#01-09
最初に発見した遺体、ケルベロスの人の所へ着いた。周りに動く反応は無い。
二人で近づくと合掌してからブーツを脱がせる。
「モカシンのブーツか。あとこのピチパンも貰っていこう」
「ピチパン?」
「カプリだか、サブリナだか言うらしいがファッション……だけに関わらず女失格な生き方をしてきたからね。深くは突っ込まないでくれたまえ」
ズボンを脱がす際、見てはいけない所も見えてしまったりするが、生きるためだ、勘弁してください。
「しかし、コーデとしてはチグハグすぎるな。まぁ、仕方ないか。ブーツは後で履くよ。今は
巻いた布だけでも枝葉には耐えてるから、傷の具合がもう少し良くなってからにするよ」
確かに傷だらけでブーツを履いても痛いだけかもしれない。彼女の言葉に頷いてかえす。
「に、しても凄い美人さんだね」
「サヤも凄い美人さんだよ」
「フフフ。何も出ないよ?」
「いや、他の男性の遺体も2人ともイケメンだったんだ」
その言葉にサヤは俺の顔を見ながら腕を組んで考えこんだ。
「キャラメイクをされたみたいだね。クロウもかなり整った顔をしている。なんだか体をいじり回されたようで気持ち悪いね。だか、美形になったと言うならば美容整形をタダで受けれたと前向きに思い込むとしよう」
「だな。俺なんか、これ、どう思う?」
そう言って服をめくって腹を見せる。
「凄い……シックスパックです」
「だろう? 俺、ここに来る前はポッコリビール腹だったんだ。これ知ったらライ○ップの人、顔真っ赤にして怒るだろうな」
俺たちは下着姿になった女性の遺体の前で不謹慎にも声を上げて笑った。すんません。成仏してください。なんまんだぶなんまんだぶ。
「どうしよう。この人、埋葬する?」
「そうしたいのは山々だが、道具もないしいい加減時間もヤバイ。腹が減ったのもあるけど水は確保しておきたい。木々の葉の色から夏の終わりから初秋って感じだから日が暮れるのも早いかもしれな」
春から夏にかけて広葉樹の葉の色は淡い緑から段階的に濃くなっていく。だが秋に近づくと種類にもよるが紅くなったり茶色に色づく。
まぁ、これぐらいなら誰でも知っていることだろうが濃い緑の葉の時も段階がある。濃い緑の葉をみて季節を予想できるのは俺の職業ゆえだろう。
「秋ならば木の実が期待できるかな?」
「どうかな、実がなってても食べられるほど熟れてはいない時期に感じるんだが、まぁ、見つけられたら考えよう」
行こうか、とサヤを促すが彼女は逡巡する素振りを見せた。
「クロウ、やっぱりこの人、顔だけでも綺麗にしてあげたらダメかな?」
「駄目じゃないさ。さっきの水が出ている所まで戻ろう」
山の中の歩きにくい斜面だとしても往復で300メートルと言ったところだ。
たぶん、しばらくしたら甘い考えだと思うんだろうな。だがまだ、人の心は失いたくない。
「ほら」
そう言ってしゃがむと背を向ける。
「いあ、歩けるよ」
「まだ痛むだろう。イザという時まで取って置いた方がいい。それに俺のシックスパックも伊達じゃ無いみたいだからね」
サヤを背負って水が出ている所まで戻る。なんだか同じ所を行ったり来たりしてるな。ぜんぜん事態が改善しているように思えない。
まぁ、右も左も分からないんだ。今は独りじゃない分マシだと考えよう。
「サヤ、矢を1本貸して」
矢を受け取ると軽業の人のポロシャツを裂いた要領で俺のカーゴパンツのポケットを1つ切り出す。
「ハンカチぐらいにはなるかな?」
「ありがとう」
サヤは渡された布切れを一度両手でギュッと握り締めると岩に押し当てる。たっぷりと湿らせた布を大事そうに両手で包むサヤを背負って、また来た道を戻る。
半ば程まで近づいたとき探知画面に変化が現れる。
ケルベロスの人に緑の点が近づいていた。