#01-06
え? 弓? なんですかそれ。ああ、そう言えばそんなものもありましたねぇ。
嫌だなぁ、そんな原始的なもの僕様が使うわけないじゃないですか。時代は銃ですよ、銃。見てくださいこの銃。散弾銃ですよ。散弾銃と言えば紳士のアイテムですよ。この僕様に相応しいと思いませんか?
まだ1発も使ってないけどね!
再び弓を封印し、そう自分に言い聞かせながら俺は次のポイントに進んでいた。
今度は黄色い点がない。弓の人と軽業の人の延長線上を進んでいるのだ。
この先に進んでも誰も居ないかもしれない。だが俺は一縷の望みに賭け、生存者が動き回っていると考えたのだ。
しかし、相手が俺よりもチートな武器を持ち、危険な思想の持ち主ならば命に関わる。
俺は足音をたてないように慎重に進んだ。
体感だがおよそ等距離であろうポイントに来た。やはり誰も居ないし遺体もない。
茂みに身を隠すと今後のことを考える。進むか戻るか、それとも待機か。俺は山の斜面を横に歩いてきた。まだ上と下という選択肢もある。
いや、上はナシにしよう。もし、人里があるとしたら暮らしにくい山頂よりも、山裾に広がる平地を探したほうが遭遇率も高いだろう。
俺をここに送り込んだあの声の主の言葉を信じるならばここは異世界だ。ひょっとしたら人のいない世界かもしれないが。
そう悩んでいると探知画面に変化があることに気がついた。緑の点と赤い点がこちらに近づいてくる!
俺は茂みからそっと顔を出しその方向を伺う。
……人だ! 銀髪、小麦色の肌に黒ジャージの女性がこちらに向かって走ってくる。
「ゴォオオオ!」
そのさらに後から獣のような咆哮が聞える。視界の狭い探知マスクを下にずらすと首からぶら下げる。
彼女を追っているのは……熊だ! 四つん這いでも軽ワゴン車並みの大きさの熊だ!
「こっちだ!」
俺は思わず声を上げた。彼女もそれに気づいたのか進路を俺の方に修正した。良いぞ! 逡巡する事なく俺の方に向かってくる。凄い決断力だ!
対して熊は俺の声に足を止め、立ち上がって俺に視線を向ける。いける! 俺も茂みから出て彼女に向かって走る。走って……俺、どうするんだ?
いやいやいや、俺、銃! 銃があるやないか!
一瞬、頭が真っ白になったがすぐに正気が戻ってきた。俺は銃を抜いて構える。まだ俺と熊の間に彼女がいるので撃つことができない。
「俺の脇を走りぬけろ!」
今度は弓の時みたいに無様なことはできない。至近弾をブチ込んでやる!
あ、そう言えばこの弾、バックショットって熊を倒せるのか? 猪ですでに倒せないような話を聞いた覚えがあるんだけど?
全身から滝のように汗が噴き出る。
いや、だったら口に突っ込んで脳ミソぶっ飛ばしてやらあ!
彼女が俺の脇を走り抜ける。
「うおおおお!」
もう気合だ! 気合しかねぇ! 俺は銃を構えた手をいっぱいに熊に突き出す。
クソ! 口の中まで届かねぇ! 構うもんか! 俺に咬みつこうと大口開けてやがる!
「往生せぇえやああ!」
パパパカァアアアン!
一気に3発ぶっ放す。強烈な反動で腕が真上まで跳ね上がる。
ッシャアアアアア!
熊は下顎だけを残してその頭を爆散させた。
そして俺は反動を殺しきれず尻餅をついてしまう。その俺の目の前に熊が倒れこんできた。慌てて後ずさるが少し返り血を浴びてしまった。