いつものデート①
紅葉の名所に近付くにつれ
2人と同じ観光目的なのだろう
徐々に車の数が増えていった。
聡美「わぁ、綺麗だねー」
俊也「うん、そうだね」
聡美「俊也は来たことあるの?」
俊也「うん、あるよ。中学生の時かな、家族と」
他の女の子と来たのじゃなくて
良かったと思って密かに安心した。
聡美「そっかぁ、私は初めて」
俊也「嬉しいな、さとの初めての相手になれて」
聡美「えー?ちょ、ちょっと、俊也ってば、照れるんだけど。いつもからかって面白がってるよね」
俊也「からかってるつもりはないけど?思った事を言ってるだけ。嫌?」
聡美「嫌って事はないけど」
俊也「じゃあ、素直に受け取ってよ、俺の気持ち」
何でこんな恥ずかしい台詞を
スラスラ言えるのか
いつも不思議だった。
でも、この事についてあまり追及しても
聡美にとってメリットは無いと思い
あえて聡美から話題に上げる事はしなかった。
聡美「はい、わかりました」
俊也「いいお返事です」
俊也は言って
聡美の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
聡美「また子ども扱いしてー」
俊也「また照れ隠ししてー。嬉しいんでしょ?」
聡美「うぅ、はいはい、嬉しいですよ!めっちゃ喜んでますよ!悪いですか?」
俊也の横顔を見ながら
開き直った風に言った。
俊也「んーん。可愛いよ」
聡美「何だろね、このやり取り」
俊也「ん?いつものデートでしょ?」
聡美「そだね、俊也のお陰でいつも楽しい。いつもありがと」
俊也「こちらこそありがとう。お、もうそろそろで駐車場に着くよ」
駐車場は混んでいたが、駐車整備の人が居たので、思ったよりすぐに止める事が出来た。
車から降りると
外はひんやりとした空気が漂っていた。
俊也「ちゃんとマフラーと手袋、持って来た?」
聡美「うん、マフラーは持って来た。でも、こんなに寒いと思わなくて、手袋は持って来なかった」
俊也「そっか、俺の貸そうか?寒いでしょ?」
聡美「え、大丈夫だよ。俊也が昨日、用意した方が良いってメールくれてたのに、言う事を聞かなかった私が悪いんだから」
マフラーを巻きながら聡美は言った。
俊也「さとの事だから、も、し、か、し、て、わざと忘れた?」
俊也は聡美に顔を近付け
聡美の目をじっと見つめて言った。
図星だった。
顔が熱くなるのを感じた。
それを少しでも隠そうと
マフラーを軽くつまみ上げ口元を隠した。
俊也「はい、じゃあ、行こうか」
俊也は聡美の前に左手を差し出した。
聡美は黙って右手を出した。
俊也は手袋をしていなかったが
直に伝わってくる俊也の温もりは
充分過ぎるほど温かかった。