#01-04
黄色い点への距離に変化があった。10メートルほど歩くと、若干近づいた。これならあと300メートル程だろうか。と、すると、この探知の範囲も半径でそれぐらいか。
この黄色い点が何を表しているのか分からないので、音を立てないように気をつけながら草木に身を隠しながら慎重に進む。
目的の黄色い点は先程から全く動いていない。生き物ではないのでは、と思いはするが夜行性の動物が寝ている可能性を考えながら風下を選びながら移動する。
20メートルほどまで近づいたところで目的地に何があるかが判明した。
それを目にした瞬間から俺は走りはじめた。そこには人が倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
声をかけながら近づくが、遠目からでも死んでいることがわかるほど、その肌は土気色だ。
倒れているのは茶髪の女性。年の頃は20代前半と言ったところか。目、耳、鼻から血を流し両手で頭を掻きむしるような体制で固まっている。呼吸、脈拍無し、彼女の服で顔の血を拭いて心肺蘇生を試みようとして気が付いた、血はかなり固まり始めている。まだ死後硬直は始まっていないようだが、死後それなりの時間が経っているように感じる。専門家ではないのでよく判らないが今から心肺蘇生をやっても無駄じゃないかと思えて仕方がない。
だが、やらないというのも躊躇われる。携帯もスマホも無いため救急車を呼ぶことができない。いや、もう助けられる気が全くしないのだが、どうしたものだろう。
とりあえず心臓マッサージと人口呼吸を5分ほど繰り返して諦めた。
映画リ○グにでてくる竹○結子もかくやと言った死に顔をなんとか整え、両手を腹の上で組んでやる。
こうやって見ると凄い美人さんである。日本人離れした美人さんであるがアジア系である事は間違い無いので俺達と一緒に連れてこられた人だと思う。
さて、状況が状況であるため大変失礼ながら所持品を漁らせていただく。
服装はノースリーブのタートルネックセーターに七部丈のぴっちりパンツ、それとインディアンが履いてそうなブーツ。色は全部黒。
他には荷物も無いようなのでズボンのポケットを漁る。
結果、見つかったのはカード1枚のみ。俺の持つトレーディングカードと似たヤツだ。左上のアルファベットはSR、スーパーレアげっつ。
首が3つある犬の絵に『ケルベロスLv1:経験値0』の文字、その下に四角い枠に囲まれて『・バックショット×12』と書かれている。あれか、ひょっとして呼び出せるのか? 満月で会話にならずマルカジリとか言われたらどうしよう。ケルベロスって、あのゲームのイメージしか無いんだよ。
しかし、俺と違ってカードケースが見当たらない。取り敢えず俺のに入れておこう。
「うおぅ!」
突然の腰への軽い衝撃。思わず変な声が出てしまった。その腰を見ると、今までしてなかった太いベルトが絞められている。
それは黒い革製で左側にポーチが、右側には……
「ちゃ、チャカやでぇ」
いや、チャカなんて物じゃない。ソードオフのショットガンだ。右腰にでかいホルスターで吊り下げられている。
驚きすぎて心臓バクバクいってるよ。取り敢えずホルスターから銃を抜いてみる。
「あー、だからケルベロスかぁ」
その銃には銃身が3本あった。上が水平に2本、その下1本の計3本。
全長は30センチよりもう少し長いぐらいだろうか。マンガや映画で見る物よりちょっと短い気がする。
開閉レバーを親指で捻ると銃身の重さでパカリと開く。
「うわ!」
中にはショットシェルが3つ、すでに入っていた。
こえー! 弾、入ってたんか。銃口覗かなくて良かった!
逆さにして、一旦ショットシェルを落としてから拾い直しズボンのポケットに捩じ込む。それから撃針を見つめながら引き金を引いてみる。引き金が1つしかないから、仕組みが気になったのよ。
1回引くと右上、2回目は左上、3回目は下。この順番で撃鉄が落ちる仕組みだった。
それからシェルを抜いたまま、銃身を戻し、再度開いてみる。開くと撃鉄がコッキングされるようだ。
使い方は解ったので装弾し直し、セーフティーをかけてホルスターに戻した。本当は弾を抜いといたほうが安全なんだろうけど、この先なにがあるか分からない。咄嗟の事態が起きた時、慌てず装弾できる自信はない。多分これが正解だと思う事にする。
ポーチのなかには弾が6発の2列で12発入っていた。銃の中に入っていた分はサービスだろうか。バックショットってあれか、鹿用のやつか。
女性の遺体に合掌すると俺は歩き出した。道具があるなら獣に喰い荒らされないように埋葬するのだが、今の俺にその余裕がない。ごめんね、成仏してください。
それにさっきから気になる事があるんだ。もう1つ黄色い点があるんだよ。