#04 村づくり、はじめてみました。
俺が思いつけたのは所謂現代チートのひとつ、歴史を既に知っているという言うなれば『歴史知識チート』のおかげだ。
江戸時代までは僅かではあるが牛などが犂を引いて土地を耕すという事も行ってきたようだが主流になったのは明治時代以降で出羽国の小さな村に伝わっているはずもない、村に馬がいるのにもかかわらず全く使われていないことからそう判断できた。
「馬に鍬を引かせるだぁ?」
「その考えは思いつきもしなかったな」
「だが鍬をそのまんま引かせるだけじゃうまくいかんだろぅ?」
「そこで登場するのが犂ですよ、問題はこれが入手できるかどうかがあるけれど……和尚さん」
「実は、その犂なんじゃが一つだけ寺に寄進されていての、見よう見まねで寺の者達で作ってみたんじゃ」
そういって寺の僧が運んできたのは俺が畑に死にかけながら行った帰りに寺に依頼した犂だった。
「これを馬に引っかけて曳くだけで土が耕せると、どこまで効果があるかはわからないですけどね……」
「ようし、航太夫!そういう事ならこれを畑まで持ってくぞ!」
「え゛俺も?」
「当たりめぇだろ!お前が言い出しっぺなんだからな!」
「ぐふぅ、我が生涯に多くの悔いあり……」
「この程度でへばられるのも考え物なんだがなぁ……」
乱暴者の宣言通り、あれから毎日が体育だ。しんどい。
しかしあの後運ばれた犂は好評で、調子に乗って相当畑を広げたらしい。相変わらず木の根を撤去する作業には苦しめられてはいるけど。
これで問題一つ目は改善された。
そしてもう一つは『輪作』と『二毛作』の導入だ。
これは今すぐに変えられるものではないけど、秋になったら本格的に作業を始める。
東北地方の地勢の宿命でもある冷害対策は不十分だけどももともとの生産力を上げることから始めないといけない、という事で村の人達に説明してみた。
……もちろんこれらはゲーム知識から来ている。輪作は中世最強の生産力向上の研究で絵も輪作の模式図になっているのと合わせてしっかり覚えていたからこそ説明も楽だった。二毛作は歴史の教科書を引っ張ってくることになったけど。
「兄さん、噂の江戸から来たっていう変わり者かい?」
えぶりでぃ体育という異常スケジュールの中、村でなんちゃって商人みたいな人に声をかけられた。
って大沢には商人はいなかったはずなんだけど……?
「ああ、そうです、あなたは?」
「湊の商人、河島屋の甚兵衛と名乗る者さ。河島屋は羽後の国に出向いて商売をさせてもらっていてな、変わり者がいると聞いてついでに寄ったって所よ!」
「湊、というと安東の所か」
「確かに湊の豊島九郎(安東通季)様だが、あっしはただ商売しに来てるだけでっせ?兄さんなんか買ってかんかい?」
並べられているものは……絹糸と素朴な髪飾りに、塩や釜、何かの種なんかがある。
「甚兵衛だっけ?この種は?」
「そいつは綿の種だな、ちょいと高くつくが、欲しいか?」
「ってそうか、金は何を使えばいいんだ?」
「銭だな、綿の種はここにある九つで30文(3000円程)だ」
「30文か、何か売ってその金でなら買えなくないけども」
「買い取るのはなるべく軽いもんで頼みまっせ、重いもんは持ち運び辛いんでな」
「うーん、そしたら今回はパスだな、魚や木材なら結構あるんだけども」
「そうか、ならって兄さん今、材木って言ったな?」
「ああ言ったけど何か?」
「角館の治部大輔(戸沢盛安)は知ってるな?このごろ治部大輔が町をつくっとって角館やそこらじゃ材木が足りなくなっていてな、戸沢に取り次いでやるからそこに材木を売って銭を稼いであっしらの売りもんを買ってくれんか?」
「甚兵衛、お前どこの回し者なんだ?」
「とんでもねぇ!ただの商人でさぁ!」
「湊の商人甚兵衛、この度戸沢の家に材木を売らんとする者を聞き及びました故参上いたしました」
後日、甚兵衛と俺、それに兵三さんを加えた三人で戸沢家臣、前田氏の治める大曲城に向かった。材木を売って銭を手に入れるためだ。
村の林の伐採自体は特に反対はされなかったし、開墾の時に伐採した木も若干ある。
「面をあげてくれ。大曲城の城主で戸沢盛安の家臣、薩摩守前田利信だ。材木を売るという者とはそなたの事か?」
「はい、大沢城主橋本航太です。本日は甚兵衛の取り次ぎの下、材木についてご入用ならと参りました」
「そう硬くならないでくれ、城主ともあらばよもや身分は等しいものよ」
前田利信は戸沢盛安の家臣で初老の爺さんのように見える割には砕けた人柄だった。
念のため盛安に確認を取ってから買うと言って、面会は終わったがあの様子なら確実に買い取ってくれる風だった。
史実によると今年、1582年中に赤尾津家保と羽川義稙にここ、大曲城を攻撃され利信が討ち死にするらしい。
というかその事を帰ってゲームで調べて初めて知った。これは利信さんと弟さんを守らないと材木どころじゃなくなるかもしれないぞとプチパニック中。
更に悪い報せが大沢に帰った俺を待ち受けていた。
「航太夫!大変なことになってしもうたぞ!明日にでも小野寺の将というものが手勢を連れて押し寄せると言い出しおった!」