#01-02
「せんせい、さよーならー」
「はい、おならー」
先生なんて呼ばれているが、教師じゃない。市職員現業職、学校主事。所謂、用務員さんて呼ばれる仕事をしている。
主な仕事は草むしり。ハッキリ言おう、楽な仕事だ。いや、他にも文書送達やら、施設の修理やら、やること沢山あるし一日中アクセクしてなきゃいけないから忙しいっちゃ、忙しい。
まぁ、あれだ。俺、この仕事が好きらしい。だから苦にならないんだな。
県庁所在地のあるそこそこ栄えた地方都市。その中にあって都市であることを感じさせない山の中にその小学校はあった。
平安時代、この辺を支配していた豪族の山城跡の上に建てられているらしく、小学校にしては地形が険しい。切り取った斜面に作られた小学校は段々畑のようになっており校舎の屋上の高さに運動場がある。
移動するたびかなりの運動量が必要になるため、同じ主事仲間の中では地雷扱いの場所だ。
オマケに定年間際の校長さんしか赴任してこない。後数年を問題なく過ごしたいためか、人当たりに問題のない俺を手放したくないらしい。特に主事職は普段、先生なんて呼ばれているせいか年寄りになるほど何を勘違いしているのか偉そうな態度をとって周りと衝突する輩が多すぎる。だからか定年まで居てくれと引き止められ、気がつけば8年目。今や一番若手のはずなのにこの学校の主扱いだ。
完全複式学級の全校生徒16人の小さな学校。数年後には近くの学校との合併するとか言われている。
そんな鄙びた場所で働いていた俺にある日大事件が起きる。
50年に一度だかなんだかの大雨らしい。類にもれず学校が避難場所となった。
最近は50年に一度が大判振る舞いな気がするがその名に恥じない大雨が降り続けた。数少ない原住民が避難してくるが、流石田舎と言ったところか、高齢者が多い。消防団の数も足りず遂に俺に声がかかった。
「寝たきりのお婆ちゃんが居るらしくて、ちょっと様子見てきてくれない?」
俺はその声に応えて愛すべきポンコツ軽に乗り込んだ。ワイパーが全く役に立たないほどの豪雨の中、目的の家を目指した。
山と山に挟まれた谷の中の、軽自動車がやっと一台走れる細い道を進む。右は切り取り、左は川だ。川は普段なら3メートルも下をチョロチョロと流れているだけなのに今日は道と同じ高さまで水嵩が上がっていた。ジャバジャバと水をかき分けながら進んでいると、突然ハンドルがガクンと持って行かれる。慌ててカウンターを当てるが俺が覚えているのはそこまでだ。