表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第二部

この作品は、戯曲形式で書かれていて、しかも途中途中に詩を挟み、ミュージカル(26曲の曲つき)になっています。その為、小説として読むと、読みにくい箇所があるかもしれません。その辺はどうかご了承下さい。

<司教がグローデンフェルトの部屋に入ってくる。

ハエが一匹飛んでいる。>




**司教**

なんと!?

蠅がいる!


**ハエ**

左様で。

最近、色々な用事で、

出入りさせていただいているのでございます。


**司教**

まぁ、仕方があるまいよ。

気持ちのいいものとは言えないが、

お前達はどこにでもいるのだ。


**ハエ**

そう、あまり楽観的にならない方が

よろしいかと思いますがね?

こんなに寒い季節に私達がいるという事が問題なのです。


**司教**

しかし、どんなに寒い季節にも、

どこかに潜り込んで生き残っているものなのだよ。

皆殺しにした! と、ぬか喜びしても、

どうかして暖かいねぐらを見つけるらしい。

どうも一匹、大きい奴が胡坐をかいているものなのだ。

第一、潜り込まれたら、見つける事はもう困難だ。

なんたって、これだけ複雑に入り組んでいる処に

あんな小さな奴が隠れるのだからどうにもならない。

あの手の生き物は清潔な場所にはいない、

なんて言う奴もいるが、とんでもない。

この世に清潔な場所など無いのだ!!

ふん。埃の溜まらない場所などあるものか。


**ハエ**

まさしくその通りですが、

しかし、一体、何処に隠れ潜んでいたかは

問題ではないですかね?

蠅は人の心にも湧くわけです。

そこを突き止めなければ

信仰の沽券に関わりませんかね?


**司教**

関わるものか。

奴らが何処にいるかは問題ではない。

早い話、何処かにいるのだ。

どう対処するかの方が問題なのだ。


**ハエ**

そりゃ正論ばかりですな。

心に蛆も沸きますまい。


**司教**

結構な事だね。


**ハエ**

蠅も命あるものですからね。

好む、好まざるというものがございます。


**司教**

君、そんな事はどうでもいい事だよ。

奴らの命など。


**ハエ**

そうなんでしょうな。

アナタはそこに誰が生きていようが、

どんな者が、どんな事情で其処に居座ろうが、関係ないんだ。

追い出すという結果と、

清潔な今だけがアナタの答えなんだから。


**司教**

その通りだ。

だがそれが世界だ。

それが神の作った

均等のとれた統率されるこの世界なのだ。

我々はただ家から教会に向かう道を

毎日、歩いていればいい。

そうすれば神の家に着くのだ。

もしも、教会に向かう道の途中で穴熊の穴や、

死んだカニなどを見かけても、手を出さない事だ。

そんな事をしていたら、いつまでも目的地に着かないし、

穴に堕ちたらどうする?

その穴は、どこまでも続いているかもしれないのだ。

もしかしたら、

穴熊のものではないかもしれないしな。


**ハエ**

それは、勘違いも甚だしいですな。

アナタは均等というものを誤解している。

いや、どうもアナタのお友達は皆、そうらしい。

いいですか?

神は大便だってお作りになられたんですよ?


**司教**

蠅はいつも大便の話をする。


**ハエ**

逆に、蠅から大便の話を聞かないで

誰から聞くんです?

アンブロジウス聖歌の話でもする気ですか?


**司教**

ふん。

若い頃には私も道端の穴に興味を持ったさ。

そこにどんな獣が潜んでいるのか。

恐怖心より好奇心が勝っていた。


**ハエ**

穴熊に出会った話ですか?


**司教**

穴熊?

口から数学を吐く竜がいたさ。

だがそれたけだ。


**ハエ**

それだけですか?


**司教**

ああ、誰もが見るのさ。そういったものを。

若い頃には。


**ハエ**

老いたんですな。


<司教、憤慨して>


**司教**

完成したのだ!!!


**ハエ**

老いたんですよ。

そしてアナタには理解できなかった。


**司教**

何がだ?


**ハエ**

それは何でもいいのです。

竜の吐く数学でも、

異端者の呪文でも、女の語る真実でも、

アナタは理解できなかった。

重要なのはそれだけです。


**司教**

それだけかね?


**ハエ**

ええ、誰もが言うんですよ。

自分は完成したのだ。

迷いを切り捨てたんだってね。

老いただけです。

その切り捨てたものの中に永遠の命があった。


**司教**

馬鹿な!!

そんなものは世迷いごとに過ぎない!!


**ハエ**

まぁ、それでいいでしょう。

アナタは。

アナタの様な聖職者と話しても、

こちらも何も得るものはないのです。


**司教**

その切り捨てたものは・・・


**ハエ**

さぁ、もう終わりです。


**司教**

待ちたまえ・・・

信仰というものを・・・


**ハエ**

私は蠅ですからね。

信仰というものの事なんてわかりませんよ。

そんなものは、十字架にかけられた

アナタ方の総大将にお聞きなさい。

だから我々に言える事はこれだけです。

アナタは悪魔を退けたのではない。

アナタの魂には魅力がない。

だからいらないのです。

どんな悪魔も。

それだけです。


**司教**

待ちたまえ・・・

その切り捨てたものの中に・・


**ハエ**

お忘れなさい・・・

真実はアナタにふさわしくない・・・



<蝋燭がふっと消え、

部屋が真っ暗になる・・・>



**司教**


何だ?

誰もいない・・・

私は一体、誰と話していたんだ?

蠅が話をするなど、馬鹿げた事を・・・


神父は留守か・・・

私は幻を、夢を見たのか?

そうに違いない。


しかし嫌な夢だ。

見るべきものではない夢だ。

生きている間は。


冬の凍り付いた湖の中の鯉の様に、

我々が見なくても、

そこに存在するモノはいるのかもしれない。

身も心も凍り付く・・・

もしも、この世の何処かに

そんな真実が眠っているのだとしても、

そんなものは絶対に見るべきではない。


見るべきではないのだ。





<場面が変わって、市街>




**花売り**

ああ、なんて素晴らしい日々だろう!!

なんて、素敵な空だろう!!

こんないい日に、なにか悪い事なんて起こるものかね。

天使にキスされたみたいに俺は幸せなんだ!!

ああ!! 見てくれ!!

このオキナグサの花を!! オダマキの色を!!

神は世界を愛し、世界は神を愛している!!

それこそが栄光というものだ!!

このリンドウのような可憐な少女の魂の輝きこそ、

悪魔をも恐れさせる調和なのだ。

悪しきものが世界にはびころうと、

結局、それらはこういった純粋で無垢なもの・・・

あるいは力強い雄々しき騎士の誇りに対して

苛立たしげに右往左往するだけなのだ!!

世界には光が満ち、歌声が響き渡る!!

それらを恐れては駄目だ。

受け止めるのだ!!

世界の歌を!!

神の歌を!!

恐れずに幸せを見据えれる者は、

心を軽くし、解き放つ栄光の聖歌隊を見る事になる!!



<グローデンフェルト神父、

花屋の前で立ち止まる>



**グローデンフェルト**

ちょっと・・・

あなたは、なんだってそんなに幸せなのでしょうか?

ああ!! 一体、この世界のどこを探したら、

あなたの持っているような

幸せが見つかるのでしょう?

あなたの歌声があまりにも嬉しそうで、楽しそうで、

私の陰った心を、わずかに照らすような気がしたのです。

つい聞き入ってしまいました。


**花売り**

神父様、幸せというのは、感じようとしなければ感じられず、

逆に感じようと思えば、

どんな時にでも、

感じられるものなのではないでしょうか?

目の前にあるどんな小さな幸せでも、

幸せと思ったその瞬間に、

その人の幸せになるのであって、

気がつかなければそれまでなのです。


**グローデンフェルト**

だが、あなたは今、

天使にキスをされたみたいに、

とおっしゃっていましたが、

天使にキスなんて、私はされた事がないのです。

常日頃、神に祈りを捧げている私ですら、

そのような栄光にはお目にかかった事がないのです。

全く人生というものは、

ままならないものではないですか?

まるでミノタウロスの迷宮に迷い込んだみたいに、

明かり一つ見つける事ができないのです。


**花売り**

神父様、明かりとは見つけるものではなく、

自分自身が明かりとならない限りは、

決して輝かないものなのです。

それに、地上にいる天使の数よりも

人間の数の方が多いんですから、

天使にキスされた者なんて数える程しかいないでしょうね。


**グローデンフェルト**

いや、しかし、神学論から言うとですね、

天使の数は、地上の人間の数よりも多いはずなのです。

だから、大勢いる天使の中の一人が、

私にキスをしてくれたって

いいのではないでしょうか?


**花売り**

私は、神の国にいる天使の数も入れて・・

と言ったわけではないのですよ。

地上にいる天使の数と言ったのです。

だからやはり、天使は地上には少ないので、

全部の人間にキスをして回るわけにはいかないのです。


**グローデンフェルト**

なるほど。

しかし、そうなると、

天使にキスをしてもらえる幸福な人間と、

天使に巡り会えない不幸な人間とに分かれてしまいますね。

だから、貴方みたいな幸せを持っている人間と、

私みたいな不幸な人間が

生まれてしまうというわけです。


**花売り**

神父様、世の中は平等ではないのです。

もしも、世の中が平等だったら、

詩人は何を嘆けばいいというのでしょうか?

劇作家はどんな悲劇を書けるというのでしょうか?

それに、凡人はどうやって晴れた日を喜べばいいでしょう?

雨の日も無いというのなら!!


でも、誰の目の前にも、幸せが存在するという意味では

本当は皆平等なのです。

分けられるとしたら、

すでに自分が持っている幸せを見つけられる人間と、

見つけられない人間ではないでしょうか?


**グローデンフェルト**

しかし、あなたは

悪霊に取り憑かれたりしていないでしょう?

毎夜、女の屍が枕元を訪ねて来る事もない。

だから、そういう事が言えるのではないでしょうか?


世の中には、生まれた時から

不幸な宿命を背負っている者もいるのです。

例えば・・例えば惚れた相手が、

決して結ばれない相手だったらどうでしょうか?

そんな不幸な事はないのではないでしょうか?


**花売り**

私の幸せが、私の物なのと同じように、

あなたの不幸はあなたの物なのです。神父様。

だから、あなたがどんな不幸を背負っているか?とか、

そんな事を私に延々と

語って聞かせても無駄というものです。


同じ事で、私が、私の幸せをあなたに聞かせても

神父様には理解できないものなのでしょう。

しかし、それは当然なのです。

その幸せは私の幸せだからです。

私の幸せは他人から見れば不幸かもしれない。

だから、あなたは、

あなたの幸せを自分で探さなくてはいけません。


惚れた相手が、決して結ばれない相手だったら?

私だったら、

その相手に私の育てた花をプレゼントするでしょうね。

結ばれない相手かもしれませんが、

花をあげてはいけない相手ではないのだったら。

ならば、相手の少しでも喜ぶ顔を見ようとするのは

いけない事でしょうか?


暗闇の奥ばかりを覗くのではなく、

少しでも明るい光を照らしていくのはどうでしょう?

そうすれば、その夜な夜な現れるという、

墓場の幻影も消えるのではないでしょうか?


結局の所、天使にキスをされたいのなら、

天使に愛される人間になるしかないのです。

どうです?

試しに、この花でも買っていっていかれては?


**グローデンフェルト**

白ユリか。

まさにあの子にぴったりだ。

ああ、一つもらおう。



<グローデンフェルト神父、花屋から花を買う>



<場面変わって、

数日後、神父が礼拝堂で一人悩んでいると、

ティオフィリスが入ってくる>



**ティオフィリス**

神父様?

私には神父様が、

何かとても悩んでいらっしゃるように見えるのです。

私にはわかりますよ。

えっへっへっ

私は何もできないのでしょうか?


私はね、神父様を愛していますよ。

ああ、私にとって特別なお方。

でも貴方は思い詰めている。

そう・・私の事で。

私は・・・邪魔なのかもしれませんね。


**グローデンフェルト**

何を言うんだい。

おお、ティオ!!

私こそおまえを愛している。

その汚れなき魂を!!

おまえが近くにいてくれるだけで

どんなに心が健やかになる事か!

お前は知らないのだ。


もはや、今の私は、お前がいてくれなくては

生きていけないだろう。

この信仰を捨てなくてはならないとしても。


しかし、私のような、穢れた男の悩みなどは、

美しいお前には無縁のモノなのだよ。ティオ。

すまない。

私はおまえが羨ましいのかもしれぬな。

神に愛されている子よ!!

天使の祝福こそ似合う子よ!!

なぜ、主は私のような者を

お造りになったのか?と思ってしまうのだ。


**ティオフィリス**

ああ、神父様!!

それは、私も同じです!!

なぜ私達は、暗い墓場の土の道を

踏んでいかなければならないのでしょう?

多くの世の恋人達には、

教会の鐘の音が祝福するというのに!!

ああ!! そして、それは

きっと神の王国に続いている道だというのに!!


**グローデンフェルト**

いや、そう言ってはいけないよ。

おまえの道が

主への王国に続いていないはずがない。

だからこそ、お前には

私の心はわからないのだ、ティオよ!!

おまえは神に愛されているのだから!


**ティオフィリス**

えへへ・・

神父様・・・

私は汚れていますよ?


**グローデンフェルト**

何を言う。


**ティオフィリス**

私が汚れていない・・・と、どうしてそうおっしゃるのです?

確かに私は、その貴方にとっての

天使を演じようと思えばできましょう。

ええ、お安い御用ですとも。

しかし、それでは貴方を救えないと私は思う。

人は時として真実を見なければ。


**グローデンフェルト**

真実?

私には見えていないと?

お前の姿が?


**ティオフィリス**

鏡の様なものなのですよ。


**グローデンフェルト**

鏡?


**ティオフィリス**

はい。

他者は鏡の様なものでしょう。

鏡に映っているのは自分の姿。

だけど、真逆に映し出されているから、

それは自分の姿というわけではない。

だから他人に見える。


**グローデンフェルト**

わからんな。

ティオ。


ああ、勿論、お前の事はわかっているよ。

さっきのは例えで言っただけだ。

お前だとて、心に様々な事を想い、

抱え生きているのだろう?

それはわかっているよ。

だけど、これは呪いなのではないか?と思う。

私にかけられたこれは。


**ティオフィリス**

神父様。

では、その呪いが

相手にはかけられていない・・と、なぜ思うのですか?


**グローデンフェルト**

それは当然だ。

つまり、私は不完全だった。

魂が・・・信仰が・・・

私は・・・

そう私は、出来るものならお前のようになりたかった!!

ああ、ティオ!!

おまえが楽園に行ったとしても、

私はその場所にいる事は叶わないのだ!!

おまえを世界の誰もが愛するだろう。

私でなくても!!


**ティオフィリス**

やはり、私はどうも、

貴方の天使を

演じなければいけないという事ですか。


**グローデンフェルト**

いや、

演じるのではない!!

お前は天使だ。


**ティオフィリス**

天使ではありません。

私もまた呪われています。


**グローデンフェルト**

ああ、すまない。ティオ。

少し一人にしてくれないか。

すまない。


**ティオフィリス**

はい・・・。



<ティオフィリスが礼拝堂を出ていく。

グローデンフェルト神父、一人で思い巡らす>



**グローデンフェルト**(独白)

ああ、白百合の花を渡しそこねてしまった。


なぜ私はあの子に

白百合を渡す事ができなかったのだろう?

この感情は何なのだろう?


嫉妬?まさか!?

おお!! 主よ!! 私は嫉妬しているというのでしょうか?

あの子に!?



<残された神父の前に

再び悪魔ビビコット子爵が笑いながら現れる>



**悪魔ビビコット子爵**

その通りよね。神父。


**グローデンフェルト**

悪霊め。何の用だ!!

不吉な少女め!!

わざわざ姿を変え、私をあざ笑いに来たのか!!


**悪魔ビビコット子爵**

まぁ、そう言わないで下さいよ、麗しい大先生。

この姿はね、ちょいとそこの墓地から

女の死体を拝借したまでですよ。

見てくれというのはね、

この場合、あんまり

決まっていない方が都合が良いものなの。


この間、私の言った事。

悪い話ではないと思っているでしょう?


**グローデンフェルト**

馬鹿な!!

ティオを地獄に連れていくなど!!

私がそんな狂気の沙汰を実行すると、

少しでも思っているのならば、

悪霊め!! おまえの人を見る目は大した事はないのだ。


**悪魔ビビコット子爵**

あー、そうかもしれないわね。

昔に比べて・・・、それこそ遥か大昔に比べて。

それでも、大海の遥か彼方の、

船の乗り組み員の数位、数えられますからね。

それに比べたら、

アンタの心の中の、その淀んだ単純な傷跡を

見逃さない事なんて容易いものですよ。

アンタが一人で孤独に地獄に落ちる事を、

どれだけ嘆き悲しんでいるかなんて、手にとるようにわかる。

まぁ、その事に関しては、

旦那が後ろめたさを感じる必要はないと思いますけどね?

ああ、だって、そんな事が平気な人間なんて

いやしないんだから!


**グローデンフェルト**

確かに、私は地獄に行く人間だ!!

その事は恐い。

恐怖だ!!

だが、なぜ、ティオを道連れにするなどと考えようか!!

ティオは天使のような少年だ。

ああ、心は強く、魂は賢い。

いつだって、彼は神の国に召されるだろう。

そして、ああ!!

最も主の玉座に近い

ゆりかごで眠る事を許されるだろう!!


私やお前のような呪われた業もない!!

お前のような哀れな者が住む地獄には生涯、

いや!! 永遠に縁がない魂を持っているではないか!!

わかるか?悪霊よ!!

腐敗のように醜悪な地の底で生まれる魂もあれば、

この世には明るい楽園で

永遠の約束をされた魂も存在するのだ!!

わかるか?悪魔の小間使いよ!!

この私の、この惨めな男の魂が!!

私のような男にどれだけの光が指したか!!

彼の優しく美しい魂で、

私がどれだけ救われただろうか?


**悪魔ビビコット子爵**

うへぇ・・・

その人間特有のね、

美しさと優しさを一緒に考える悪癖は

やめてくれないかしら。


美しさは悪魔が。

優しさは天使共が管轄してるものでね。

お綺麗な顔して、

いろいろ策略を巡らしているものよ?

天使だってね。


**グローデンフェルト**

美しい心が外見を作るというものだ!!


**悪魔ビビコット子爵**

あはっ、

なかなかの惚れっぷりね。


**グローデンフェルト**

なんだと!?



<グローデンフェルト神父、

懐から聖水を取り出し、悪霊にかざす。>



**グローデンフェルト**

私がお前のような悪霊に取り憑かれ、

何も用意していないと思ったか?

これは聖水だ!!


**悪魔ビビコット子爵**

ああ、そんな怖いものは永遠にしまっていてほしいわね。

少なくとも私達、夜の霊には、

とても恐ろしいものなんですから。

でも、それ、入ってるのかしら?


**グローデンフェルト**

当たり前だ!!

私が用意したものだ・・・、



<グローデンフェルト神父、

聖水の瓶を見つめる。

瓶の中が空になっている事に気づく>



**グローデンフェルト**

!?馬鹿な!?空っぽだ!!

お前の仕業なのか!?


**悪魔ビビコット子爵**

誰にでもできる事じゃないのよ。

でも長生きは時として、それだけで学ぶ事になる。


**グローデンフェルト**

まやかしだ!!

おまえのように女の外見で人をたぶらかそうと企んでも、

真実の美しさというものの前には、

色褪せ、遠く及ばないものなのだ。


**悪魔ビビコット子爵**

あのね、神父様。

一応、言っておきますがね、

この外見は今回は

そういう為のものではないでしょう?

男色相手に、女の恰好で

色気振りまいても仕方がないでしょう?

そのつもりがあれば、男の姿で現れますよ。

旦那があっという間にあのガキを忘れるくらいのね。


**グローデンフェルト**

バカを言うな!!

おまえのような醜い悪霊に!!


**悪魔ビビコット子爵**

女の姿がお気に召さないのなら

お望みとあれば、

汚物の姿で現れる事もできますけどね。


今回の商談は、まとめたい取引がはっきりしていて、

支払う代価もはっきりしている。

早い話、見栄もはったりも必要ないじゃない。

あんたが、あの美少年と一緒に、

私達と契約をしてくれればいいんだから。


**グローデンフェルト**

ふん。

そんな狂った契約をするものか!!


**悪魔ビビコット子爵**

地獄行きが決まった人間にしては、気取った態度ね。

だけど、あんたの心の中にはいつだって、

暗い孤独よりも醜悪な嫉妬の心が宿っている。



<悪魔ビビコット子爵、

グローデンフェルト神父の手をとって言う>



**悪魔ビビコット子爵**

だから、お前の愛おしい男も

連れていけばいいじゃない。

神父様!!

2人連れ立って行きゃ、地獄だって悪くない。

そういうものでしょう?

我らの王国の友人はお前達を何よりも、

誰よりも、歓迎するでしょうよ?


**グローデンフェルト**

私の心の中を覗くのはやめろ!!

悪霊!!


**悪魔ビビコット子爵**

聞き飽きたわね。

だけど、そうでしょう?神父様。

あんたはあの少年に恋をしてる!!

嫉妬してる!! 憎悪してる!!



<悪魔ビビコット子爵、くるくる回りながら歌い出す。

グローデンフェルト神父はその歌に聞き入って、

自らも歌いだしている事に気がつかない>



**悪魔ビビコット子爵**

おお、何より美しく、

そして、主の愛に恵まれたティオフィリス!!

何の悩みもなく、何の罪もなく、

全てから祝福され愛され、生きる清らかな少年。


ああ、だけれど、神父様はそうじゃない。

その薄汚れた聖職の服はどう?

その罪悪にまみれた汚いツラは?

あんたは魂すらも汚れてしまってる。

あんたは地獄を恐れ、

誰からも愛されずに、痩せ犬のように生きるんだ。

天使共すら死後、あんたの魂を拾いやしないよ。

神父様には必要なのさ。

少年の魂が。

美しい温もりが。

なぜって、一人じゃ凍えちまう。

あたいの友人達はね。いつだって凍えている。

魂が無いからね。

魂が必要だ!!

特に神に愛された宝石みたいな魂ならなおさらね!


**グローデンフェルト**

おお、何より美しく、

そして、主の愛に恵まれたティオフィリス。

何の悩みもなく、何の罪もなく、

全てから祝福され愛され、生きる清らかな少年。

おお!! その通りだ!! 私はお前に嫉妬している!!

孤独を恐れている!?

なんと浅ましく、汚らわしい私の心よ!!

愛する者を裏切って、

誰が私達を祝福すると言うのか!?


**悪魔ビビコット子爵**

悪魔が祝福するわ!!


**グローデンフェルト**

おお、なんと呪われた世界だろう!!


**悪魔ビビコット子爵**

呪われていて、歪んでる!!


**グローデンフェルト**

私だけ一人、主の恩恵を受けることなく

地獄に落ちることが決まっていたのだ!!

ああ、ティオ、お前はいつだって美しい

祝福に包まれているというのに!?

お前が恨めしい!! 憎らしい!!

おお、救ってくれティオ!!

私にはお前が必要なのだ!!

例え、この身が地獄の豪火で焼かれようとも、

お前がいてくれれば!!

他の事などどうでもいいのだ!!

ああ、例え、悪魔に魂を売っても!!


**悪魔ビビコット子爵**

ようやく本音が出たというわけね、神父。

それがあなたの本音?


じゃあね、神父様。

毒を盛って、ちょいと来てもらうはどうかしら?

こういうのは、海ウサギの毒がいいって決まってるの!!

古い連中のご機嫌を損ねない事が肝心だからね。


**悪魔ビビコット子爵**(独白)

しかし、あのガキは確かに少々厄介ではあるな。

なんだか、むずむずと嫌な鳥肌が立つ野郎だ。

ああいう手合いは、こちらから先手をうって、

早めにカタをつけちまうのが上策かしら。


しかし全く、なんだって私も

いつまでこんな深淵で労働をさせられるんだろうね?

ひょっとして自分に原因があるとか?

あのクソ神父のように?

・・・まぁ、どうでもいい事だ・・。

本当にね、神父様。

どうでもいい事だよ。

続きます。


次回も読んでいただけますと嬉しいです~。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ