#01-11
魚は正直言って不味かった。せめて塩が欲しい所だ。焚き火の煙で燻されたのか、臭みは気にならなかったが、そのまま煙の臭いがした。
「じゃ、あの魚はブラックバスなのかい?」
「実物見たことないから断言できないけどね」
俺達は魚を食べたあと、移動を再開していた。発砲音を聞きつけて危ない奴が現れても困るからだ。
銃には3発装填済、残りの弾もポーチから全て出しホルダーに差している。いつでも戦える状態だ。
「でも、ブラックバスって、上流に居るもの?」
それは俺も考えていた。俺が知らなくて上流でも普通に居るものかもしれない。
「考えたんだけど、ひょっとしたら中流が近い、とかじゃないかな?」
「あー、で、たまたま上流に迷い込んじゃった説?」
「または、俺らが知らない未知の生物説」
「熊も大きかったしね」
「熊の大きさってのも良く知らないけどね」
俺達は喋りながら歩く。サヤの手には尖端が熾火になった少し太い枝が握られている。大切な種火だ。時折、息を吹きかけ火を維持している。
あたりはかなり薄暗くなってきている。話し合った結果、少し開けた場所を見つけて野宿することにした。
サヤが焚き火の番をしている間、俺は倒木などを組んで三角にすると、川沿いにたくさん生えているススキっぽい草で屋根を作る。
川沿いは日が当たるのか蔓などもあって材料には困らない。問題は刃物が鏃しか無い事だ。
俺がテントを作り上げた頃、サヤは焚き火の横で矢筒を枕に寝ていた。
俺は彼女を起こさないようにそっとテントに運ぶと、焚き火の横に座った。日を絶やさないことで野生動物が寄ってこないのを祈る。熊や狼は火を恐れないって聞いたことがあるが俺には分からない。
夜の帳が下りてきていた。遠くから何かの生き物の声が聞こえる。
俺は探知画面を食い入るように見つめていた。
突然、顔に違和感が走る。
「あ、ごめん。起しちゃったね」
俺は眠ってしまっていたみたいだ。もうあたりは明るくなってきている。
「寝ている間、その探知マスクを借りていたんだよ。明るくなってきたから返したんだけど、カードケースに戻した途端、顔にマスクが現れたんだ。私が借りた時もそうだったのに失念していたよ」
「あ、いやこちらこそゴメン。いつの間にか眠ってたみたいだ。夜の間、何もなかった?」
「あー、凄かったよ! 君にも見せたかった。ここは本当に異世界なんだね。月が3つもあるんだよ!」
マジか。潮汐力とかちょう気になる。
「マジかー。そう言えば夜の間、ずっと起きてたんだろう? 体調とか大丈夫?」
「実は起きたのはそんなに早くないんだ2時間くらいかな」
じゃ、かなりの時間、2人で寝ていたのか。何もなくて良かった。
「一応、身の回りの物がなくなってないか見てみよう」
と、言ってもそんな色々持ってる訳じゃないけどね。
「うお!」
俺はそれを見て変な声を上げてしまった。
「弾が増えとる」
昨日、ポーチの中を空にしていたはずなのに、ポーチの中には弾が12発入っていた。ベルトのホルダーに差した弾はそのまま残っている。これで計22発あることになる。
「え? ボクの矢はそのままだよ。2本、鏃がないままだよ」
て、ことは
「条件はポーチ、矢筒から弾や矢を抜いておくことかな?」
「今晩試してみよう」
火が消えてしまった以外はなんの被害もなかった。幸運としか言いようがない。
熊が出るような山中だ。今日も野宿になるならばなにかやり方を考えないといけないな。
俺たちは移動を再開した。喉の渇きと、空腹が気になる。水はすぐ側にあるんだが生水を飲むのは怖い。せめて煮沸したいが鍋になりそうなものがない。
魚を捕まえるのも、昨日のアレはただのラッキーだろう。だが準備はしておこう、次はキチンと漁と呼べるものにして確実性を狙いたい。道々、蔦を見つけては籠状に編んでいく。あまり細い蔓がないので完成するか甚だ疑問だ。
「あっ!」
1時間ほど歩いただろうか、サヤが声を上げてしゃがみこんだ。
「これ!」
彼女が手に持っていたものは何かの欠片だ。
「これ、素焼きか?」
「植木鉢っぽいよね」
植木鉢にしては薄い気がする、食器か壷だろう。明らかに文明の欠片だ。
「人がいるね」
「人里が近いかもしれない」
ひょっとしたら人類がいない世界かもしれないとは話し合っていた。だが、一縷の望みをかけ川沿いを下流に向けて進んでいた。人里は現代日本であっても川沿いが多い。
問題は友好的な接触ができるかどうかだ。
「すぐに戦えるようにはしておこう」
俺がそう言うと、サヤは背負っていた弓を降ろし手に持つことにしたようだ。
更に進むことおよそ1時間。俺の探知画面に反応があった。
「止まって。反応があった。緑の点、プレイヤーかもしれない。その場でジッとしてる」
「赤い人かな?」
「それだと、通常の3倍速そうだな」
俺は緑の点をジッと見つめる。この位置だと川沿いか?
銃をホルスターから抜くと足音を立てないように慎重に進みはじめた。