#05 空き城、攻められました。
「航太夫!大変なことになってしもうたぞ!明日にでも小野寺の将というものが手勢を連れて押し寄せると言い出しおった!」
俺の居ないうちに小野寺の小清水蔵人と名乗る者が大沢へやってきて、廃された館で何をしているのか大沢の村人に問いただした所、最近流れ着いた怪しげな武士『橋本航太夫』なる者の根城となっており、これはこの地を治める小野寺景道様への一揆の一環と見做す、と一方的に宣告し、明日までに沼館へ『橋本航太夫』を捕らえて連れてくるよう言い残していったという。
小清水蔵人と言えば戸沢盛安が夜叉九郎だの鬼九郎だのと言われるようになった所以となったお相手、だったはず。
しかし、これに素直に従った所で小野寺輝道の兄、沼館城代の大築地秀通がお咎めなしに俺を開放してくれるとも考え難い。
そうすると自ずと取るべき行動は決まってくる。
「そうなったなら本気で大名やるしかなさそうだな!」
「いや航太夫よ!何を言って……」
「俺は大沢橋本家初代当主『橋本航太』を名乗る!」
「ってやれば一揆から大名家同士の争いに格上げされるだろ?」
「して航太夫の殿サマさんよ、いかようにして小野寺の手勢を退ける腹積もりで?」
兵三さんが尋ねる。
「大沢の村人たちが協力してくれるとかなり楽にはなるが……俺が果たしてこれまでの間に何処まで信頼を得られているかによるな」
「一応、お前さんにも考えはあるんだな」
「どのみち明日で大沢の独立も仕舞いならここしばらく村の為にいくらか尽くしてくれた航太夫に付いてってみる方がいいんじゃねぇのか?」
茂造さんが明るく開き直り、ところどころから賛同の声が聞こえてくる。そして、この村が比較的余裕があった理由が分かった。どこの家にも支配されていなかったから税を納める必要がなかったからだったのか。
「なら決まりだな、航太夫サマよ!俺はついていくぜ!この大沢と軟弱なお前さんを守るためにも!」
俺も、俺もと次々と声が上がっていく。案外、誠実さも侮れないなと思いながら訂正とツッコミを入れる。
「航太です。それに脆弱って何ですか!とにかく有難うございます、皆さん」
「良いってことよ!で、俺たちは何をすりゃいいんだ?」
「そうですね……まずは……」
兎にも角にも武器がないと戦いにならない。幸い、村に猟師はいたので弓の生産にさえ困る事はなく、弓の生産をまずは依頼した。
実際に敵に矢を当てようとするのであればしっかりと訓練をしないといけないはずなのだが今回は時間が全く足りない。なので敵の撃破にはもっと別の方法と俺の持ち込み品唯一の武器、レーザー小銃を活用する。フル充電に手回し発電機何時間分必要か考えただけで気が遠くなるけど……
そして別の方法についてだが、一つは「石落とし」攻撃を考えている。しかしそもそもこの元「館」の大沢城に石落としの為の設備(本来は設備の方を「石落とし」と呼ぶことが多いらしい)など在る訳がない。あんなのはもっと巨大なしっかりとした天守閣を持つ城にしかない。
なので何か新しく石落としの代わりになる装置が必要なんだけど……少し工作をするので潤沢な木材と縄を大沢城に持ち込むように指示。村の人たちは何に使うのかと「?」を出しながらも取りに行ってくれた。
最後にもし小野寺方がこの城を包囲して来た時に備えて水と食料を城に運び込むように指示、流石にこんな片田舎の一揆扱いの戦いに大軍を投入する訳がない、せいぜい来ても50人程度だろうと高をくくっているので多分、ここまで準備すれば何とかなるんじゃないかな?
甘かった、そこらの清涼飲料水なんか問題にならないぐらいに俺の考えは甘かった。
「航太夫!小野寺の将が兵を率いて沼館から出て来よったぞ!」
「宣言通りか……数はわかるか?」
「それが……」
「100人程は……」
「100!?」
このころの小野寺氏の石高は五万石、つまり一万石250人の計算だと1250人程度の兵数が動員できる。お隣戸沢氏も四万石で1000人程に加えて鉱山の収入があるので同数か少し多いぐらいだと思うけどその戸沢氏に対する守りを薄くしてでも大沢の俺を倒しておきたい、という事なのか……
少し備えが足りなくなるかもな……これは初戦から厳しい戦いになるかな……
などと考えていると追洲流の旗印を数本持った軍勢が現れ、その先を一騎だけこの大沢城に向かってくる兵がいる。
「航太夫!一人向かってきやがるぞ!」
「撃つな、それは多分小野寺方の使者だ」
予想通り、騎乗した兵は城の前で止まると声を張り上げて、
「小野寺遠江守様(小野寺輝道)が兄、大築地織部様(大築地秀通)が家臣、この小清水蔵人、橋本航太夫なる怪将に織部様に下るよう告ぐ!従わぬとあらばこの場にて成敗してくれよう!!」
仮にも大将だろうに一人敵城の前に突っ立って名乗り出るとは威勢の良い武将だな、もちろん降伏するつもりなんて一切ないけど。
といってもその場から動いてもらわないことには小野寺軍も倒せないしこのまま夜になると困るのでこちらからも返事はしておく。
「橋本整備士航太、秀通からの通告のお勤めご苦労だ。無論、俺達は降るつもりなど毛頭ないがな!」
「旗を揚げろ!」
大沢城の村人が一斉に橋本の丸に違い鷹の羽の描かれた旗印を掲げる。一人一本は揚げることで実際より多くの兵が城内にいるように見せかけ……られるかな?旗印は一郎丸が言いに来た幕と一緒に送られてきたものだ。
「なれば云う事もあるまい、者どもかかれ!」