提として
試すような質問をしてしまうという
面倒な癖の事だ。
気持ちが不安定な時に発動し易く
これまでも何度かこの癖がきっかけで
言い合いになりかけた。
しかし、大抵は俊也が大人の対応をし
聡美が謝り易い会話の流れを作ってくれた。
しかし、今回は俊也も売られた喧嘩を
買う形となってしまった。
俊也「一緒に居て楽しいしずっと一緒に居たいって言ってるのに、何で?何で別れたらって話に持っていく?それってさ、本当は聡美が俺と別れたいって事なんじゃないの?」
聡美「そんな事、言ってないよ」
俊也「じゃあさ、何て言えば安心してくれる?どうすれば心配しなくなる?出来る事は何でもするからさ、教えてよ」
正直、申し分無いくらいに大切にしてもらって
これ以上、何も求める事は無かった。
しかし、不安な気持ちや心配する気持ちを
無くす方法も思い浮かばず、聡美は黙ってしまった。
聡美「…」
俊也「都合悪くなると黙る癖、直した方がいいよ」
聡美「…」
俊也「帰るね」
そうして、聡美は俊也に送ってもらい
アパートの部屋に入った。
シャワーに入る気力が無かったので
洗面台で顔だけ洗って、後は歯磨きをして
電気を消して、スマホと一緒に
さっさと布団に潜り込んだ。
スマホを確認すると
俊也からおやすみとだけメールが届いていた。
聡美もおやすみなさいとだけ打って返信し
目を閉じた。
やっぱり昨日の夜の事が原因で
熟睡できなかったとしか
聡美は思えないのであった。