#01-12
はい。サヤの予想通りでした。
赤毛のバーコードさんが川岸に打ち上げられた状態で身動きひとつせず倒れていた。
緑の点なので生きていることは確かなのだが、助けようと動き出したところをサヤに止められた。
「待ちたまえ。気を失ったフリをして待ち伏せしているかもしれない」
その考えが俺の頭からはスッポリ抜けていた。
「おぅ、そう言うもんか。どうしたら良いと思う?」
すると、サヤは辺を見渡し2メートル程の枝を持ってきた。
「君は鉄砲を構えていたまえ。ボクがこの棒でつつこう」
立ち位置を決めるとサヤが枝、いや棒で叩く。あ、結構強く行くのね。
「う、うぅ」
反応があった。
「おい! 大丈夫か! どこか痛むところとかないか?」
「ガッ! ガハッ! ゴボコボ」
相当水を飲んでいたのか、四つん這いになって水を吐き出している。大丈夫だと俺達に伝えたいのか、俺に向かって手のひらを向けている。
「や、やぁ、やっと人に会えたよ。いやぁ、一時期はどうなるかと思ったよ。なぁ、君たち携帯とか持ってないかい? 会社に連絡取らなきゃいけないんだ」
ああ、この人、まだここが異世界だと認識できていないか、認めたくないかだろうか。
顔だけ見ると20代後半に見えるが、実際の年齢はどれくらいなんだろう?
「自分の年齢、わかりますか?」
ダメ元で聞いてみた。
「え? 年齢? 歳? 私か? 私は54になったばかりだが、それがどうかしたのかね?」
俺はマスクを取って素顔を見せた。
「俺、何歳に見えますか?」
「18から22といったところか?」
「俺、32ですよ」
「ボクの年齢は秘密だ!」
うん。サヤは好きにさせておこう。まだ棒でつついている。
「これから言うことをゆっくり考えて下さい。行きますよ? あなたの名前を教えて下さい」
「わ、私の名前は……私の。こ、これはどう言うことだね!」
「俺達も同じ境遇です。俺はクロウ、こっちがサヤ。二人とも本名は思い出せません」
狼狽えながらも、赤毛バーコードは立ち上がると髪を整え始めた。あ、この人ふだんからこの髪型だったのかな? 動きがナチュラルすぎる。
「で、おっちゃんの名前はなんなの?」
まだ棒でつつきながら、サヤが尋ねる。
「私の名前は卍恐怖騎士よしお卍だ。いや、本名は違う名前のはずなんだ!」
ぐっ。案外マトモな名前じゃないか。俺とは大違いだ。
「そうだ、君のその格好、あれだろ? サバイバルゲーム。芸能人とかもやってる人、多いって聞いたことがあるぞ? 車、そうだこんな山の中まで来てるんだ。車か何かで来てるんだろう? 近くの町まででいいんだ、乗せて行ってくれないか?」
あらら。まだ理解してくれないらしい。俺とサヤは顔を見合わせた。どうしたものだろう。
「えっと、俺達も人里を探してるんですよ。このまま、川沿いに下っていけば見つかるんじゃないかと思ってます」
その言葉に落胆したのだろう。疲れた顔をしながらネクタイを緩め始めた。
「はぁ、君達も迷子なのか。それにしてもここはどのあたりなのだろうね。奥多摩あたりだろうか」
あら、サヤさんや、そんなに露骨に嫌な顔しなさんな。
「俺、地方の人間なんで東京の方のことはあまり知らないんですが、丸一日たって飛行機の音も聞こえませんし、この辺の植物も見たことないものばかりですよ」
「とんでもない田舎に置き去りにされたということか」
疲れ果てた顔でハァと深いため息をつく。ため息をつきたいのはこっちだよ。
人の話が聞けない人なんだろうか。それとも長年蓄積された常識が邪魔をして現実が受け入れられないのだろうか。
どちらにしても、余りここで時間を無駄にしたくない。サヤを見ると彼女もこちらを見た。なぜか首を左右に振っている。どういう意味だろう?
「俺たち、そろそろ行こうと思いますけど、どうされますか?」
「えっ? どこに行こうと言うんだ?」
あかん。頭痛い。