#56 使者、ダブりました。
「伊達の輝宗公にお仕えいたす遠藤不入斎基信で御座います。お目通りが叶いかたじけなく存じます」
外交の使者としてやって来たのは伊達家の中でも話が通じる穏健派の文官、伊達輝宗の家臣の遠藤基信だった。実際、信長をはじめ、佐竹や田村、そのほかにもいろいろな家に手紙を送って揺さぶりかけたり親交を結んだりしている。
「こちらこそわざわざ足を運んで貰って済まない、だがそこまでして橋本家と話したい事というのが気になるところだが……」
人物的にはひとまず切り抜けたロシアンルーレットだったが、今までなんの縁もゆかりもなかった伊達家がいきなり乗り込んでくるのだから相当重要事項を抱えているのだろう。曲がりなりにも婚姻同盟を結んでいるのだから最上とこれ以上戦うなら伊達も参戦するという宣戦布告だろうか?
「実は少しばかり内密にして頂きたい御話が御座います……何卒輝宗公と盟をお考え下され」
輝宗と、という事を強調する基信。何も知らなければ親子で戦いでも始まりそうな空気なのか?と思う所だが伊達輝宗は最上義光の妹の義姫を正妻としている上に政宗をその義姫の反対を押し切って当主の座に据えたのは輝宗自身である。
他の当主に比べて奥手な輝宗の政策に不満はあれどもそれが親子間の乱に発展するほどでは無いはずなのだが……
「申し上げます!伊達からの使者が参った由に御座います!」
んんん?また伊達?
「では拙者はこれにて、同盟の件、良いお返事をお待ちして居ります」
初老の文官が同じ伊達家の使者を避けるように帰っていく。これは明らかに何かあるな……
暫く考えてから許可を出す。そうしてやって来た二人目の伊達家からの使者は……一目見ただけで誰だかわかった。
「橋本の野郎!早々に兵を退けと『奥州探題』伊達藤次郎政宗様からの直々の御綸旨をこの……」
「伊達成実、頭に毛虫付ける物好きがそう居てたまるか」
初めから交渉を決裂させるために送られてきたとしか思えない口調と人選である。馬鹿義道に比べれば何倍もマシではあるが……
しかし輝宗が健在で家督が譲られていない年にも関わらず既に奥州探題を名乗って居たり橋本に対して『綸旨』と称した命令書を押し付けて来たりといろいろな所に喧嘩を売っているという事からも元服して間もないだろうに相当暴れまわっているようだ。
「毛虫では無い!!百足だ!!戦場で一歩も退かぬ覚悟を示しているのだ!!」
「ならもう少し丁寧に作っとけよ。で、それはいいがそもそも何で奥州探題が羽州の方に首を突っ込んでくるんだ?」
そう。最上家も橋本家もどちらも出羽の国、羽州と呼ばれる地域の大名家で奥州探題がどうこう言える立場ではないのだ。いくらでも反論は出来るだろうけどな……飛び火するかも知れないとか……
「山形へ逃れた臆病者の先代、伊達輝宗を捕らえるべくして兵を進めている。最上の命運は輝宗と共に尽きるのだ!!」
……じゃ何で共通の敵を持つ橋本を除外しようとするんだ?近い将来戦う気なのは明らかだが……
「その後、藤次郎殿は山形へ入られる!故に藤次郎殿の道を阻まれるなという事だ!」
政宗さーん?こいつ派遣したのミスじゃないですかー?なんかいろいろしゃべっちゃってますけどー?
「要は最上領は伊達が貰うから邪魔するなって事か、断る。欲しければ俺達から力ずくで奪えと言っておけ」
そんな易々と手を退いてたまるか、それに政宗ならそのうち和平もなんもかも全部無視して殴って来るだろ。
政宗と輝宗の間の戦いは俺は全く知らない事ゆえに未だ信用ならないが本当に戦っているのならば俺は輝道側に着こう。政宗の竜騎兵ごとき戦車隊で破ってやる!
「後で悔いて泣きつく事になっても知らねぇからな橋本の野郎!!」
そう言い捨てて広間を出ていく成実、こいつ捕らえようかとも思ったが流石に橋本家の信頼がお亡くなりになるので思いとどまる。
別に使者を切るなという不文律があった訳ではないがたとえ敵国の使者が城にやって来たとしても普通ならその使者は交渉に失敗しても生還出来る。
というのもこれを切ってしまうと新たに配下に加わる家臣の不信や領民の不信を招きかねないからだ。まぁ開き直って翻意の確認に来た黒田官兵衛を土牢に放り込んだ荒木村重という例も無いことは無いが……
成実が出ていってから十分に時間を取った後でその場に居た最上攻めに参陣している家臣団に言う。
「今の輝宗と政宗それぞれからの使者の様子を見て貰えれば一目瞭然だと思うが橋本家としては味方するなら輝宗側に付きたいと思う。異論はあるか?」
特に誰かが何かを言い出す事はなく、異論は無いとして話を進める。
「よし、それならばすぐにでも山形城を包囲するように兵を進めるが、義光、輝宗のどちらとも戦うな。山形城を囲み次第、義光宛で伊達親子の対立の真偽を確認する矢文を飛ばせ」
「承知しました」
「じゃ今言った通り天童城の橋本軍を集めろ!山形へ向かうぞ!!」
「「「ははっ!!」」」
かくして新たな戦いの予感と共に最上攻めを迎える俺達橋本軍であった……ちょっと順調すぎて怖いんだが大丈夫だよな?全部義光の策なんて事は無いよな?一応本国の工場に戦車増産の指示も出しておこう……




