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スターダスト・オデッセイ2  作者: わびすけ
第一章 異世界へ
10/51

#01-10



 「サヤ、生きている人間がいる。君と同じ緑の点で表示されている」


 サヤを静かに降ろすと、小声で説明する。探知マスクのことは事前に説明していた。理解してくれるか不安のある説明しかできなかったが彼女はすんなりと理解してくれた。


「NPCか、プレイヤーかの差はわかる?」


 NPCって、この場合俺達に関係ない一般人で、プレイヤーは俺達関係者って事でいいんだよな。


「自分は青点で表示されてるんだ。生きている人間は君しか見てないから分からない。熊は赤点で表示された。ひょっとしたら危険な奴が赤で安全な奴は緑かもしれない」


「フフフ。ボクはキケンな女かもよ?」


 勢い良く腰にシナをつけるとバチコーンとウィンクしてくる。そう言う意味ではコイツに危険性は無いな。


「とにかく、接近して確かめたい。協力できる相手なら協力したい」


「できないような相手なら?」


「逃げよう。無理そうなら殺す」


強めの言葉を使ってみたが、サヤは眉ひとつ動かさない。


「賛成だ。でもボクの弓の腕は期待しないでくれよ?」


 それから俺達は斜面を登ると高い場所から視線が通りそうな場所を探す。

 程なくして視界の通る高台を見つけた。しかし、距離にして30メートルぐらいか、意外と近い。

 しばらくケルベロスの人を見張っていたら目標が見えた。人間の男だ。全身黒のスーツ姿だがヤクザと言うより、疲れきった葬儀屋の人のようにしか見えない。何より特徴的なのはイケメンフェイスに赤毛のバーコードヘアーだ。


「アレは人間なのかい? ボクには妖怪の類に見えるよ」


 同感だ。アンバランスさに、なんだか不安を掻き立てられる。

 それでも様子を見ているとやっとケルベロスの人の遺体を発見したようだ。彼は恐る恐る近寄ると声をかけているようだ。その声は小さすぎて聞こえない。

 覗きこむようにしばらく声をかけていたがやっと死んでいることに気がついたのだろう。

 いきなり尻餅をついて後退りをはじめる。そして、激しく辺を見渡すと、脱兎のごとく山を駆け下りていった。


「妖怪はあんなビビり方しないよね」


「明らかにプレイヤーだね。地元の山中で死体を見つけたらボクだってああなる自信があるね」


「だな。でも現状は理解できてない気がする」


「どうしよう。下りて行っても大丈夫かな?」


俺は視界から消えた赤毛バーコードの人の反応を探知画面で追っていたが、彼は一直線に離れていった。


「大丈夫そうだ。周囲の警戒は俺がやるから、あの人を綺麗にしてやろう」


 それから俺達はケルベロスの人の顔を綺麗にしてから、山を下りはじめた。


 結構な速さで山を下り続けていたが、一向に赤毛バーコードに追いつく気配がない。

 時間的な差はあるとは言え探知画面には映らない。時折、足を滑らせたであろう後を発見するから俺達が後を追う形になっているのは間違いない。

 いや、別に後を追うつもりはないのだ。最初は出会わないように方角を変えて下り始めたのだが俺達の前に回りこむように、その痕跡が見つかるのだ。

 しばらくすると俺達の耳に、今までと違う音が聞こえてきた。


「川だ!」


そう、川の音だ! どちらからとなく叫ぶとサヤが走りだした。


「待て! 足下気をつけろ! 山の川は落差があるぞ!」


 俺の静止の声にピタリと気をつけの姿勢で彼女は止まった。


「上流って時間をかけて岩を削って流れてる場合が多いから足場が崩れやすい。よく素人の山歩きで死ぬ人のニュースがあるだろ? あれ、大体川沿いの事故なんだ。滑りやすいし崩れやすいんだよ」


 俺はサヤに追いつくと並んで歩き出した。足場を確かめつつ慎重に進む。川が近く開けた地形があるためか、藪が濃くなってきた。

 この生えてる草がなんなのかよく分からないが、案外硬い。

 サヤの足でこの藪を突っ切るのは危ないんじゃないかな。また切り傷が増えそうだ。

 俺達は藪を突っ切ることなく川と平行に進み楽に川へ出られる場所を探した。


 しばらく進むと見通しがきくほどに藪がきれてる場所を見つけた。

 一度俺が先行して足場を確かめると、サヤを迎えに行く。背負ってはやらない。人の大きさほどの岩がゴロゴロしてるんだ。コケて大怪我させる未来しか見えない。

 サヤも俺のシックスパックじゃないが、身体能力はかなり高いらしい。まぁ、熊から逃げ延びる程だからな。

 痛さを我慢しながらであっても危うげなく川の縁までたどり着くことができた。


「音から期待していたほど大きさはないねぇ」


 そうなのだ。幅4メートル程の小さな小川が流れているだけなのだ。深さは1メートル程。


「案外、大きな魚がいるね。でもアレ、コイでもフナでもないねぇ」


デカイ、と言っても40センチぐらいだろうか。俺にはスズキに見える。ひょっとしたらブラックバスかもしれない。俺、バス釣りはしたことないけどスズキは釣ったことあるんだよ。

 でも、バスってこんな上流にいるのか?まさか外来種か! 誰か放流しやがったかな? ここが池なら水全部抜きたい。


「どした?」


おっと、なんかグルグル考えすぎてしまった。


「矢、1本貸して」


「まさか、アレをとるのかい?」


「れっつ、ちゃれんじ」


俺は近くに生えてたススキみたいな草を引き抜くと、その先端で水面を僅かに突く。イメージはフライフィッシングだ。

 あまり時間は掛けたくない、10分ほどして掛からなかったらキタァアアアア!

 水面からバシャリと音をたてて飛び出してきた。俺は必死に腕を伸ばすが、いきなりの事で反応が遅れ、見当違いのところへ突き出してしまった。

 しかし、咄嗟にその腕を横に振るい、空中の魚を川岸に叩きつける事に成功した。


「凄いな! 君は熊か! ひょっとして朝倒した熊の霊に取り憑かれてないか?」


ビチビチと跳ねる魚を必死に押さえながらサヤが叫ぶ。俺は自分がした事が未だ理解できず固まってしまった。


「いや、まさか捕れるとは思ってなかった」


俺はようやく一言絞りだす。

 我に返った俺は慌てて持っていた矢をエラに通す。バスの知識は無いが、スズキはエラの所が刃物のように切れる。コイツのエラがどうなっているか知らないが、持ち運ぶならこうした方が良いと思えたんだ。


 川岸から離れて、いざクッキング開始である。包丁とか無いので、鏃頼りだ。余り切れ味もよく無いので四苦八苦しながら、それでも2枚におろす事に成功した。

 次は火熾しだ。俺はまず、落ちている杉の葉をちょっとした小山のようになるまで集める。それから杉の皮を剥ぎ、その上に重ねていく。さらにその上に落ちている枝なんかを組んでいく。

 針葉樹の枯れ葉は油分をかなり含んでいるらしく、かなり燃える。ヤバイほど燃える。皮も燃えやすい。だか、ホントによく燃えてすぐ燃え尽きてしまうんだ。枝に燃え移るまで火が続いてくれるよう祈る。

 次に銃を取り出し、弾を抜く。抜いた弾はポーチではなく、ショットシェルホルダーに差していく。ベルトに1発1発、差し込む所があるのだ。

 そして、1発の先端をバラし、中の弾を抜く。中には12個の粒が入っていた。どう見ても鉛だ。これ、バラ撒くの自然に悪いんだってね。なるべく捨てないようにポケットに入れておこう。

 お次は葉っぱの上に零さないように火薬を抜き出していく。これに着火させようと思うんだ。

 抜いた火薬を零さないように杉の葉の山の根元部分に置く。あとは抜け殻になったショットシェルを銃に装填する。雷管は残っているから火花が飛び散る筈だ。


 パン!


 乾いた音が山に響き渡る。


 火 が つ き ま せ ん!


 まだだ、俺はもう1発バラすと今度は粒だけ取り出して、同じように引き金を引く。


 パカァアン!


 さっきよりも大きな音が響く。先にバラしていた火薬を吹き飛ばしたが、その火薬にも引火して瞬く間に火の手が上がる。


「おお! ナウ○カだ! 野生のナ○シカがおる!」


サヤには好評だったようだ。

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